日経メッセ > リテールテックJAPAN > ニュース > アマゾンと小売りの未来――良品計画会長金井政明氏、理念ある実店舗は残る(複眼)

日経の紙面から

アマゾンと小売りの未来――良品計画会長金井政明氏、理念ある実店舗は残る(複眼)

[ 2018年1月16日 / 日本経済新聞 朝刊 ]

 米ネット通販大手アマゾン・ドット・コムの攻勢の影響で、業績不振にあえぐ企業が増えている。あらゆる企業をのみ込む「アマゾン・エフェクト」に既存の小売業はおののき、身構える。アマゾンの小売り支配は世界的な潮流なのか。近未来に待ち受ける消費社会の姿は。

 小売業は栄枯盛衰、新陳代謝の激しい産業だ。それは欧米でも日本でも同じ。米国の大衆消費社会を支え、世界最大の小売業だったシアーズも現在、経営不振にあえぐ。米シアーズからその座を奪った米ウォルマートはアマゾンの躍進で事業構造の改革を迫られている。小売りのライフサイクルは危うさをはらむ。アマゾンが未来永劫(えいごう)であるとは思わない。

 ただアマゾンの自由な発想を見るに付け、リアルな小売業は猛省すべきだと思う。生活者とじかに接しているにもかかわらず、デジタル系企業のような革新的な取り組みが乏しい。やるのはコストカットばかりだ。

 アマゾンで働く人たちは「自分たちが小売業者だ」という意識は薄いだろう。小売業は様々な買い物を通して生活者の森羅万象が分かる。アマゾンは膨大なデータを分析して新たな事業やサービスの開発にいかしている。たまたまビッグデータが集まる小売業をやっていて、小売りで儲(もう)ける優先順位が低い。だから低価格販売も可能となる。

 強烈な販売力に巻き込まれると取引先のメーカーや配送業者で混乱が生じる。象徴的なのが昨年に表面化したヤマト運輸の問題だった。利益を出す場所が違うと軋轢(あつれき)が起こるのは当然だ。

 生活者にとって便利なら従来の小売業から代替されていくのは間違いない。アマゾンで十分な部分があるのは確かだ。食品や日用品の著名なナショナルブランドは商品の価値を誰もが知っているから、安い価格に流れる。

 ただ、世の中がアマゾンで埋め尽くされることはない。良品計画はあくまで実店舗を主体でやっていく。無印良品の簡素で生活の素材としての商品と、働く人を大切にしているからだ。単品販売のアマゾンでは難しいだろう。我が社がネット通販に参入したのは2000年で日本の小売業の中では早かったが、期待したほどは売れなかった。「売らんかな根性」が出ていた。現在は各店舗でのイベント案内など地域に密着した情報を伝えていて、これでネットでも売れるようになった。

 ネット社会はつながっていると思われているが、本当はそうではない。作り手、売り手、運び手の役割が明確で、買い手と分断されている。情報の共有は乏しい。実店舗の小売業はそこをつなげる使命があると考える。

 成長が見込めれば巨額な資金がアマゾンには流れ込む。中国でもアリババのような強大なネット企業が市場を席巻する。グローバルな社会で巨大企業が激突している。資本主義だから理解できるが、格差の拡大などひずみも世界的な問題となっている。便利で豊かな社会が実現するのはいいが、陰もある。

 日本には「足るを知る」という言葉がある。「これでいい」世界だ。アマゾンと同じ土俵で闘ってもしょうがない。人や自然、社会と調和した商品や企業の理念によってデジタル革命と異なる世界でやっていけるはずだ。日本の小売業、商人には素養がある。(聞き手は編集委員 田中陽)

 かない・まさあき 1976年西友ストアー長野(現西友)入社。93年良品計画入社。主に生活雑貨の商品開発部門を歩む。2000年取締役、08年社長、15年から現職。60歳。

ニュースの最新記事

PAGE TOP