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ネットリアル小売り新局面(上)生鮮品が主戦場に――アマゾン「店が倉庫」、物流、変革の起点。

[ 2017年8月8日 / 日本経済新聞 朝刊 ]

 世界の小売市場でネットとリアル(現実)の融合が新たな局面を迎えている。米アマゾン・ドット・コムが高級スーパーを買収してリアルの世界に足を踏み入れ、新興国ではスマートフォン(スマホ)の決済を前提にした消費の形が急速に広がる。企業から消費者まで全体を巻き込んだ変革が進む。

 「物流でお役に立てると思います」。今年3月、セブン&アイ・ホールディングスの井阪隆一社長はアスクルの岩田彰一郎社長からこう持ちかけられた。井阪社長は倉庫で大規模火災が発生したアスクルに支援を申し出たつもりだったが、逆に助け舟を出された。

 セブン&アイはアスクルとは別の危機に直面していた。ネット通販の拡大だ。セブン&アイも10年以上前から手がけてきたが、売上高は1000億円弱と全体の1%未満にとどまる。

 ネットスーパーは注文が集中すると欠品や遅配もあり、利用者からは「雨の日は商品がなかなか届かない」といった声も出ていた。小売業界の王者である同社にも焦りが募り、アスクルにもその苦境が見えていた。

 アスクルは大都市圏に自社で物流網を張り巡らせ、1時間刻みで指定された時間に家庭に商品を届ける。7月6日、両社は業務提携を決め、11月に生鮮の新しいネット通販を始めると発表。井阪社長は「配送体制を抜本的に見直す」と強調した。アスクルの力を借りながら事業モデルを一新する考えだ。

 セブン&アイを動かしたのは米アマゾンの存在だ。

 ネット通販の売上高は日本で1兆円を突破し、4月には生鮮食品の宅配サービス「アマゾンフレッシュ」も始めた。米国では6月に高級スーパー、ホールフーズ・マーケットの買収を発表。ついに生鮮食品というスーパーの最後の牙城にまでネットの波が及び、主戦場に浮上してきた。

 ネットで成長してきたアマゾンのリアル店舗の活用法は、従来の常識とは異なる。約1・5兆円を投じて手に入れる460カ所の店舗は、あたかも「倉庫」のように位置づける。

 野菜などの生鮮品は管理が難しく、書籍や衣料品のように大型倉庫で長期間の保管ができない。だが消費者の自宅近くにある店を冷蔵倉庫として使って宅配すれば課題を解決できる。複数カ所に散らばった拠点を生かし切る小口分散型のシステムだ。

 影響は物流だけにとどまらず今後、消費者の行動や働き方にまで及んでいく可能性がある。

 例えばホールフーズが提携した米ベンチャー、インスタカートのサービス。同社は消費者からスマホ経由で注文を受けた商品をあらかじめ社員が店内を回ってそろえておき、忙しい消費者が仕事帰りなどにピックアップできるようにする。

 逆に時間がある消費者には、別の消費者への宅配を依頼し、人員が不足する店の配送を代行してもらう。こうしたシェアリングサービスは店舗と消費者の双方にメリットがある。店舗を倉庫に見立てることで新しいサービスが広がれば、人の動きも変わってくる。

 小売業は主役交代の歴史を繰り返してきた。米国ではメイシーズが百貨店で一時代を築いた後、多店舗展開で安さを売りとする大型スーパーが盟主の座を奪った。日本でも三越からダイエーに首位が入れ替わり、その後コンビニエンスストアが台頭。いま世界中でネット通販が勢いを増し、また時代の転換点に差しかかっている。

 「世の中にアマゾンしかない状況は生活者にとって快適ではない」。7月6日の記者会見で岩田社長はこう強調し、井阪社長も同意してみせた。アマゾンへの対抗軸をつくり出すには、ネットとリアルの双方の強みを取り入れて新たなビジネスモデルを構築する創造力が必要になる。

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