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防犯に「民力」の可能性――安全な街、住民の手で。

[ 2018年9月17日 / 日本経済新聞 朝刊 ]

 自治体の防犯担当者や警察関係者が注目する研究者がいる。東京大准教授の樋野公宏さん(43)。「花に水やりをしながら子供の登下校を見守る」「犬の散歩やジョギングをしながら街を巡回する」。いずれも樋野さんが「プラス防犯」と名付けた取り組みだ。

 一つ一つは地味かもしれないが、参加する住民の負担は少ない。巨額の資金や難しいノウハウは不要で、自治体が導入するハードルも低い。樋野さんは「住民同士の交流が生まれ、地域の防犯意識が高くなる利点もある」と話す。

 日本の社会から犯罪が減っている。警察庁によると、昨年1年間の刑法犯認知件数は約91万件。戦後最悪だった2002年は約285万件だった。わずか15年で3分の1に減ったことになる。

 内閣府の世論調査(17年)では、日本の治安がよいと考える割合は80・2%で、12年より20ポイント以上増えた。世間の注目を集める凶悪事件は起こっているが、人々の実感、いわゆる「体感治安」も良くなっている。

 犯罪の増減は警察の力量だけでなく、社会の年齢構成や経済情勢、人々の気質の変化など様々な要因が絡む。犯罪が大幅に減った理由を一言で表現するのは難しいが、樋野さんが提唱するような住民自身による防犯活動が一役買っているのは間違いない。

 樋野さんが防犯専門アドバイザーを務める東京都足立区の場合、最悪だった01年の刑法犯が1万6843件に達し、東京23区でワースト1だった。今年の刑法犯は7月末までで約3千件だ。

 区が取り組んだのが、軽微な犯罪を放置すると治安が悪化する「割れ窓理論」を基にした「ビューティフル・ウィンドウズ運動」。防犯カメラの設置から花壇の水やり、自転車の施錠義務化まで内容は多岐にわたる。

 毎日、自宅前の公園で花の世話をしながら小学生を見守る両角謹伍さん(84)も効果を実感している。「この街に住みたいと思う人が増えてくれたらうれしい」。こうした一人ひとりの実践が安全な街づくりに果たす役割は小さくはない。

 今年の警察白書は刑法犯の減少を強調する一方で、児童虐待やストーカー、特殊詐欺、サイバー犯罪など新たな犯罪を「重要な課題」と位置づけ、警鐘を鳴らした。

 実はこうした新しい犯罪への対応にも「民力」は生かせるのではないか。「虐待が疑われるような場合は声をかける」「ネット上で怪しげな書き込みを見たら通報する」。自転車泥棒を防ぐようにうまくはいかないかもしれないが、警察頼みだけでは課題解決は難しい。無関心は犯罪を助長する。(石川淳一)

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