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VS.アマゾン――世界観とおもてなし、実店舗に存在意義。

[ 2017年10月1日 / 日経ヴェリタス ]

編集委員 田中陽

 「アマゾンは尊敬すべき会社だと思います。ただ世の中にアマゾンしかない状況は生活者にとって快適ではないと思っている」。7月上旬、セブン&アイ・ホールディングスとネット通販事業で業務提携したアスクルの岩田彰一郎社長は記者会見で、アマゾンへの対抗意識をにじませた。

 主婦層や働く女性向けに加工食品や日用品に強みのあるネット通販「ロハコ」を運営するアスクル。累計利用者は300万人を超え、強固な顧客基盤を持つ。このロハコにセブン&アイはプライベートブランド「セブンプレミアム」やカット野菜、加工肉、魚の切り身などを供給する。サービス開始は11月下旬の予定だ。

 一方、アマゾンの圧倒的な品ぞろえと価格競争力が強みなのは間違いない。しかし祖業を書籍とする同社は単品販売には威力を発揮するものの、いくつもの食材で構成される料理のような商品提案は不得手。セブンとアスクルはそこに商機を見いだす。セブンプレミアムに一手間かけた調理方法を紹介する1分ほどの動画をいくつも作成、料理のイメージを膨らませてもらい、購買につなげていく。食料品は書籍、家電、衣料品と異なり、買い物の頻度が極めて高い。消費者との太いパイプも築ける。

 「これは流通革命ではない。あらゆるものが変わる革命だ」。ネット販売への比重を急速に高めているファーストリテイリングの柳井正会長兼社長が目指しているのは、消費者が自分仕様の服をネットで注文し、翌日受け取れるような仕組みだ。デジタル技術を活用すれば洋服作りを抜本的に変えられる。ただデジタル志向を打ち出しながらも店は否定しない。「ユニクロの世界観を理解し、体験するには店舗は必要」(柳井氏)だからだ。

 実はここに日本の流通業の存在意義が発揮されるはずだ。「おもてなし」という言葉に代表される、きめ細かな接客サービス。上質な体験を提供してブランド価値、企業イメージも高められる。店舗に行かないと味わえない雰囲気、価格や同質化競争に巻き込まれない独自商品こそがカギとなる。

 ファストリだけでなく海外展開を積極化している良品計画(店名は無印良品)が投資のかさむ店舗による進出形態にこだわるのは「MUJI」の世界観の体験に他ならない。裏返せば世界観を打ち出せない流通企業はアマゾンのようなネット通販に駆逐されても仕方がない存在ということになる。

 狭いが交通網が発達した日本の国土は実店舗を抱える小売業に有利に働くかもしれない。ネットの攻勢にさらされてきた家電量販店。ヨドバシカメラのように自らもネット通販で稼ぐ企業もあるが、一線を画す企業もある。「がんばらない(無理をしない)」経営で知られるケーズホールディングスだ。全国に約500店ある店舗網は、自宅から自動車で30分の圏内に店がある計算になるという。同社はネット通販を手掛けているが専用の物流センターは持たない。注文主から最も近い店舗から配送し、過大な投資を避ける。ここでも「がんばらない」のだ。

 バブル崩壊以降、日本の小売りは様々な流通規制の緩和や廃止を機に経営の自由度を高めてきた。恩恵は対日進出をもくろむ流通外資にも追い風となり、スーパーの英テスコ、仏カルフールといった世界列強が進出したが、結果はどうか。日本市場を攻めあぐね、いずれも撤退を余儀なくされた。

 かたや2000年に日本に進出したアマゾンはネットの世界で「お客様第一」(ジェフ・ベゾス最高経営責任者)を貫き、異次元の存在として規模を拡大してきた。16年、アマゾンの日本での売上高は1兆円を超えたところだ。

 その1兆円が日本の小売総額140兆円に占める規模は1%に満たない。爆発的に拡大する電子商取引(EC)の波に乗り欧米のようにアマゾンに席巻されるのか、日本の小売業が一矢を報いるのか。真剣勝負はこれからだ。

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