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サブスクで越える増税の壁、顧客との長い関係、強みに(NikkeiViews)

[ 2019年9月26日 / 日経産業新聞 ]

田中陽
編集委員。小売業、外食企業、流通・消費者行政などを担当。

 9月も後半となり、消費増税関連の話題がワイドショーやニュースで盛んに取り上げられている。複雑なポイント還元や軽減税率などわかりやすい解説が並ぶ。10月の増税前後で消費者の行動はどう変わるか。政府と業者、メディアの関心はそこに集まっているようにみえるが、そんな増税論議と明らかに一線を画す企業も少なくない。増税前夜の狂騒曲を眺めていると、一喜一憂しない企業の強さが逆に浮かんでくる。

 いまの消費社会はこれまで経験したことのない大きな構造変化に直面している。人々の消費意欲は弱く、「売れない時代」とされる。値引き作戦やポイント還元で消費を刺激しようとしても効果は限られる。政府はキャッシュレス決済のポイント還元や各種減税を繰り出すが、そうした近視眼的な戦略にどれほどの意味があるだろうか。

 より長期的な視点で消費を考えた場合、ひとつの解になりそうなビジネスモデルがある。サブスクリプションだ。定額料金を支払って商品やサービスを継続利用する仕組み。店頭や売り場でモノを売り切る刹那的なビジネスではなく、生活者と並走する長いつきあいから企業が収益を得るモデルといえる。利用者に寄り添って悩みを解決するビジネスモデルと言い換えてもいい。

 例えば、ユニ・チャーム。保育士の人材サービスなどを手がけるBABY JOBと提携し、保育園向けに紙おむつとおしりふきの使い放題・定額制サービスを展開する。紙おむつは消費増税前の駆け込み商品の筆頭格と言われるが、このサービスからは別の消費の現場が浮かび上がる。

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 キーワードは負担や不満の解消だ。紙おむつはかさばる。これまでは保護者が子どもと一緒に紙おむつを保育園に持っていく必要があった。不足してはいけないから多めに持って行く。これが負担であり不満だった。一方、保育園のほうも手間が省ける。同じ商品を使うので、おむつの脱着のスピードがあがる。保育士の作業効率があがる効果は小さくない。

 おむつの大きさは5種類。月額の料金は2500〜3000円(税別)だ。保育園の職員が在庫数をシステムに入力し、少なくなると業者が配送する。すでにおよそ100の保育園で利用されている。保育園で使う紙おむつがユニ・チャーム製なら、家で使うのも自然とユニ・チャーム製に。ユニ・チャーム、保護者、保育園の三方よしだ。

 アパレルの世界でも売り場を越えた売り方が浸透する。試着なしで衣料品を買うのは難しいとされたが、いつの間にか他人が何度もそでを通した洋服を生かしたサブスクが人気を呼ぶ。

 ファッション分野のサブスク最大手、エアークローゼット(エアクロ)。創業約5年で会員数25万、取り扱いブランド300超を誇る。過去3決算期の売上高成長率は約61倍。監査法人トーマツが昨年発表した日本のテクノロジー、メディア、通信業界の企業を対象にした成長率ランキングでトップだった。

 エアクロが提供するのは新しい顧客体験だ。月額6800円(税抜き)のケースでは月に3着の洋服を届けるが、登録時に好みや色、利用シーンなどをカルテのようなものに記入する。エアクロはそれを参考に、利用者にふさわしいと考える洋服を選んで送る。専門のコーディネーターによるアドバイスもある。

 人工知能(AI)も活用する。頻繁にエアクロを使うとコーディネートの質も上がり、満足度が高まる。似合わないと思っていたブランドもお気に入りになれば、新たなブランドとの出合いとなる。返品期限もなく、クリーニングして返品する必要もない。

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 食品宅配サービスのオイシックス・ラ・大地は単なる食材配達のサブスクではない。利用者と生産者やオイシックスとの「対話」によって、届く食材の種類は変わる。オイシックス側は利用者の好みを理解し、外れのない食材を提案する。

 トヨタ自動車は17年に「KINTO」という名前でサブスクを始めた。頭金、登録諸費用などはかからず月額定額、39500円(税抜き)からで、対象のトヨタ自動車を乗ることができる。契約期間は3年で車検手続きも不要。3年ごとにライフスタイルに合わせた自動車を選ぶこともできる。いくつかの車を乗りこなしながら自分に合う自動車を購入するという極めて長い期間に利用者と寄り添いながら車の販売に持ち込む。サブスクでの収益と将来的には販売店での売りの場を作ることになる。

 売り切り型でなく、供給サイドが顧客と良好な関係を保ち続ける。売り場ではない、生活の場まで溶け込むことができればブルーオーシャンとなる。新たな顧客体験という付加価値を出せれば消費増税のハードルも簡単に飛び越えられるはずだ。

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