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前門のアマゾン、後門のドンキ、小売りへのアンチテーゼ(経営の視点)

[ 2018年5月14日 / 日本経済新聞 朝刊 ]

編集委員 田中陽

 流通業界の栄枯盛衰を象徴する出来事が起ころうとしている。長らく小売りの優等生といわれていたイトーヨーカ堂。その直営部門の売上高がドンキホーテホールディングスのそれに逆転されることが確実だからだ。前期決算ではヨーカ堂が8813億円、ドンキは8018億円。店舗閉鎖が続くヨーカ堂に対し、2桁前後の成長を続けるドンキ。勢いの差は明白だ。

 多くの流通関係者は長くドンキの店舗運営を眉唾で見ていたに違いない。商品が無造作にうずたかく積まれた陳列棚を見て「小売りの基本である整理整頓ができていない」と眉をひそめ、賞味期限切れ間近の商品を破格で販売していると「商業秩序を乱す」と不快感を示していた。

 しかし若い消費者を中心に支持を集め28期連続の増収増益を達成。最近、総合スーパー(GMS)のユニーからドンキに業態転換した6店舗の営業成績は、転換前の同時期に比べて売上高で2・2倍、粗利は1・7倍、客数1・9倍となった。店作りの巧拙は歴然だ。

 ドンキの進撃はGMSにとって皮肉に映る。業績低迷で閉鎖を余儀なくされたGMSをドンキが居抜き出店で繁盛店にしてしまう。GMSが作った賞味期限の返品ルールで問屋やメーカーに戻ってきた商品がドンキの店頭で売られ、息を吹き返す。本部主体の仕入れや営業政策で画一化したGMSは店に顔がない。ドンキは店に並ぶ4割の商品が店独自の仕入れだ。地域密着を実践する。

 創業家を守りがちなGMSのガバナンスに対し、社内競争で勝ち残った人材がドンキの経営を担う。業界の変遷を研究する流通経済研究所の根本重之理事は、「ドンキはGMSへの強烈なアンチテーゼ」と語る。

 GMSだけでなく業界全体にアンチテーゼを突きつけているのが、アマゾン・ドット・コムに代表されるネット通販だ。狭い国土の日本では通販はなじみにくいとされた。消費者は店に来て商品を選びレジで精算をして、それを持ち帰る。ごく普通の風景がいつしか生鮮品までも玄関まで運んでくれる時代になった。

 衣料品や靴は実店舗の牙城といわれたが、デジタル採寸などの技術革新や返品自由などのサービスにより課題を解決し、手のひらのスマートフォン(スマホ)が巨大なショッピングモールとなった。そこには営業時間の制約もない。技術に裏打ちされた新しい買い物体験の連打に、消費者は引き寄せられる。

 高度なIT(情報技術)をひっさげてアマゾンは今年、米国でレジのない実店舗の出店に乗り出している。アマゾンの時価総額は世界最大の小売業、ウォルマートの3倍だ。

 前門のアマゾン、後門のドンキ。

 ドンキは1989年3月、平成の産声とともに小売事業を始めた。アマゾンの日本での船出は21世紀を目前に控えた2000年11月。急成長ゆえなのか、地域や取引先との軋轢(あつれき)も散見されるが、平成と21世紀のビジネスモデルを構築したのは間違いない。変化の速さを読み違え、新参者を色眼鏡で見ていた従来型の小売業はアンチテーゼに向き合うべきだ。

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