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日経の紙面から

増税に勝つプロマーケッターの極意――「顧客データでヒット」は幻想(消費税10%)

[ 2019年10月2日 / 日経MJ(流通新聞) ]

マック→「ポケGO」ナイアンティック 足立さん
西友→ヨーカ堂→AIのプリファード 富永さん

ポイントで差別化ムリ
競合相手なんて見ない
仮説 お客になりきって
「ロハコ」カイゼンで個性

 消費税率が1日、8%から10%に引き上げられた。消費マインドの冷え込みを懸念する声が高まるが、いつの時代も消費者の心をつかみ行動を変えた企業はある。日経MJでは元日本マクドナルドCMO(最高マーケティング責任者)の足立光氏と、西友やドミノ・ピザジャパンなどでマーケティング責任者を務めた富永朋信氏の対談を企画。ヒットの極意を語ってもらった。

 ――消費増税に伴いキャッシュレス決済でのポイント還元制度が始まりました。企業や消費者に、どのような影響を与えるのでしょうか。

 足立氏 ポイントは値引き。昔の消費税還元セールがポイントに置き換わっただけです。やらないと負けてしまうが、競合との差別化にはなりません。売れるモノを作ったほうが本当はいい

 富永氏 ポイント還元なんて年単位でみたら、すぐに忘れてしまうでしょう。「欲しいから、必要だから買う」。買い物はそういうものであってほしい。消費の良さが薄れてしまうのでは。

 ――決済会社や小売りも独自にポイント還元します。消費者の購買データ活用は経営の重要課題となっていきますか。

 足立氏 データ活用でクーポンの開封率を上げるなど様々な「カイゼン」にはつながりますが、経営に重要な優位性があるモノは作れないと思う。そんな事例、見たことないし、たぶん今後も出てこない気がします。「こんなビジネスを生み出したい」という仮説を立て、データをためるなら分かりますが。どちらかというとデータを見なくても「こうやると勝てそう」と考えたことの方が正しい場合が多い。

 富永氏 全く同感ですね。西友時代、ある会議で有名な経営者が「POSデータはゴミだ」と言いました。ゴミってことはないでしょう。POSはレシートの集積。お客の買い物の意図が類推できる。コンピューターで分類すると、改装や品ぞろえをどうすればよいか分かります。足立さんが言われた仮説があるかないかで、データはゴミにも宝にもなる。

 ――データをみるポイントは意図ですか?

 富永氏 人より意図。自分のチームではデータを性別や年齢で分析するのを禁止していました。どんな意図で人が動いているかアプローチできるかが成否を分けます。

 足立氏 マクドナルドの時にお客のデータをとって顧客情報管理(CRM)的なことは自社ではやらないと決めた。あまり魅力的に感じなかった。カイゼンのためにはやった方がいいですが、他社との根本的な差別化になるというのは幻想だって言ってました。

 富永氏 CRMが全く効かないっていうのは僕も同意です。

 足立氏 流通の方が言うと重いですね(笑)。

 富永氏 以前、ある住宅メーカーのマーケティング責任者が「うちはCRM頑張っています」と話していました。聞くと「見込み客にバンバンとメールを送っている」と。でも人の心が動くのは大抵ショールームで営業マンの話を聞いたとき。客の心境や態度がどう変わると家を買ってくれるか、設計図をちゃんと描いてから送らないと、効かないですよ。

 ――人工知能(AI)などテクノロジーはマーケティング活動を変える可能性がありますか。

 足立氏 やはりカイゼンという意味では取り入れた方がいい。でも同じ業界で1社しか採用していない限り、差別化にはならない。AIが同じような情報を読んで、同じように分析すれば、差は生まれません。

 富永氏 マーケティングに利用を限定するのはもったいない。例えばプライシング(価格の設定)。いくらにしたら、どれだけ売れるかという価格の弾力性は店頭のデータがふんだんにあると分かるのですが、人が処理すると大変。コンピューターを使えば商品一つひとつに最適な価格設定ができます。同じヨーカ堂でもディスカウント店のオーケーと競合しているか、高級スーパーの成城石井と競合しているかで、同じ価格でも意味が違ってきます。うまくやると優位になるかも。

 ――消費者の隠れた心理「インサイト」は捉えることができますか。

 足立氏 結論からいえば取れます。僕はインサイトを「心の中身」と訳します。消費者になりきって仮説を立て、たくさんアイデアを出して検証する。お客に聞いても新しい発想が出てくるとは思えません。お客の声を聞くのがダメなのではありません。アスクルの「ロハコ」は、お客の声をもとに商品やサービスの改善を積み重ね、結構個性を出している。セブンイレブンもそう。コンビニのご飯って10年前はおいしくないものの代表だった。それが商品改良をかなりの頻度で繰り返し、「おいしい」存在になりました。このパーセプション(消費者の認知や意識に変化を生じさせること)がすごい。

 富永氏 カイゼンの実行はなかなかできないものですよ。消費者インサイトはお客に密着し、ずっと観察していれば捉えられるかもしれませんが、ものすごく労力と手間がかかります。鍛えたマーケッターが力の限りを尽くして消費者に感情移入し、仮説を立てるほうがアイデアを獲得できる率も高いのでは。

 ――ところで、おふたりはアイデアをどうやって生み出すのですか。

 足立氏 異なる業界のいろいろな方と会うと、会話のなかにヒントが落ちています。どんなアイデアが欲しいのか、こんなことをしたらいけるのではないか。こうしたことを常に頭に入れていると、会話でポンっと引っかかる瞬間があります。マクドナルドの時も、いろいろな方の話から引っ張ってきました。

 富永氏 真剣に考えること。会社のことも、我がことのように。それと、自分の考えに固執しないで他人が出してきた考えの方がよかったら、迷いなく飛びつくこと。大勢の脳を使って考えたほうがいいに決まってます。

 足立氏 あと大切なのは、競合を見ないことですね。

 富永氏 そうそう。「昨年の今ごろ何をやったっけ?」「イオンは何をやっているの?」と社内で聞かれたことがありました。「マネしたいから聞いているわけではないですよね」と混ぜ返しました。

 足立氏 競合のキャンペーンを見るとイノベーションが生まれなくなります。「前例がありません」という人がいますが、前例があるということは、もう新しくないのです。アイデアの源泉は世の中を見ること。それに尽きます。人はだんだん見慣れたメディアしか見なくなりますが、他の世代は全く違うメディアを見ているのです。

 ――うーん。

 足立氏 年を取ればとるほど、新しい刺激と感動が必要です。それには新しいモノをみて、新しい所に行かなくちゃ。この前、堀江(貴文)さんがいいことを言ってました。「飲み会は全部行けって。ただし同窓会はスルーでいいって」

前例はつくる時代

 画期的なヒット商品が出にくくなって久しい。定番、ロングセラー商品のシリーズ化、派生商品ばかりが並ぶ店頭を変えていくにはどうすればいいのか。

 足立光氏は日本マクドナルド時代に「名前募集バーガー」や「裏メニュー」、ポケモンGOとのコラボなどの施策を次々と打ち出し、同社をV字回復させた。富永朋信氏も西友時代、「KY(カカクヤスク)でいこう」キャンペーン、プライベートブランド(PB)商品「みなさまのお墨付き」などで同社のイメージを変えた。

 そんなプロフェッショナルマーケッターの足立氏、富永氏がともに強調していたのは「仮説」の重要性だ。

 膨大なデータが企業の競争力を高め、AI(人工知能)のデータ分析が消費者の行動に影響を与えるといわれる。しかし仮説なしにデータをためても意味がない。どう攻めるかは人のアイデアにかかっており、イノベーションは人の心の中でも起こせる。最前線で活躍している2人のプロフェッショナルの発言には説得力がある。

 「前例があるということは、そもそも新しくないのです」。足立氏の発言に、映像技術のベンチャー企業の社長が話していたエピソードを思い出した。「この技術を使ってサイトを変えてみませんか」と大手小売りの担当者に提案すると「まず成功事例を示して」と言われた。中国の企業に同じ提案をすると「前例がなく、初めてなら導入したい」と即座に反応したという。

 どうやったらお客が喜ぶか、まだ学習中だという2人。穏やかな表情ながら眼光も言葉も切り返しも鋭かった。

 足立光氏(あだち・ひかる) ナイアンティック アジア・パシフィック プロダクトマーケティング シニア・ディレクター。1968年、米国テキサス州生まれ。P&Gジャパン、シュワルツコフヘンケル社長、会長、ワールド執行役員などを経て、2015年から日本マクドナルドにて上級執行役員・マーケティング本部長としてV字回復をけん引。18年9月より現職。著書に「圧倒的な成果を生み出す『劇薬』の仕事術」など。

 富永朋信氏(とみなが・とものぶ) プリファード・ネットワークス執行役員。1968年生まれ。92年大学卒業後、コダック社に入社。西友、ドミノ・ピザジャパンなど4社でマーケティング最高責任者。2018年9月にイトーヨーカ堂に入社。19年7月より現職。今年3月に設立されたマーケターキャリア協会の理事を務める。厚労省年金局広報検討委員、駒沢大学非常勤講師、ヨーカ堂など数社の顧問、内閣政府広報アドバイザー。著書に「デジタル時代の基礎知識 商品企画」。

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