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イオン未来店、中国で学ぶ、現地AIベンチャーと開発拠点、無人・ロボ「実験場」に。

[ 2018年5月31日 / 日本経済新聞 朝刊 ]

 イオンは30日、中国・上海で新たな研究開発(R&D)センターを開業した。人工知能(AI)技術を持つ現地のスタートアップと設立した戦略拠点だ。ロボットによる商品の無人販売・清掃など未来型店舗の開発を担う。日本を代表する流通大手として中国企業のお手本になってきたイオンだが、今や中国は世界有数の電子決済大国だ。ネットとリアルの融合でも先を行く中国に競争力強化の処方箋を学ぶ。

 「你好!」。手を上げて話しかけると「売り子」のようにフロアを自由に動き回っていたロボットが近くに寄ってきた。手のひらをセンサーにかざすと、ふたが開いて中にある飲料や菓子を手に取ることができる。事前に自分の掌紋と「支付宝(アリペイ)」などの決済サービスを登録しておけば、手に取ると同時に決済も完了する。

 一見普通の大型冷蔵庫にもしかけがあった。手をかざすと「カチャッ」という音が鳴り扉が開く。棚に並ぶイオンのプライベートブランド「トップバリュ」のミネラルウオーターを取り出した時点で搭載カメラが商品を認識。決済も自動で完了しており、後は扉を閉じるだけで買い物完了だ。

アリババも出資

 30日にイオンがお披露目した上海のR&D拠点では、来場者がデモンストレーションを興味津々に見つめていた。

 技術を開発したのは、ディープブルーテクノロジー(深蘭科技、上海市)だ。AIや無人店舗、ロボットなどの先端技術に強みを持つ。顔認証技術を使って無人で商品を販売するシステム「テイク・ゴー」は中国の小売店などで実用化が進む。中国ネット通販最大手、アリババ集団も出資する有力スタートアップだ。

 R&D拠点はイオンの施設管理子会社、イオンディライトとディープブルーが合弁で立ち上げた「永旺永楽深蘭科技」が運営する。第1弾として来春に江蘇省で開業予定のイオンのショッピングセンター(SC)で警備システムと清掃ロボットを導入する。イオンのSCや総合スーパー(GMS)など約80店に順次展開するほか、外販も手がける計画だ。

 イオンの2018年2月期の中国事業の業績は、売上高に当たる営業収益が2620億円と前の期比8%増えたが、15億円の営業赤字だった。海外戦略の要である中国事業の収益改善は急務だが、さらに大きな狙いがある。力を入れるデジタル戦略で中国が巨大な実験場になる点だ。

電子決済がカギ

 特に期待するのが電子決済だ。中国発のスマートフォン(スマホ)決済サービス「支付宝」や「微信支付(ウィーチャットペイ)」は東南アジアでも爆発的に普及する。スマホ決済を軸に、中国では実店舗とIT(情報技術)を融合させた無人店舗や無人サービスの実験店も相次ぐ。

 一方、日本の小売業界は電子決済の普及で出遅れ、ネットとリアルの融合も道半ばだ。かつて日本型の接客や商品開発ノウハウを中国や東南アジアへ輸出することで海外開拓を進めてきた日本の小売業界だが、足元では中国に追い越される「逆転現象」が起きている。

 利便性や利用法の浸透などで課題はあるものの、今やAIなどを活用した新たな店舗開発は中国が先行する。イオンはこうした状況を踏まえ、中国事業を通じてノウハウの蓄積を狙う。東南アジアなどでの事業にも生かす考えで、永旺永楽深蘭科技の四方基之社長は「中国という巨大な実験場で実績を積み、新市場を開拓したい」と語る。

 M&A(合併・買収)などで規模を拡大し、日本最大の流通グループとなったイオンだ。だがネット通販の台頭などにより消費者の購買行動は大きく変化した。GMSなど既存の主力事業は米アマゾン・ドット・コムに代表されるネット専業企業に侵食されている。

 イオンはデジタル分野の強化に向け、21年2月期までにITと物流関連に5千億円を投じ、物流自動化やネット通販と実店舗をつないだサービス開発を進める。中国で手掛ける関連技術は中長期的には日本でも応用できる可能性がある。

 「小売業を取り巻く環境は大きく変化しており、既存のあり方では通用しない」。岡田元也社長は5月末の株主総会で危機感をあらわにした。中国の有力スタートアップとの協業で具体的な成果を上げられるか。それがイオンの戦略の成否を握る鍵となる。(上海=松田直樹、河野祥平)

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