日経メッセ > リテールテックJAPAN > ニュース > 鮮魚、安心へ「見える化」、漁場データ開示や水揚げネット中継(食の安全は今)

日経の紙面から

鮮魚、安心へ「見える化」、漁場データ開示や水揚げネット中継(食の安全は今)

[ 2011年11月16日 / 日経MJ(流通新聞) ]

消費者にPR

 放射能汚染問題に揺れる鮮魚などの水産物。海を広範囲に回遊する魚種も多く、肉や野菜に比べても消費者の不安を払拭するのは容易ではない。水産庁が漁業関係者に求める漁獲水域の表示も滞りがち。まず川下からわかりにくい生産や流通現場を「見える化」することが安心確保への近道となる。

 「気仙沼の亀洋丸が初水揚げした戻りガツオ、どうぞ食べてみて!」今月7日、イトーヨーカドー木場店(東京・江東)に、漁船名のラベルが付いた珍しい刺し身用のカツオが並んだ。水産加工の阿部長商店(宮城県気仙沼市)が、漁業者やイトーヨーカ堂と組んで始めた取り組みだ。

 単に魚の鮮度をアピールするための漁船ブランドではない。阿部長商店が売り込んだのは、品質や安心・安全を担保する仕組みそのもの。亀洋丸を操業するパートナーの漁業者、カネシメイチ(同)から、漁獲水域の緯度・経度や水温、日時などのデータをもらってヨーカ堂に提供、顧客が求めれば情報開示する。

 一般的に漁場の情報は漁師の「企業秘密」。だが福島第1原発事故による放射性物質の流出で漁獲水域を気にする消費者が増えており、「生産履歴のはっきりしないモノは扱えない」(阿部長商店の阿部泰浩社長)。ヨーカ堂も「放射能に神経質な今、どこでどの船がとったかわかるのは価値がある」(鮮魚担当チーフバイヤーの平山喜隆氏)。従来の冷凍カツオに比べ約2割高い価格での販売に応じた。

 水産物需要量の半分を占める国内産の約8割は、魚をどこでどのようにとるか、漁業者に委ねられた天然魚が占める。さらに流通でも通常、水揚げ地の市場から消費地の卸売市場へ、その先の小売店へと荷が動くあいだに複数の卸業者が介在し、加工も経る。他の生鮮食品と比べて川上が見通しにくいことが、消費者や小売りの不安を誘う一因となっている。

 「今日は良いイクラが入ったなあ」。仕入れたサケからイクラを取りだし、加工処理する様子をビデオカメラで撮影するのは、三陸とれたて市場(岩手県大船渡市)の八木健一郎社長だ。

 三陸産の魚介類をインターネットで販売する同社は、事務所に併設した調理場での加工作業の様子を自社のホームページ(HP)に掲載。八木社長が仕入れ先の漁師を訪ね、ホタテやワカメなどの養殖現場を撮影してHPに載せることもある。画像や動画を通じて、水産物の仕入れから販売までの透明化に努める。

 4月には震災後初めて水揚げをネット中継。市場で出回ることの少ない約3キログラムの大きなマツカワカレイを釣り上げた漁船が港に戻る様子を掲載したところ、3万円の高値ですぐに売れた。八木社長は「情報公開が消費者に安心感を与えることにつながる」と話す。

 産地や流通の可視化が即、放射性物質問題などからの安全を裏付けるわけではない。だがこれらの情報が見えないままでは、消費者の安心感を得るのはおぼつかない。

 自らとった魚を提供する――。究極の水産物流通の「見える化」に動く外食企業もある。夏に東京・五反田に開店した海鮮居酒屋「四十八漁場(よんぱちぎょじょう)」。宮崎県の沖合から届くアオリイカやトビウオの一部は、運営するエー・ピーカンパニー(APカンパニー、東京・港)の社員がとったものだ。

 刺し身を提供する場合は店員が、どこの海域で誰がとったのかといった情報を詳しく説明する。多くの社員が宮崎の漁場に足を運んで漁師らと直接話をしており、情報は社内SNS(交流サイト)でも共有する。

 「伝聞ではなく社員の体験なので、お客様に説得力を持って話せる」(APカンパニー)。同店の売上高は計画比1・5倍の月も。午後9時前には平日でも95席ある店内が満席になる人気だ。

放射能汚染問題、収束見えず

食卓の魚離れ加速

 秋の代表的な味覚、生サンマ。風評被害が懸念されたが、スーパーの店頭では、前年並みか前年を上回る売り上げを確保している。「昨年が不漁だったので好調」(鮮魚卸)。ただ通常は年内いっぱい続く商戦も「今年は早ければ11月中に店頭から姿を消しそうだ」(いなげや)という。

 背景には、最大の水揚げ地である北海道の加工業者の団体が、宮城・金華山以南の海域での操業禁止と同海域の漁獲分の水揚げ拒否を漁協などに求めたことがある。サンマは秋が深まるにつれて北海道沖から三陸沖、千葉・銚子沖へと南下。例年、10〜11月は福島沖にさしかかるが、国の暫定規制値を超える放射性物質が検出されると、「蓄えた冷凍在庫も売れなくなる」(北海道の水産加工大手)と懸念した。

 漁業者からは反発もあったが結局、全国さんま棒受網漁業協同組合は、福島第1原発半径100キロメートル圏内海域での操業を禁止。その外側の宮城・福島県境以南の海域も操業自粛を先月決め、供給量が細っているのだ。

 日本チェーンストア協会によると、1〜9月の全国スーパー水産物売上高(既存店ベース)は、前年同期比3・7%減の5553億円。農産物(2%減)や畜産物(0・1%減)と比べても下落率が大きい。震災で水揚げ量が減ったほか、茨城県沖でとれたコウナゴから暫定規制値を超える放射性セシウムが検出されたことも、消費者の魚離れに拍車をかける。

 暫定規制値を超えた魚の流通は確認されていないが、先月には環境保護団体が大手スーパーが販売するブリやカツオを「抜き打ち検査」してセシウム含有量を公表。消費者の懸念はなかなか薄まらない。水産物への放射性物質の影響がいつ消えるのかは不透明で、漁業者や小売業者は取り扱いに気を使う局面が続く。

水産庁「漁獲水域表示を」

情報伝達、体制整わず

 百貨店などで鮮魚店を展開する中島水産(東京・中央)は今月、魚がとれた水域の表示を始めた。パックに貼り付けるラベルに「北海道・青森県沖太平洋」「三陸北部沖」などと印字して並べる。

 ただよく見るとこうした表示は一部。多くの商品は水揚げ港がある都道府県名が記された従来通りの表示だ。「(漁獲水域の記載は)産地の卸や漁業者まで確認をとらなくてはならず相当時間がかかる」と説明する。

 「水域情報に対する消費者の関心の高まりに対応する」。10月5日、水産庁は漁業団体や都道府県に、漁獲水域を明らかにしたうえで出荷するように通達した。通達は東日本の太平洋沿岸地域の水域を7つに分けて表示するよう求める内容だ。

 日本農林規格(JAS)法に基づく生鮮食品品質表示基準では、捕獲した水域を表示するのが原則。ただ水揚げした漁港名や水揚げ港がある都道府県名での代替も認めており、従来は店頭に並ぶ商品の大半が都道府県名だけが表示されていた。

 水産庁の通達に対して、産地では「複数の地点で漁をしており、いちいち水域を記録するのは手間がかかる」(宮城県東松島市の漁師)、「魚群がいる水域を明かせば他の船にとられてしまう」(東北の産地市場の仲買人)と対応が遅れがち。「産地から情報が送られてくる体制が整っていない」(全国中央市場水産卸協会)のが実情だ。

 イオンやヨーカ堂など大手は今月から、いち早く水域情報の提供に踏み切ったが、これは産地漁港などから直接調達を増やしているためにできることだ。ヨーカ堂は店頭に並ぶ鮮魚のうち、産地からの直接調達の割合が全体の9割超だ。

 市場を通す取引が多い小売業者は、現状では水域表示は難しい。「消費者の需要はあるので、早くやりたいのだが...」と話すのは、首都圏地盤のサミットの担当者。「漁業者から産地市場の卸業者への情報提供が少ない」ため、実施の見通しがたたないという。

 消費地市場の代表格である東京・築地市場では、サバやサンマなどの回遊性魚種の荷に水域情報を添える取り組みを始めたが、「荷受業者が産地の卸に問い合わせて1つ1つ確認している」状況。小売りには「卸業者に漁師が伝えたことが本当かどう証明するのか」(首都圏の中堅スーパー)との不安もある。

 東京海洋大学海洋科学部の馬場治教授は、「漁業者は漁場を明かさないというのが通例だった」としながらも、原発事故で環境が変わっており、「詳細で正確なデータを出すことが風評被害を抑え、漁業者を守ることになる」と指摘する。

(食の安全取材班)

ニュースの最新記事

PAGE TOP