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視線の先、AIがお見通し、NECが開発、防犯や販促、用途多彩(Innovation)

[ 2017年11月30日 / 日経産業新聞 ]

 目は口ほどに物を言う。言葉には出さずとも人間の目は時に雄弁だ。興味や緊張といった感情は知らず知らずのうちに視線に表れる。NECは人工知能(AI)を使い、こうした人間の視線をリアルタイムに、一度に多くの人数を検知できる「遠隔視線推定技術」を開発した。防犯やマーケティング、芸術と様々な場面で技術を生かせる可能性がある。

 JR東京駅から丸ビルや新丸ビルへと続く暗い地下通路に11月、突如として様々な花が咲き乱れた。NECと映像制作のネイキッド(東京・渋谷)が手掛けた、全長10メートルほどのスクリーンに映し出すプロジェクションマッピングだ。

既存のカメラで

 道行く人は思わず足を止めて近寄り、じっとスクリーンを眺める。するとその視線の先から枝がスルスルと伸び、花が次々と咲き始めた。多くの人が集まる場所の前に色とりどりの花が咲く。

 スクリーンの中にはカメラが設置されており、撮影した観客の視線がどこに向かっているかをAIが推定している。観客の視線の当たる場所を見つけだし、花を咲かせる仕組みだ。

 ここで使われている「遠隔視線推定技術」は文字通り、離れた場所から視線の方向を推定する。ほぼリアルタイムで視線の動きをとらえる。映像内の人間の目から赤い線を出して視線を示すこともできる。

 視線の推定技術はウェブ広告の効果測定や障がい者のパソコン操作で使われるが、どちらも専用端末を対象者の目の前に置いて眼球の動きなどから推定するものが一般的だ。

 NECの技術は、10メートル離れた場所から撮影した画質の粗い映像でも認識できる点が特徴。デジタル戦略本部の茂木崇エキスパート(41)は「遠くから撮影すると一度に多くの人物の視線が把握できる」と語る。カメラが顔を撮影できる限り多くの人の視線を同時に推定する。もう1つの特徴が通常のカメラが使えることだ。つまり小売店や街中など、あらゆる場面で活用の可能性がある。

 NECが得意とする顔認識技術を応用し2016年12月に完成した最新技術だ。顔認証ではAIが目、鼻、口などの特徴点を把握して人物を特定する。データサイエンス研究所の森下雄介主任(34)は「顔の情報を細かく把握できる顔認証技術を使えば視線もわかるのでは」と、14年から開発に取り組んだ。

 目頭と目尻で目の範囲を把握し、さらに白目と黒目の割合から見ている方向を割り出す。撮影環境、顔の向きなどが様々な数十万枚の顔写真をAIに学習させた。

目を正確に把握

 普通のカメラで視線を推定するには、映像から目の位置を正確に把握する必要がある。森下氏は「たった5度の角度の誤差があっても、見ている場所が全然違ってくる」と話す。開発のハードルは高いが、NECは得意とする顔認証技術を使うことでクリアした。

 当初から想定していた用途はセキュリティー分野。例えば犯罪者は犯行前にキョロキョロと周囲の状況を確認する傾向があり、下見の際には監視カメラや警備員などにチラチラと視線を移す。6月には三田警察署(東京・港)との合同訓練で、犯人役の歩行者の怪しい視線を察知した。

 もうひとつの有望分野は人間の興味を見つけることだ。新野隆社長(63)は「視線推定技術は小売りや流通業、マーケティングに使える」と期待する。例えば小売店の監視カメラ映像を分析すれば、来店者がどの商品や店頭販促に目をやり購入につながったか、または全く目に入らなかったかわかる。販売戦略の効果測定や見直し、策定に活用できる。

 現状では、小売業での効果測定は商品が売れた時点の会員情報に頼っている。購入に至る前の動きまで分析できれば、マーケティングに新しい視点をもたらすことができる。

 電子看板の上に小型カメラを設置すれば、映像から人々の視線を推定し、どの広告が多く注目を集めたかといった効果測定に使える。ショッピングセンターや観光地、映画館、駅構内など電子看板が使われる様々な場面で用途がありそうだ。

 遠隔視線推定技術は森下氏が初めて開発した。東京駅の地下通路で利用され「まさかアート作品に使われるとは」と驚く。自分でも思いも寄らない用途が生まれる可能性がある。

 使い勝手を高める上ではまだ開発上の課題がある。例えばマーケティング用途なら「おにぎりの棚を見た」ことだけではなく「梅おにぎりの商品を見た」というところまで把握する必要がある。このあたりが次のブレークスルーとなりそうで、森下氏は他社に先駆けて開発した技術に磨きをかける。(宮住達朗)

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