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VRやAR、防災に活用、洪水など危険性理解へ。

[ 2017年7月19日 / 日経産業新聞 ]

 仮想現実感(VR)や拡張現実感(AR)を防災に役立てる試みが盛んだ。スマートフォン(スマホ)など身近な手段で地域に潜む災害リスクを住民に伝えて、火災や洪水が発生した際のイメージをかき立てる。災害への準備や速やかな避難に貢献できると期待されている。地域住民を巻き込んだ利用拡大が課題だ。

 ゴーグル状の専用装置を頭に着用すると、目の前に住宅や学校の映像が飛び出してきた。頭を動かして回りを見渡すと至る所で火柱が上がっている。逃げ道を見つけてもしばらく歩くと別の火が行く手を阻む。無事な経路を見つけるのは至難の業といえる。

 これは東京大学の加藤孝明准教授が開発した災害体験システム。東京都中野区のデータを元に、VRでその町並みを再現した。念頭に置くのは首都直下地震の発生などで同時多発的に起きる住宅の大規模な火災だ。

 システムは災害時に避難所に行けるように、事前にリスクを知ってもらうために役立てる狙いだ。加藤准教授は「自分が住む地域で起こる災害の危険を事前につかむツールになる」と力を込める。

 2011年の東日本大震災の後、VRを防災に役立てる取り組みが盛んになった。VRやARは疑似体験をして直観的に理解しやすい利点がある。災害へのイメージを持ってもらうにはうってつけの技術だ。

 実際に自治体が利用する例も出てきた。荒川や綾瀬川など複数の河川が通る東京都葛飾区は、東大やソフト開発会社のキャドセンター(東京・千代田)と共同で、河川の氾濫による洪水の危険性をARで把握するアプリケーションソフトを開発した。

 区内を移動しながらスマホやタブレットでソフトを操作する。全地球測位システム(GPS)とカメラが連動し、風景に合わせてその場所で想定される浸水の深さが画面上に表示される。氾濫に伴う急な水流も再現し、実際に起こる氾濫が感覚的に分かるようにした。

 神奈川県茅ケ崎市は大津波の到来による浸水レベルを示すARソフトを公開した。将来起こりうる3種類の大地震のデータをもとに、各地で想定される最大の浸水深さを示す。最寄りの避難所への方向なども矢印で表示するシステムだ。

 住民にイメージをつかんでもらうのは災害対策として重要だ。7月上旬に九州北部を襲った豪雨による水害では、地区によって避難の判断までに時間差があった。現地を視察した山口大学の赤松良久准教授は「設備での対策には限界がある。万が一の危険性を理解し、速やかに避難するのが最も大事だ」と指摘する。

 各市町村は河川の氾濫による危険予測地図(ハザードマップ)を公表している。通常は地域ごとに浸水域を塗り分けた平面地図だ。「これだけでは『水が来る』ことしか分からず、どのように水が襲うかイメージできない」(赤松准教授)。今後はVRなども使い、研究者と行政が連携して、リスクへの理解を広める必要性が高まるという。

 ARソフトの利用は、ほかには堺市など一部の自治体に限られる。東大の加藤准教授は「技術を防災に生かすには、地域住民の参加が不可欠」と指摘する。葛飾区や茅ケ崎市ではソフト作成に住民が関わり、表示をわかりやすくしたという。

 地震や津波、豪雨に大規模火災――。災害リスクは地域によって異なる。円滑な避難を促すには、事前の災害への理解が大切だ。VRやARを役立てるには、まずは活用法やその価値を地域住民らに広く伝える必要がある。(松添亮甫)

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