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新・金融ビッグバン――ちらつく「アマゾン銀行」の影、メガ銀、デジタル通貨や店舗削減で効率化急ぐ。

[ 2018年6月17日 / 日経ヴェリタス ]

 「『アマゾンバンク』『グーグルバンク』というワードが、ものすごい勢いで検索されている。存在もしないのに」。6日、東京・霞が関の金融庁で開かれた金融審議会金融制度スタディ・グループ。三菱UFJFG元副社長で委員の田中正明氏が問題提起した。

 言わずと知れた米国の「ITの巨人」だが、日本で頻繁に検索されるのにはワケがある。実は日本は銀行と商業を隔てる壁が、欧米などに比べ格段に低い。特に米国は銀行の他業禁止が厳しく、異業種が銀行をつくったり買収したりすることはできない。法律上、米国ではアマゾンは銀行を設立できない。これに対し日本は金融ビッグバンの一環として2000年、銀行業務への新規参入を解禁。セブン&アイ・ホールディングス(3382)、イオン(8267)、楽天などが相次ぎ銀行を設け、乗り合い型のATMやネット金融で大手銀の隙間を埋めて存在感を示している。

買収の臆測が根底に

 「アマゾンが日本で銀行をやればどんなサービスを繰り出すのか」――。こんな期待と日本の銀行を買収するのではという臆測が、検索される理由の奥底にある。ケタ違いの顧客基盤をベースに、巨額の資金を投じて金融ビジネスに乗り出したらどうなるか。

 「大なたを振るい、思い切った店舗の閉鎖や人員の大幅削減に踏みきれば、超効率経営の銀行が生まれる可能性もある」。あるメガバンク幹部は懸念する。「アマゾン銀行」の前には、金融サービスに商機を求める日本のIT大手も、のみ込まれる可能性がある。

 メガバンクも手をこまぬいているわけではない。サービスと業務のデジタル化を急ピッチで進めている。

 IT大手が注力するQRコードを使ったスマホ決済では、3メガ銀がそろって今春から、統一規格づくりに乗り出した。デジタル通貨を巡っては三菱UFJが「MUFGコイン」、みずほが「Jコイン」の発行をめざす。取り組みを急ぐ背景には「宝の山」ともいえる顧客データをIT大手に握られることへの危機感がある。

 マイナス金利政策で国内事業の成長が見込みにくいなか、業務のデジタル化で生産性の向上も進める。

 3メガ銀だけでヒト(役職員、17年9月時点)は8万6000人あまり、モノ(店舗、同)は2300店超にのぼる。みずほは26年度末までにパートを含めた従業員数を4分の1減らし、店舗も24年度末までに全体の約2割にあたる100拠点を減らす。三菱UFJも23年度末までに三菱UFJ銀行で全従業員の1割にあたる6000人程度が減る。三井住友フィナンシャルグループ(8316)も4000人分の業務量を減らす。RPA(ロボティクス・プロセス・オートメーション)などITを積極活用する。

 3メガ銀は1000万単位の顧客基盤を抱える。仮想通貨の巨額不正流出のあったコインチェック問題を引き合いに出すまでもなく、システムの安全性への信頼感は高い。豊富な人材、資金力を駆使すれば、巻き返しも可能だ。

膨大な「遺産」足かせに

 ただ足かせとなるのが、これまで蓄積した膨大なレガシー(遺産)だ。

 「悩ましいのは二重投資」。三菱UFJ幹部はこう吐露する。

 これからは既存の巨大な勘定系システムと、MUFGコインの開発など新たなデジタル化への投資が二重に必要になる。みずほが11日から入れ替え作業を始めた勘定系システムは総額5000億円近くかかる見込みだ。絶対盗まれない安全性、絶対止まらない安定性を求められる銀行は、必要以上にコストをかけがちで、それをまかなう体力がこれまで以上に必要になってくる。

 デジタル化が進んだら進んだで、膨大なインフラが"不良資産"に化ける潜在リスクも抱えている。

 約20年前の金融ビッグバンを受けた大再編後の構造改革を怠ったツケがここに来て回ってきた面もある。たとえばみずほ。18年3月期のみずほ銀行の本業のもうけを示す業務純益は3000億円。みずほ発足前の日本興業銀行、第一勧業銀行、富士銀行の合算値の3分の1に縮小。合併による効率化で減るはずだった経費は、逆に4%弱増えてしまった。金融ビッグバンのさなかに起こった金融危機を経て、金融庁が「いざとなったら公的資金」という助け舟を出す仕組みが定着したのも、自助努力を遅らせる要因となった。

「銀行守るつもりない」

 金融庁は今後数年かけて、巨大ITプラットフォーマーやフィンテック企業の台頭など、金融を巡る外部環境の激変を踏まえ、銀行法を大改正する。銀行を従来のように特別扱いしないようにするのが一つの大きな柱となる見通しだ。異業種の参入を促し、顧客サービスを充実させるねらいがある。

 金融庁首脳陣は「我々は金融機能を守るための存在。銀行を守るつもりはない」と口をそろえる。「新・金融ビッグバン」の勝者がデジタルでスリム化した既存の銀行なのか、利用者に身近な金融サービスを売りにするIT大手なのか。競争は始まっている。

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