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コンビニ、生産性向上の鉄則――人を基軸に、機械を脇に(経営の視点)

[ 2017年8月28日 / 日本経済新聞 朝刊 ]

編集委員 田中陽

 千葉県松戸市の水戸街道沿いのコンビニで昨年9月、一風変わった看板替えがあった。中堅の「スリーエフ」が「ローソン・スリーエフ」に。スリーエフの名を残すが、運営はローソンが担う。オーナーも従業員もそのまま。店も駐車場の大きさも変わらないが、劇的に変わったことがある。女性の客数が大きく伸び、1日当たり売上高が1年前に比べ2割も増えたのだ。

 コンビニは24時間営業が原則、扱う商品は弁当など食品が中心。外見も似たり寄ったりだが、運営主体によって業績は差がつく。店のオーナー、佐々木一弘さん(49)も「同じコンビニ、同じ24時間なのに」と驚いた。売上高が伸びたからだけではない。仕事の進め方が別物だったからだ。

 新製品が毎週、棚に並び、3000に満たなかった品目数が独自商品を軸に4000に増え、売り場づくりに追われた。佐々木さんたちは当初、ローソン流の働き方を覚えるのに「悲鳴を上げた」という。

 だが、混乱が収まり、結果が数字で分かると疲労感が充実感に。スリーエフ時代、周辺の競合コンビニの充実した品ぞろえを見た時の徒労感とは大きく違う。

 足の踏み場もなかった店内倉庫は片付き、今では打ち合わせもできる。商品力、精緻な情報システムで商品回転数が上がり、無駄な在庫が消えたためだ。見切り品の選別や廃棄という後ろ向きの仕事が減れば、接客時間が増える。感じるのは、働く手応えだ。佐々木さんの妻は「笑うことが多くなった」と振り返る。

 有力コンビニは狭い店でも高収益をたたき出す。自動化、省力化の努力を惜しまないが、最大手のセブン―イレブン・ジャパンはあえて聖域を残している。商品や数量を決める発注業務だ。天候、販売傾向、地域情報などを参考に仮説を立て、端末に発注量を人が判断して入力する。実際に仮説通りだったかを検証し、次の発注に生かす。

 セブン本社1階の店で働く大学生の姉崎拓弥君(22)は今夏、スープ総菜の発注量を2倍にして売り上げを増やした日がある。天気予報で、猛暑から一転して翌日の気温が低下することを知り、強気に発注。「度胸もいった」が、データを参考にスープ総菜は体感する温度差で売れ行きが決まると読み、当たった。

 流通業界は省力化のために自動発注の導入が進むが、セブンは一線を画す。「商人」の意志を発注に込めれば、生産性向上を狙えるからだ。仮設と検証を繰り返し、発注の精度を高める。自身の成長も実感し、仕事も楽しくなる。姉崎君のバイト暦は3年になる。

 ダイエー創業者の中内功氏は「私とコンピューターとパートがいればいい」と語り、社員をグループ企業に大量出向させたことがある。人心は離れ、本体の業績は傾いた。8時間労働のパートの勤務体系を休憩(1時間)の必要ない4時間刻みにすると、長く働きたい優秀なパートは同社を去り業績は一段と悪化した。

 労働集約な小売業の生産性向上の議論は人の仕事を機械に置き換えることに進みがちだが、小売業で働く意味、醍醐味を知らないと机上の生産性向上になりかねない。

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