日経メッセ > リテールテックJAPAN > ニュース > AI番頭、繁盛店に衣替え、客の属性・動き解析、脱・勘頼み、VB、未開の地流入(ファッションテック改革の担い手)

日経の紙面から

AI番頭、繁盛店に衣替え、客の属性・動き解析、脱・勘頼み、VB、未開の地流入(ファッションテック改革の担い手)

[ 2017年7月28日 / 日経産業新聞 ]

 市場がピークの3分の2まで縮んだ国内のファッション産業。今後も大きな成長が期待しにくいにもかかわらず、次々とベンチャー企業が押し寄せている。ただ、彼らは衣料品を売るわけではない。人工知能(AI)などの先端技術を駆使し、業界特有の「ムダ」を省く改革の担い手だ。他産業より効率化が遅れているファッションとテクノロジーを融合させた「ファッションテック」の波が押し寄せる。

 古着などトレンドを捉えた品ぞろえで若者の支持を集めるカジュアル衣料品店「WEGO」。全国展開するまでに成長した同店を陰で支える企業がある。2012年創業のAIベンチャー、ABEJA(東京・港)だ。

 WEGOは2000年代半ばから本格的な多店舗化に乗り出した。店舗網は急拡大したが、すべての店が想定通りに動くわけではない。売りたい商品がなかなか売れないといった悩みも増えるなか、15年冬に主力店の「ららぽーと横浜店」(横浜市)でABEJAの技術を導入した。

通路幅広げ
数十センチで効果

 まず、店内に複数のカメラを設置して来店客を撮影。AIを駆使して客の画像データなどから性別や年齢などを高い精度で瞬時に判別する。深層学習(ディープラーニング)により、データが増えるほど精度が向上。客が店内のどこを歩き、どこで商品を手に取ったかなどを詳細に分析できるようになる。

 店内の通行量や滞在時間を示す「ヒートマップ」も活用。どの通路をどういった客が多く通っているかといった情報を目に見えるようにする。実際にABEJAが示したデータを見れば一目瞭然だった。商品の棚が通路を狭め、客が主力のニット製品のコーナーまで足を運べていなかったのだ。

 そこで、棚を数十センチメートル動かして通路を広げると、目に見えてニット売り場に足を運ぶ人が増加。売上高構成比が2%も高まった。WEGOはその後もABEJAのシステムを活用しながら店舗改善を続けている。

 衣料品などの小売店の店づくりは店長の個性や感覚に負うところが大きい。ABEJAは判断材料となるデータを誰もが見える形で示し、論理的な判断をするための土台をつくる。

 イオンモール熱田(名古屋市)にある寝具販売店「トゥルースリーパー熱田店」。テレビ通販番組「ショップジャパン」を運営するオークローンマーケティングの直営店だ。マットレスのほか、パジャマやタオルなどが並ぶ店頭は、15年10月のオープン当時と今では様変わりしている。

 ここで活躍したのもABEJAだ。当初は通販と同様に60代以上の女性をターゲットとして、主力のマットレスを中心にそろえていた。ところが、販売が思うようには伸びない。16年8月から店内にカメラを設置し、顧客分析を始めた。わかったのは来店者の男女比は半々で、30〜40代の購入者が多いことだ。

 「テレビ通販とは顧客層が全然違う。意外だった」。オークローンマーケティング営業統括本部の小川雄一郎次長が振り返る。若い人向けに数千円台の買いやすい価格帯の商品を増やすと、来店客の買い上げ率は45%と10ポイントも高まった。

 17年には桑名店(三重県桑名市)にも導入。レジに集中していたスタッフを分散配置し、効率的な接客につなげている。「人の肌感覚だけを信じて変えるのは難しい。しっかりとしたデータがあれば、投資もやりやすくなる」(小川氏)

百貨店など
70社300店導入

 どんなに綿密な計画を立てても想定通りにはいかないことの方が多い。発生する「ズレ」をどうつかむか。ABEJAの岡田陽介社長は「オペレーションしながら来店者数や属性を把握するのは本当に難しい」と強調する。サービスを導入したメガネ店では、実際の来店者数とスタッフが数えていた来店者数に10倍の開きがあったほどだ。

 集めた正確なデータをPOS(販売時点情報管理)レジの情報と組み合わせると、「来店者数自体が足りない」「来店しても買ってもらえていない」など課題がより明確になる。すでに、三越伊勢丹ホールディングスなどの大手を含めて70社300店以上がABEJAのシステムを導入。レイアウトや商品仕入れを変更し売り逃しの削減につなげている。

 技術力の高さを証明するように、ABEJAには伊藤忠商事や産業革新機構などが相次いで出資。画像処理半導体大手の米エヌビディアも出資者に名を連ねる。岡田社長は「第4次産業革命のプラットフォーマーになる」と、グローバルでの展開も加速する考えだ。

 国内衣料品市場は9兆〜10兆円と、ピークだった90年前後の3分の2に縮んだ。百貨店を販路とする大手アパレルは業績不振から店舗閉鎖や人員削減などリストラに追われているが、逆に技術力のあるベンチャーから見れば手つかずの「ブルーオーシャン」に映る。

 「ファッションが最も課題が大きい」。AIベンチャー、カラフル・ボード(東京・渋谷)の渡辺祐樹社長は言い切る。同社はAIが消費者の好みを学び服などを提案するアプリ「SENSY」を手掛ける。紳士服大手のはるやまホールディングスや大手アパレルのTSIホールディングスとも提携。生産量の最適化やダイレクトメールの改善などに取り組む。

 「売れない商品が売れるようになる選択肢を作りたい」。ウィファブリック(大阪市)もファッション業界の旧弊に挑む。7月に始めた「スマセル」は、ファッション企業同士が在庫品を売買する。個人間で不要なモノを取引するフリマアプリ「メルカリ」の企業版とも言えるサービスだ。

 東京・原宿では今春、「技術でファッションを変えたい」という人材を育てる専門学校も誕生した。冷え込みが厳しいファッション市場だが、ベンチャーが技を競う場として熱気を帯びる。

(岩戸寿、吉田楓)

【表】テック企業がファッション業界に参入
      企業名と主な事業内容
売り場   ABEJA
       AIによる画像分析で効率的な売り場を提案 
      カラフル・ボード
       消費者の服の好みを学習するAI「センシー」を開発 
ものづくり ライフスタイルアクセント
       中間業者を介さず工場発ブランドを販売する「ファクトリエ」を展開
      ステイト・オブ・マインド 
       縫製職人と消費者をネットでマッチングする「ヌッテ」を展開
在 庫   ウィファブリック
       企業同士が在庫を売買する「スマセル」を運営

ニュースの最新記事

PAGE TOP