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ブランドなき「伊勢丹」――地元の顔担い生き残り(経営の視点)

[ 2017年12月25日 / 日本経済新聞 朝刊 ]

編集委員 田中陽

 「ヴィトンもねぇ」「グッチもねぇ」「お店もそれほど新しくねぇ」

 吉幾三さんのヒット曲「俺ら東京さ行ぐだ」の歌詞を地でいくような百貨店がある。三越伊勢丹ホールディングス傘下の静岡伊勢丹(静岡市)だ。

 欧米の高級ブランドを数多く誘致して集客の柱とするのが百貨店のビジネスモデル。この店もそうだったが、商業施設の新設などで次第に高級ブランドは抜けていった。

 立地も恵まれていない。静岡駅の前には松坂屋がありルイ・ヴィトン、カルティエ、ティファニーなど高級ブランドが顧客を迎える。静岡伊勢丹はそこから商店街を歩いて約10分。まさに刀折れ矢尽きた状況だったにもかかわらず、5期連続の増益を達成した。

 なぜか。

 静岡伊勢丹が掲げるのは「日本一の地域密着百貨店」(雨宮潔社長)。東京の伊勢丹新宿本店は世界中から逸品を集め売上高は世界一を誇るが、同じ手法は静岡では無理。地元の生活者が知っていそうでいても魅力を伝え切れていない商材に焦点を当てた。

 例えば遠州織物。肌触りのよい風合いは欧米のファッションショーでは常連だ。そのストールや弁当袋など200点以上を用意して、若い人に訴えた。林業関係者と組み、「オクシズ」と呼ばれる奥静岡の中山間地の木材の展示物や雑貨を紹介。新たな生活シーンを演出し、話題となった。

 イチゴ生産などを手掛ける、なかじま園(静岡市)は静岡伊勢丹との取引が評判となり、パンメーカーや地元小売業との商談が舞い込んだ。「伊勢丹の紹介をきっかけに販路が拡大した」(中嶌正子代表)と喜ぶ。「社会性のある取り組みはしつこく続ける」(雨宮氏)。店が地元産業の孵(ふ)化器の機能を担う。

 生活者の行動をうまく取り込んだのがパンとコーヒーのイベント販促だった。静岡県はサッカーが盛ん。早朝の練習が至る所で行われ、朝食時間は日本一早い。送迎役の保護者が簡単に用意できるメニューを提案。これが当たった。新たな消費者を呼び込めた。

 こんな発想が生まれる背景には、従業員全員の営業マインドの高さがある。営業部門の会議でも、総務部門の従業員が出席。大きな催事の場合、行政などとの調整が必要になるためだ。

 営業会議に最初から出ているため、渉外担当者の初動は当然、早い。全国的には低調な「プレミアムフライデー」も、日常的に地元商業関係者と話し合ってきたこともあり、静岡では盛り上がっている。

 リアルな店舗を支えるのは販売員にほかならない。その多くが地元出身者だ。静岡伊勢丹は11月末、通常なら商品紹介が主体の配布誌で、店で働く取引先従業員ら約160人の笑顔の写真、暮らしにこだわる一口コメントを掲載した。

 化粧品売り場では若い女性と美容部員が配布誌を片手に話題に花を咲かせている。「働きやすい店になれば、いろいろなことを教えてくれる」(雨宮氏)

 成熟社会のニッポン。もはやブランド主義、東京中心でないのは明らかだ。地元の顔としての百貨店の機能と役割はある。

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