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「人の顔」悩むベンチャー、改正個人情報保護法で規制、介護や防犯、画像活用に壁。

[ 2018年5月21日 / 日本経済新聞 朝刊 ]

 人工知能(AI)など最新技術を持つベンチャー企業が「人の顔」に頭を痛めている。改正個人情報保護法で顔画像の利用が規制され、プライバシーの配慮も必要だからだ。介護や地域の安全向上など公共的なサービスを目指す企業の壁になっているケースもあり、企業から政府に問題提起する動きも出始めた。

 「認知症患者に優しい介護手法を全国に普及させたいのだが……」。エクサウィザーズ(東京・港)の石山洸社長は悩ましげだ。同社はフランス発祥の介護手法「ユマニチュード」の普及支援サービスを手掛ける。

 同手法は介護者がどのような目線や話し方で要介護者と接すれば認識してもらえるかを細かく体系化したのが特徴だ。同社は熟練者による介護の様子をカメラで撮影し、要介護者の表情や反応をAIで解析。データをもとに介護初心者の技能向上の映像マニュアルを作り、研修や遠隔教育で使う計画だ。

 石山社長は「例えば大都市の介護施設で得た有用なデータを、過疎地などでも使いたい」と話すが、障害となりかねないのが患者の顔画像の取り扱いだ。2017年5月に全面施行された改正個人情報保護法は顔画像を個人情報として規制の対象にしたからだ。

 個人情報を第三者に提供するには原則として本人同意が必要になった。認知症を患う本人から同意を得られるのか、家族や施設の同意は有効なのかなど論点が多い。

 いまは提携先の限られた介護施設で撮影し、その施設内でデータを利用しているため、同意の問題は生じていないが、同意の判断基準が明確化されないと幅広い地域での展開は難しくなる。石山氏は4月、政府の未来投資会議構造改革徹底推進会合に出席し、顔画像利用に伴う問題を指摘した。参加者は強い関心を示していたという。

 防災・防犯カメラの機能を引き上げるAI技術を持つチャオ(東京・港、山本秀基社長)も顔画像に苦慮する一社だ。全国の自治体が河川や公園などに設置したカメラをインターネットに接続し、自社技術で画像を解析して自治体や住民に利用してもらう構想を持つ。

 同社の技術力を使えば線路下の「アンダーパス」と呼ばれる道路の水没災害の最新情報の提供や、不審な人物の早期発見などが可能になる。住民が画像をスマホで確認したり、自治体が警報を受け取ったりできる。

 北九州市が導入を始めているが、通行者の顔などが映り込む画像の一般公開には慎重だ。プライバシー権の侵害との批判を受けかねないことが、自治体がカメラ画像の大々的な二次利用に二の足を踏む理由だ。

 14年に独立行政法人が大阪市の駅ビルで一般の通行人の顔を撮影しようとした実験は市民の反発で中止に追い込まれた。専門家からは「正当な目的があり、カメラの設置場所などが適切であれば、顔画像を含めたデータ利用は適法」(プライバシー権に詳しい小林正啓弁護士)との声もあるが、一般市民の警戒感も強いのは事実だ。

 公共的なサービスを目指す企業に顔画像が映り込んだデータの利用をどこまで認めるのか。日本経済活性化のカギを握るベンチャー企業を育てるために、個人情報に絡む課題の整理は避けて通れない。(編集委員 渋谷高弘)

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