日経メッセ > リテールテックJAPAN > ニュース > ビッグデータで武装せよ――楽天、表示内容、会員別に(進化するMIT)

日経の紙面から

ビッグデータで武装せよ――楽天、表示内容、会員別に(進化するMIT)

[ 2012年2月24日 / 日経MJ(流通新聞) ]

クリック率10倍も

 IT(情報技術)の進化は消費の現場で生まれる膨大なデータを収集し分析することを可能にした。こうした「ビッグデータ」が本当に売り上げを底上げするのか、懐疑的な見方は少なくない。しかしビッグデータを武器にしたマーケティングはウェブの世界を飛び出し、現実店舗でも威力を発揮し始めた。顧客の心理と行動に密着する手法が再び、脚光を浴びようとしている。(関連記事7面に)

 楽天のネット通販サイト「楽天市場」のトップページ。あなたが見ているページは、隣の人のものとつくりが違う――。

 約7500万人の会員ごとに「ほぼ100%、パーソナライズしている」。グループコアサービス部の景山均部長は明かす。

 2月1日、同社に100人以上を擁するビッグデータ部が誕生した。分散していたデータ管理・分析業務を集約。分析速度を上げ、ウェブ上の人間関係の相関を示すソーシャルグラフの解析にも挑む。同社が時々刻々と蓄積される顧客データに着目したのは2007年。ビッグデータ部が引き継いだ知見の裏には5年間の試行錯誤がある。

 トップ画面のつくりはその一例だ。10以上の区画に分け、各区画で表示する内容や表示時間を会員ごとに変えている。

 ファッション、食品などジャンルの一覧を並べる順番は男女で異なる。購買履歴や行動特性、嗜好などをもとに、購買意欲を刺激しそうな推奨商品を割り出し掲載する。

 "個人向け"ページの狙いは何か。楽天は通販モールのほか旅行、証券、通信、クレジットカードなど11分野で事業を展開。消費者はひとつのIDでそれぞれのサービスを利用できる。複数のサービスを利用する会員を育てられれば各事業の相乗効果が生まれ収益力は高まる。こうした会員は「楽天への愛着が高く、1人当たり支出も多い」(景山部長)からだ。

 そのためにまず各事業ごとに保持していたデータを集め、データウエアハウス「楽天スーパーDB」を築いた。全会員の属性、購買履歴、趣味や関心などの登録情報、カードやポイント、クーポンの情報、ログイン情報などを集積する。これらのデータを基本属性、購買やサイト内での行動の傾向、消費態度の特徴の3つの切り口から分析、人口統計など外的なデータを重ねたうえで「全会員を数百のグループに分類する」(景山部長)。

 グループは例えば「家事は任せて」「グルメ大好き」「お手軽ビューティー」「家でじっくり派」などだ。商品・サービスの推奨やメール配信では、グループの数をさらに20〜30に集約し、簡素化して運用する。

 効果はみえてきた。例えばゴルフ場予約サイト「楽天GORA」。かつて利用しながらここ数カ月、利用がない人を2つに分け、一方に楽天市場のトップページで「ゴルフ場予約サイトはこちら」などゴルフ場関連のアイコンを集中して表示した。結果は多様なアイコンを表示したグループに比べ、10倍のクリック率を記録した。

 配信を希望しない人を除く全会員に楽天市場が送るメールマガジンで、「グルメ大好き」といったグループごとに的を絞って配信したところ、一斉に同一内容のメルマガを送っていた従来に比べ開封率は数倍となった。

 楽天会員の2サービス以上の利用率を向上させる所期の目的も達成しつつある。09年6月時点の38・2%から、11年6月には46%と、7・8ポイント上昇した。

 グローバル展開をにらむ同社にとって、データの収集力と解析力を高めることが、海外有力企業に伍(ご)するための必須の課題となっている。これまでの取り組みは、ビッグデータの活用が消費意欲を刺激する、という仮説を証明しつつある。

クックパッド スーパーを支援

「もう1品」の提案力強化

 レシピサイトを運営するクックパッドは今春、東急ストアやたいらや、愛知県地盤のヤマナカなど全国の食品スーパー7社と提携、会員情報をやりとりする態勢を整える。クックパッドの藤井亮助マーケティング支援事業部プロジェクトリーダーは「小売業と組むのは初めて」と意気込む。

 提携によって、クックパッドにはサイト閲覧者の実際の購買行動がわかるようになる。月間約1400万人が訪れ、閲覧ページ数が4・7億に上るクックパッドにとって会員の購買行動を知ることに2つの意義がある。

 ひとつはサイト利用の満足度の向上だ。クックパッドは提携後、あるサービスを準備している。

 会員がレジでスーパーのポイントカードなどを提示し買い物すると、同社に購入情報が入る。帰宅した会員がサイトを開くと、同社はその情報を基に、「あなたが買った食材を使えるレシピ」を自動的に提案する。会員は購入した食材を入力して検索する手間が省け、購入した食材を無駄なく調理できる。

 もうひとつはメーカーなどに販売している、消費者の嗜好データの精度の向上だ。レシピの検索履歴の解析で得られる情報は推測の域を出ない。しかし購買情報と合わせれば、食卓に並んだメニューが詳細にわかる。「対象範囲が全国にわたる広さが魅力」(大手食品メーカー)との評価もある。

 解析データの増大に伴い、昨年の秋約200台のサーバーをすべて米アマゾングループのクラウドコンピューティングサービスに切り替えた。

 もっとも、より直接的に成果を期待できるのはクックパッドと組むスーパーの側かもしれない。

 スーパーの期待は「売り逃しを防ぐ」ためと「買い上げ点数をアップさせる」ための情報にある。店舗で購入した食材が家庭でどのように使われているかが分かれば、店を訪れる客の好みや傾向に応じた売り場づくりやチラシ編集ができる。

 将来は店舗で随時、個々人に照準を合わせた販促策を仕掛けられる可能性もある。例えばあるレシピを見て来店した客に、そのレシピと取り合わせのよい他のレシピや食材を提案すれば買い上げ点数を増やせると期待できる。「(POSデータなどの)過去の実績は指標にはなるが、役に立たないことも多い」(たいらや)という悩みを解決できるかもしれない。

活用可能性幅広く

グーグルなど海外勢先行

 米調査会社IDCは2020年には世界のデジタルデータの量が09年の44倍の35ゼタバイト(ゼタは京の10万倍)に達すると予測する。データの収集・利用範囲も広がる。例えば農業分野では天候や土壌の情報をセンサーで収集、田畑の栽培管理に役立てる。病歴や治療結果、医療費データなどを活用すれば薬禍を防ぎ社会が負う医療費負担も抑制できる。

 マーケティングにビッグデータをどう活用するか。消費者の行動分析に基づくワン・ツー・ワンマーケティングやプロモーション戦略に目を奪われがちだが、実は製品開発や価格決定、在庫や品質管理などあらゆるマーケティング要素に生かせる潜在力がある。

 現実の成果を得るにはデータの蓄積・分析・利用の環境を整える支援事業者と利用事業者の協業が必要になる。例えば、米フォードはグーグルのデータ分析クラウドの機能を利用して新車開発に取り組み始めた。

 膨大なユーザーデータを世界規模で保有するグーグルやアマゾン・ドット・コムなどは支援者の立場で成長するだけでなく、ビッグデータを自社の競争力の源泉にしようとしている。SNSサービス「グーグル+」の開始や、アマゾンのタブレット端末発売は、従来は獲得できなかった個人の行動や思考の傾向を集積する動きだ。

 「ネット関連事業を中心に、国内勢はこうした海外陣営との競争にさらされている。ビッグデータの活用を迫られる段階に入った」。野村総合研究所の鈴木良介主任コンサルタントは指摘する。

 データを活用すれば必ずめざましい成果が得られるというわけではない。しかし、有用かどうかを議論している余裕はない。役に立てる戦術を考え、まず「小さく始めて、分析の実績を積み上げていく」(鈴木氏)方が建設的だ。(井土聡子)

 ▼ビッグデータ デジタル機器の進化に伴って収集できるデータはより細かくなり、即時性も高まった。例えば決済情報と交友関係といった、従来はヒモ付けできないような個人情報を系統立てて整理できるようになった。これらの情報の集合体がビッグデータで、当然、莫大な量となる。ビッグデータの活用はワン・ツー・ワンで、またはリアルタイムに、といったマーケティング手法の可能性を広げると期待される。

ニュースの最新記事

PAGE TOP