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さくらインターネットフェロー小笠原治氏――個人情報も運用の時代へ、「情報銀行」で安全・適切に、官民が力(ビジネスQ&A)

[ 2017年7月24日 / 日経産業新聞 ]

 ネット上の個人情報を適切に管理・運用する「情報銀行」の仕組みを作ろうと、民間や政府が力を入れている。銀行に相当する機関に個人が情報を預けておくと、適切に匿名化されたビッグデータが企業の製品開発などに使われ、企業が支払うデータ利用料が個人にも還元される。情報銀行の実現に向けた活動に取り組んでいるさくらインターネットのフェロー、小笠原治氏に聞いた。

 ――なぜ「情報銀行」が必要なのでしょうか。

 「情報銀行は(あらゆるモノがネットにつながる)IoTと切っても切れない関係にある。IoTの領域では個人のランニング記録や心拍数などのデータがたくさん蓄積される。スタートアップ企業がこうした情報を使い、健康管理や高齢者の見守りなど様々なサービスを始めている」

 「ただ、これらの企業がそれぞれに情報を安全に管理できる体制を整えるには多大なコストがかかる。利用者にとっても、知らない企業に自分の体調や生活に関わる情報を預けるのは不安だ。そこで必要になるのが、個人の情報を安全に守る情報銀行の存在だ」

 ――具体的に、どのような仕組みなのですか。

 「例えば、あるIT企業に、尿の成分を調べるセンサーで健康管理ができるサービスがあるとする。サービスを使う個人は情報銀行に自分のアカウントを作り、センサーのデータを保管してもらう。そして、本人の許可のもとで企業がデータを参照し、健康管理のサービスを提供する。情報銀行は個人や法人のデータを守るのが仕事で、高いガバナンスが求められる」

 「多くの人数の数年分の尿成分データが集まれば、これは製薬企業にとっても価値のあるビッグデータとなる。情報銀行は利用を許可した人のデータを集めて匿名化し、製薬企業は利用料を払うことでこのデータを創薬研究に使える。データ利用を許可した人には、ビッグデータの活用で生まれた利益がきちんと分配される仕組みだ」

経済効果はかなりの規模

 ――金融の仕組みに似ていますね。

 「金融におけるお金を情報に置き換えたものだと考えていい。活発に情報がやり取りされるなかで、その流通を制御する機関がないのが今の状況だ。これは銀行が無いまま、お金が行き交う社会に似ている。自分の意思に基づき、流通する自分の情報を制御するためには情報銀行が必要になる」

 ――経済的にはどのような効果がありますか。

 「今後、情報の流通を扱う『情報流通産業』が立ち上がってくるはずだ。金融やITのようにあらゆる産業に関わることになるはずで、かなりの規模の経済効果があるといえる。2011年の世界経済フォーラムが発行したリポートでも、個人情報は『新しい石油』だとする例えがあった」

 「検索履歴のように、人が入力したデータをもとにしたこれまでのインターネット産業では日本は競争に負けているのが現状だ。しかしIoTの時代になり、血糖値や帰宅時刻といった、人が生きているだけで生まれてくるデータに注目が移ってきている。この領域で新しく起こる情報流通という産業を、しっかり取りに行くことが大事だ」

 ――個人への恩恵は具体的にどのような形で生まれるのでしょうか。

 「例えば、様々な病院で受けた検査結果のデータや数値は、個人の手元にあっても役立てるのが難しい。情報銀行にデータを集めて預けておけば、本人の許可の下でデータを保険会社に見せ、健康の度合いから保険料を安くしてもらえるかもしれない。また、数年後に医学の進歩で検査画像と病気の関連性などが新たに解明された時、病院などに依頼して昔のデータに遡って再検査をしてもらうこともできる」

 ――現在、どのような動きがありますか。

 「民間では、さくらインターネットや日本総研の他にNECも取り組んでおり、複数のグループが実現に向けて動いているところだ。官の側でもうまく産業化につなげたい思惑があり、経済産業省や総務省などが推進している」

 「海外で、国をあげて情報銀行の実現を目指している例はあまりない。日本は技術的な課題をクリアしており、社会の大きさもちょうど情報銀行の仕組みを実現しやすい規模だ。経済成長のために新たな産業を求めている状況も加えて日本は情報銀行の実現に適した国だといえる」

最大の課題は法制度

 ――実現に向けてどのような課題がありますか。

 「法制度の課題が大きい。情報銀行や情報の流通は今までにない制度だ。現行法上でどのように制度を動かすかが課題になる。国ごとに個人情報の扱いに関する姿勢が異なる点も将来は調整が必要だろう」

 ――情報銀行をどれだけ信用できるかという不安もあります。

 「金融業界に銀行が複数あるように、情報銀行も複数の機関が設置されるイメージだ。その中から信頼できる機関を自分で選び、不満があれば後から乗り換えることもできる」

 「このとき、自分の情報を別の機関へ移し替える権利が保障されていることが重要だ。現在は米の大手IT企業など、一部の企業に個人の情報が集中して集められ、個人の意思で他の企業に情報を移動することができない。欧州では情報の集中が問題視され、情報の所有権は個人が持つべきだという議論が高まっている」

 ――個人が情報の所有権を持つことで、企業の活動にも変化がありますか。

 「個人のデータが集まると新たな経済的価値を生む。こうした個人情報の所有権は、個々人が持っている方がいい。一部の企業への情報の集中を防ぎ、適切な競争環境をつくることにもつながる」

(聞き手は出村政彬)

 おがさわら・おさむ 京都府立洛北高卒。1999年、さくらインターネットの設立に携わり取締役就任。IT系の企業で代表を歴任し、2013年に株式会社ABBALab(アバラボ)設立。15年より現職。経済産業省の新ものづくり研究会委員も務める。

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