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マルイは売らない、10期連続増益「体験」を売る、「ネット×百貨店」の解に、一等地にネットショップ、ファンが店員に。

[ 2019年9月2日 / 日経MJ(流通新聞) ]

アニメファンに交流の場 収益ゼロ

 商品やサービスの売り買いは全てネットに集約されていく――。そんな未来を見据えて、丸井グループが店舗改革を急いでいる。合言葉は「売らなくてもOK」。リアル店舗を消費者がブランドと出合い、体験する場所として再定義。その方針を徹底するために、ビジネスモデルの抜本的な転換にまで踏み切った。10期連続で連結営業増益を達成した丸井G。既存小売業の明日を照らす存在となれるか。

 「ここで買う必要はありませんよ。じっくり検討してみてください」。8月下旬、丸井が運営する商業施設「渋谷モディ」(東京・渋谷)を訪れると、そんな声が聞こえてきた。話しているのはオーダースーツ店「ファブリックトウキョウ」の店員。ちょうど来店した男性客の体形を測り終えたところで、生地見本を手渡すと軽く一礼。男性は買い物することなく、店舗をあとにした。

 ファブリックトウキョウは2012年設立のネット主体のアパレルブランドだ。採寸データはウェブに保存し、その後は店舗に足を運ばなくても、サイトで自分だけの一着を注文できる。

 森雄一郎社長は「店舗は顧客体験の一部にすぎない。必ずしもそこで買ってもらわなくていい」と話す。採寸や、来店客のライフスタイルに応じた着こなしの提案は店舗での接客を通じてしかできない。一方、買うところまで店舗である必要はない。むしろ「店員がその場で売ることを意識しすぎると、お客は『買わされている感』を抱いて引いてしまう」(同)。

 ファブリックトウキョウは丸井が運営する全国6店舗にテナントとして入居している。森社長は「店ごとの損益を気にしたことはない。店長たちですら自分の店の売り上げを把握していないんじゃないか」と話す。

■「デジタル世代」魅了

 仕入れて売る。これが小売業の基本だ。それなのに丸井が店舗で「売らなくてもOK」と公言し、ファブリックトウキョウのように「デジタル・ネーティブ」な事業者をひきつけられるのには理由がある。ビジネスモデルの抜本的な転換だ。

 かつては在庫リスクを取引先がもつ「消化仕入れ」で稼ぐ百貨店型を採用していたが、15年3月期からテナントと定期借家契約を結んで家賃収入で稼ぐショッピングセンター(SC)型への切り替えを推し進めてきた。19年春までの5年で全国約22万平方メートルについて転換を完了。定期借家契約する店舗面積は全体の76%まで拡大した。

 商品を売らなくても安定して収益を稼げるようになった。他の小売企業でも店舗をショールーム化してネットとの連携を模索する動きはあるが、全体のごく一部にとどまる。丸井は本気度が違う。

■店の歩合賃料ゼロも

 一般的にはSC型でも店の売り上げに連動した歩合賃料を重視する。だが事業会社の丸井の青木正久社長は「丸井の場合、テナントの事業形態によって柔軟に対応する」と、歩合はゼロという場合も少なくないと話す。

 売らないことへの理解度の高さは、オンラインを主体とする企業にとって魅力的に映る。丸井に出店するあるネット企業首脳は「他の百貨店への出店を検討したこともあるが、売ることを前提とする契約形態なので交渉に時間がかかり、結局断念した」と明かす。

 売らないからといっても、丸井が店舗を軽視しているわけではない。

 「いつも応援してくれるファンに会ってみたかったんです」。そう話すのは手作りのアクセサリー雑貨などを取り扱うオンラインショップ「フイウチ」を経営する柏木香菜子さん(24)だ。洋服好きが高じて同ブランドを立ち上げたのは18年。これまでインスタグラムなどでブランドを発信してきたが「商品を実際に見てみたいという声が増えた」(柏木さん)。

 6月上旬、オンラインショップ支援のBASE(東京・港)が渋谷マルイ(東京・渋谷)で運営する出店スペースに、期間限定のポップアップショップを開いた。場所は通りに面した1階の"一等地"だ。

 来店した沼沢優香さん(21)は「去年夏からファン」と話す。フイウチの世界観に魅了され「インスタでずっと見ていたけれど、買うまえに色味やサイズ感を試してみたかった」。やっと手に触れることのできた商品に満足し、朝顔をあしらった2900円のイヤリングを購入。この日はさらに、ボランティアとしてショップ運営を手伝うほどのブランド愛をみせた。(7面に続く)

「小売りの明日」占う
伸びる客数 最高を更新
カード利益 売り場の3倍

 売らない店づくりは、「モノからコトへ」という消費の変化への対応でもある。DCブランドの発信基地として一世風靡した丸井グループにとって、消費者のファッション離れは深刻。総務省の家計調査によると、ファッション支出はこの20年で4割も落ち込んだ。

 「好きなものにはお金を使う。ただ昔のようにファッション一辺倒ではない」。丸井の青木社長は指摘する。丸井Gはもともと家具・家電の月賦販売の会社だったが、社会の変化に合わせて主力事業をヤングファッションに切り替えてきた。

 そして今。アニメや音楽など消費者の興味の向かう先が多様化する状況で、「ニーズにあわせて私たちも変わる必要がある」(青木社長)。

 丸井は売り場の構成を大きく変えた。店舗面積に占めるアパレル関連の割合は19年3月期に29%。5年前より15ポイント減らした。代わりに拡充したのが飲食・サービスで29%と11ポイント増えた。月2回、池袋マルイ(東京・豊島)に通う都内在住の女性会社員(32)は「目的はファッションではなく整体」と話す。

 6月上旬。東京・千代田の有楽町マルイを訪れると、8階に商品棚もなければ、店員も見当たらない一角があった。ところが女性客が次々と訪れ、お互いに持ち寄ったアニメグッズを交換している。広さ約80平方メートルの空間は、近くのイベント会場で開催しているアニメ展と連動した、ファン同士の交流スペースだったのだ。収益は一切生まないが、アニメファンの満足度は高まり、次回以降の来店につながる。

 実際、丸井の19年3月期の入店客数は2億1400万人と過去最高を記録した。5年前より約15%の増加だ。一方、日本百貨店協会の統計調査をもとに、来店客数DI(動向指数)を算出してみると、百貨店業界の来店客数は過去10年総じてマイナス基調が続く。

 人さえ来れば丸井にとっては大きなチャンス。もう一つの収益源、クレジットカード事業の底上げにつながるからだ。

 「リアル空間に発行拠点を持っているのは他のカード会社はない強み」。大和証券の津田和徳チーフアナリストは指摘する。目に触れやすい場所に、独自発行する「EPOSカード」の案内コーナーを設けることで、店内を歩き回る来店客に興味を持ってもらいやすい。さらに小売り経験のある担当者が巧みにカード作成を勧める。

 しかも、ただのクレジットカードではない。08年には家賃をカード払いしてポイントをためられるサービスを開始。さらに家を借りる際には連帯保証人を不要にした。18年には証券子会社を設立し、カードからの引き落としで積み立て投信を購入できるようにした。消費者と息の長い関係を築き、決済手数料の底上げにつなげる戦略だ。

 SC型への転換が奏功し、小売事業の20年3月期の営業利益は130億円と、15年3月期と比べて6割多い水準を見込む。カードを含むフィンテック事業も390億円と同じく2倍弱に。貸金業法改正の逆風を乗り越え、高成長を続ける。

 デジタル・ネーティブな新興ブランドをひきつけ、来店客数を増やし、カード事業の拡大にもつなげる――。丸井Gの新たなビジネスモデルの成否は、社会が変化する中、消費者が食いつくコンテンツを提供し続けられるかにかかっている。

(藤村広平)

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