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移動スーパー、国も動かす、道の駅、大手スーパー、コンビニも参入、店舗減少、買い物弱者700万人。

[ 2017年9月25日 / 日経MJ(流通新聞) ]

住民の「井戸端」に 課題は採算性

 食品や日用品を満載したクルマで店舗のない地域を巡回する「移動スーパー」。現状数百台とみられる車両数は今後数年のうちに2000台程度にまで増える勢いだ。急速に進む高齢化と店舗の減少は小売り各社に参入を促し、中央省庁に規制緩和を迫る。「移動スーパー元年」とされる2017年。地域社会を支える移動スーパーの今を探った。(関連記事5面に)

 16年12月、全国で初めての「道の駅」の移動スーパーが栃木県佐野市を走り始めた。手掛けるのは道の駅「どまんなかたぬま」。2台のトラックを使い、水曜日を除く週6日、周辺地域を回る。18年にはもう1台、トラックを追加する予定だ。

 「今後、地域で商売をしていくためには移動スーパーが欠かせない」。参入の理由をどまんなかたぬまの篠原敏秀社長はこう話す。地元の栃木県南部は那須や日光を抱える北部に比べると観光客に期待できない。「超高齢化社会で道の駅が生き残るためには地域に不可欠な存在となる必要がある」。その答えが移動スーパーというわけだ。

 参入にあたっては移動スーパー最大手、とくし丸(徳島市)と組んだ。車両1台当たり50万円の導入契約料と月々3万円のロイヤルティーを支払い、品ぞろえやドライバーの確保・育成などで支援を受ける。

 とくし丸が提携するスーパーなどは現在、いなげやや天満屋ストアなど地場大手も含む約80社。全国で約230台の移動スーパーが走る。今も住友達也社長のもとには500件以上の問い合わせが舞い込む。18年度末までに全国500台を目標に掲げる。

 経済産業省の商業統計によると、全国で一定以上の食料品を扱うとみられる小売店の数は14年調査時点で約24万件。20年前に比べると58%も減った。大半は個人経営などの小規模店舗が占めるものの、過疎化などで撤退を余儀なくされたスーパーも少なくない。

 一方、人口に占める65歳以上の割合を示す高齢化率が東北や四国の13県で30%を超える。近隣に店舗が存在せず、日々の買い物に不便を感じている「買い物弱者」は経済産業省が14年に示した推計で700万人。交通事故防止のために高齢者に運転免許の返納を促す機運が高まるなか、この数は着実に増えている。

 とくし丸を追うように流通大手も動き出した。

 コンビニエンスストアのローソンは現在、常温のみと冷蔵・冷凍にも対応するタイプを合わせ、約70台の車両を持つ。これを18年2月までに200台に増やす。

 大分県杵築市。6月に移動スーパーを始めたローソン杵築北浜店は地元のスーパー「Aコープ九州」「コープおおいた」と組んだ。コンビニ店舗にはない肉や魚などの生鮮食品をAコープなどから仕入れるためだ。店舗同士はライバルとなるものの、「コンビニの出店余地が狭まり、高齢化も進むなか、既存の事業範囲にこだわっていては展望が開けない」(移動販売・お届け事業推進部の戸津茂人マネジャー)。

 セブン―イレブン・ジャパンの野田静真取締役は「20年前には特異なニーズだった移動販売が今は全国共通になった」と話す。19年2月までに現在約50台の車両を105台にする計画だ。スーパー最大手のイオンも16年から、震災被災地などで手掛けてきた移動スーパーを拡大。17年に入り、茂原市など千葉県の一部でも始めた。

 移動スーパーの維持には採算性が課題となる。ローソンが現在運行する約70台の車両のうち、採算ベースに乗っているのは1割程度にすぎない。

 400万円前後とみられる車両代金は本部が全額負担し、加盟店側の負担はほぼガソリン代と人件費だけ。それでも加盟店側に利益を残すことは難しい。店舗と同じとしている商品の価格に移動スーパーは手数料を上乗せするなど「別の価格体系も考える必要がある」(戸津マネジャー)。

 生活協同組合が「小野モデル」として、全国への普及を目指す成功事例がある。4月にコープこうべ(神戸市)が兵庫県小野市で始めた「みんなの井戸端ステーションぐるっといちば」だ。9台の移動スーパーのうち、小野市を走る1台だけが1日10万円の採算ラインの売上高を確保する。

 成功のカギは地域住民との連携にある。

 「みんなで使いましょう」。地元で10年以上、民生委員をする藤田津根子さんは地域住民に移動スーパーの利用を呼び掛ける。担当する池尻町の全戸にチラシを配っただけでなく、車両が停留する駐車場に椅子を設置。継続的な利用を促す仕組みづくりに知恵を絞る。

 小野市では16年9月、スーパー「トーホーストア育ケ丘店」が閉店。周辺一体が一気に買い物難民化する懸念が生じた。危機意識を持った行政と自治組織「地域づくり協議会」は連携し、市内の全3200世帯を対象にアンケートを実施。回答した半数以上の住民の7割に移動スーパーを利用する意向があることが分かった。

 他地域での移動スーパーが赤字だったコープこうべは当初、この誘致に乗り気ではなかった。しかし、「ここに車を止めたいなら、私がそこの家の人に言っておいてあげる」といった地元住民の自ら関与しようとする姿勢に事業開始を決めた。

 停留拠点ごとの客数や買い上げ点数、売り上げなどの営業情報をコープこうべと地域づくり協議会は共有。結果を受け、住民が「もっと利用しよう」と促し合ったり、コープ側も品ぞろえやルートを変更したりする。

 移動スーパーは買い物弱者に対する福祉、社会貢献と見なされることが多かった。しかし、人口減少による国内消費市場の先細りが懸念されるなか、見過ごされてきた市場への関心は間違いなく高まっている。事業の維持に持続可能な収益モデルの確立が不可欠な移動スーパー。その仕組みを構築できた企業だけが市場を拓くことができる。(中川雅之)

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