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日経の紙面から

日ガス沸騰、独占崩す、東ガス包囲網、東電・参入組と、自慢のIT、あえて開放。

[ 2018年5月28日 / 日経産業新聞 ]

 都市ガス小売りの自由化から1年余り。競争が激化する首都圏で、日本瓦斯(日ガス)が快走している。独占状態だった東京ガスが約30万件の顧客を失うなか、日ガスはその3割強の約11万件を獲得。強みはLPガスの自由市場で培ったIT(情報技術)による業務管理術だ。「東ガス包囲網」の形成へ東京電力ホールディングス(HD)や新興他社とも共闘する。ガス自由化の旗手、日ガスの戦略に迫る。

 「ニチガスにする〜の、賛成です♪」――。東京・池袋のサンシャインシティで、首都圏でおなじみのCMが流れ、買い物客が足を止める。すかさず話しかけるのは日ガス社員。「ガス、切り替えませんか。スマートフォン(スマホ)で5分で終わります」。

 都市ガス切り替えをPRするブース。営業部長の新井光雄さんは「自由化を知っていても切り替えるきっかけがない。直接説明できる機会は貴重です」と、行き交う人に笑顔を見せた。

 東京ガスから日ガスに切り替えた30代の女性は「もともと切り替えるつもりはなかったけど、思っていた以上に手続きは簡単。どれだけ安くなるか楽しみ」と満足げ。こうした「脱・東ガス」の顧客が後を絶たない。

新規加入11万件

 首都圏で圧倒的な存在感を持つ東ガスから顧客を奪いつつある日ガス。1955年の設立から半世紀あまり。LPガス販売では国内最大手だ。LPガスを含めた顧客はグループで130万件を超える。2017年4月の都市ガス小売り自由化を受け、都市ガスの営業をスタート。都市ガスの新規加入顧客数は11万件に達しており、東ガスに大打撃を与えたのは間違いなさそうだ。

 最大の強みは営業力にある。1996年の家庭用LPガスの自由化をきっかけに顧客争奪戦に突入。徹底的な「どぶ板営業」と価格競争を展開した。

 多い日には1日150件以上、営業社員が戸別に訪問。契約変更で口説き落とすと、間髪を入れず自社のガスボンベと交換していくことから、付けられたあだ名は「ビン(ボンベ)倒しのニチガス」。業界では厄介者扱いされたが、自由化のカンフル剤にはなった。

 都市ガス自由化後には、日ガスが電話勧誘を委託する業者に不適切なやり方があったとして同業者が東京都から業務改善命令を受けた。時に行きすぎた営業攻勢は問題視され「ガス業界の暴れん坊」とも言われるが、従来路線は捨てた。単独で競争に挑むのではなく、他社と組む「全方位外交」を進め始めたのだ。

 例えば、エネルギー業界のガリバーである東電との提携だ。日ガスと東電子会社の東京電力エナジーパートナー(EP)は17年8月、折半出資で都市ガス関連の事業を手掛ける東京エナジーアライアンスを設立。日ガスは18年度に20万件の顧客獲得を目標に掲げるほか、2社合計では計100万件の目標達成を19年度から18年度へと1年前倒しした。

 東電は国内最大の液化天然ガス(LNG)の調達企業。日ガスは東電と組むことで、ガスを低コストで安定調達できる。そんな東電との関係が「最安」をうたう日ガスの価格戦略や多様な割引キャンペーンを支える。事実、日ガスの料金プランは東ガスより3〜4%は安い。

 「日ガスの何が魅力なんだ」――。3月、東電が日ガスに3%出資すると発表すると、エネルギー業界がどよめいた。都市ガス市場の攻略をもくろむ東電にとって、日ガスはライバルにもなるはず。それでも提携を深めていくからだ。日ガスは6月、東電EP子会社の人材を取締役会に迎える予定。人材面でもぐっとパイプは太くなるが、日ガスの提携戦略は東電だけが相手ではない。

 「うちのシステム、使いませんか」。日ガスが最近力を入れるのが、都市ガス小売り参入を検討する事業者との交渉だ。

コスト削減武器

 競合にもなり得る他社に利用を促す管理システムの名は「雲の宇宙船」。新参企業は自前でシステムを構築しなくても、担当者が専用端末の指示通りに動けば無駄なく業務を遂行できる。保安や検針など必要な業務の大半は日ガスが代行。同社はこの「虎の子」とも言えるIT技術を開放し、システム使用料も得る。

 日ガスは独自のクラウド型システムを構築し、ガスの使用量を確認するための検針や保安などの業務データを一元管理。稼働を始めた09年から約2年でLPガスの配送コストを実に7割削減した。今、これを都市ガス向けに改良し、東ガスの覇権を脅かしている。

 5月に首都圏に参入したハウステンボス(長崎県佐世保市)子会社のHTBエナジーも雲の宇宙船を使う。すでに計4社が日ガス・東電連合のシステムを採用。不動産大手など30社以上が利用を検討している。

 ガス事業は保安体制や料金計算システムの整備で電力より参入障壁が高いとされる。日ガスは新興勢力に塩を送ってでも、まずは長年の硬直した都市ガス市場に風穴を開けることに注力する。

 その照準は首都圏に君臨する東ガスに定まっている。そして、その先にある「巨大な新規参入者」との首都圏競争だ。中部電力と大阪ガスは電力とガスのセット販売に共同で乗りだし300万件の顧客開拓を目指す。東ガスだけ見ていたら思わぬ相手から足をすくわれかねない恐れがある。

 日ガスは、営業と並ぶ強みであるIT武装を緩めてはいない。動画配信のU―NEXT子会社と人工知能(AI)を使った電話の自動応答サービスも始めた。顧客の問い合わせに無人で対応し、修理が必要なら担当者が出向く。スマホ向けウォレットアプリ(電子財布)のメタップス系企業とは、代金をスマホで払えるサービスを19年度中にも始める。

 「日ガスはIT会社なのか」。投資家からはそんな声さえ聞こえる。同社がIT武装を急ぐ背景には「デジタル化の波を先取りしないと大きな成長はない」(和田真治社長)との信念がある。

 日ガスの柏谷邦彦専務は「今後は(顧客獲得が)尻すぼみになる危険性もある」と、慎重な姿勢は崩さない。電力に比べ都市ガスは切り替えの速度が思ったように上がらないためだ。日ガスはITをさらに磨き上げ、競争力のある料金やサービスを提供し続けられるか――。その答えが日ガスの挑戦の成否を決める。

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