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災害時の大停電、企業の対策は?、MS&ADインターリスク総研山口修氏に聞く、最低限守るもの選別を。

[ 2019年4月26日 / 日経産業新聞 ]

 2018年度は地震や台風による大規模停電が相次ぎ、企業活動にも大きな影響があった。そうした災害に企業はどう備えるべきか。企業のBCP(事業継続計画)に詳しいMS&ADインターリスク総研(東京・千代田)事業継続マネジメント第一グループ長の山口修氏に聞いた。

まずはおさらい

 18年は秋に北海道胆振東部地震が発生し、台風では21号・24号が関西・中部地方を中心に被害をもたらした。共通した被害が大規模停電だ。北海道地震では北海道電力の管内全域の295万軒が停電。台風の影響で関西電力は225万軒、中部電力は119万軒が停電した。停電が長期間に及んだことで企業の活動にも影響が出た。災害時の対策の必要性が浮き彫りになる一方で、内閣府によると企業が災害などの際のBCPの策定率は17年度で大企業で64%、中堅企業では31%にとどまっている。

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 ――18年度は大規模な台風や地震などの災害が相次いで発生しました。大規模な停電が発生するなど企業活動にも影響がありました。

 「普段から大地震などのBCPを策定しているところは当然停電も想定しており、事前の停電対策も機能したと認識している。BCPを策定していなかった企業も今回の大規模停電などで策定しようという意識付けになったのは間違いない」

 「ただ、対策をしていていも十分に機能しない事例もあった。停電対策で自家発電機などを置いていたが、普段使いしていなかったために使い方が分からず利用できなかった事例もあったと聞いている」

 ――どのような対策を打つべきでしょうか

 「停電対策は可能であれば1週間停電することを前提に整理することが望ましいが、最低でも3日間停電することを前提に整理することを推奨したい。3日間停電しても通常業務を送れるようにするとなると、例えば工場などは大規模な発電所を作る必要があり、ものすごくお金がかかる。最低限何を守るかを考えて投資をするのが事前対策の基本的な考え方だ」

 「あるコンビニエンスストアは停電時でも『最低限レジだけは止めない』という目標を明確に定め、大掛かりな自家発電設備を導入するのではなく、自動車のバッテリーからレジを動かすことが可能な程度の電気が給電可能なコードを全店舗に設置する事前対策を実施していた。このコードは1セットあたり数万円程度のものだが、北海道胆振東部地震では十分に機能しまわりが停電しているなかでも営業を続けることができた。また停電時はすべての機器に給電が可能な自家発電を導入するのではなく、『対策本部における情報収集と発信だけは止めない』という目標を定めて対策本部のシステムやネットワークのみ動かせる電源を確保できる自家発電設備などを導入する事例もある」

 ――事前対策をするにあたって災害や大規模停電の被害をどのように想定すればよいでしょうか

 「まずは自治体のサイトなどに掲載されている災害時の被害想定やハザードマップを見てほしい。地域の震度、津波・洪水による浸水深や浸水継続時間、電気・水・ガスなどのインフラの停止期間などが調べられる。大企業では担当部門がいて調べられていることがあるが、懸念されるのは中小企業だ。行政や損害保険会社などが行う勉強会などで情報収集をしてほしい」

 ――18年度に停電が相次いだ電気はBCP上どのような位置づけになるでしょうか

 「非常に重要だ。電気を使用する設備やシステムを使用する業務ができないため、製造業に限らずほぼ全ての業種で業務がストップすると言ってよい。自家発電の導入等の事前の停電対策が重要となるが、他にも停電の影響を受けていない別工場での生産を増やしたり、在庫を持ったり、他社と連携をしたり、とった事前対策も合わせて考える必要がある」

 ――BCPや停電に備える企業の姿勢はどうですか

 「BCPの整備や運用、事前の停電対策の整備は東日本大震災を契機に広まった。ただ、中小企業では不十分な例も多く、大企業も完璧なものになっているとは言えない。BCPの整備は事前対策を進められない大きな理由としては人材がいない、ノウハウがない、やっている時間がない、といったところだ。さらに『作る意味が分からない』といった声も聞く」

 「BCPの整備や事前対策をためらう理由として『緊急時に役に立つのは分かるが、何時起こるか分からないものに投資はできない』という点も挙げられる。ただ平常時にもメリットがある。例えば、BCPの整備、運用を積極的に推進している企業からは、企業の強み・弱みを整理できた、色々な部署を巻き込みながらやることで社員間のコミュニケーションが良くなったという声がある。BCPに力を入れていることが取引先に対するPR材料となった、従業員を大切にしていることが地域にも伝わり人材の採用にもプラスになったといった話も聞く」

 ――対策の実際の運用に気をつけるべきことは何でしょうか

 「機能するには意識づけが大事だ。BCPや事前対策を作っても魂が入っていなければ浸透しない。普段から従業員が会社や地域などのために自ら動こうという意識が根付いていることが大事になってくる。また、自家発電などがいざというときに使えないことがないように、繰り返し訓練をして運転する経験を積んでおくことも大事だ」

 「何のために対策するかを考え、全社一丸となって横串を刺すことが大事になる。各部門がバラバラに対策を整理すると、各部門にとって最適な対策を作ってしまいがちだ。部門ごとに守りたいものが会社全体で守りたいものと一致せず、災害時に各対策が役に立たない事例が散見される。会社全体で守りたいものを守るためには全部門に横串を指す責任部門を決めて対策を整備し、PDCA(計画・実行・評価・改善)サイクルを回してブラッシュアップしていくべきだ」

 「もともとBCPなどは防災対策の延長と整理され、総務部門を責任部門とする企業が多かった。最近は、全部門を巻き込んで横串を刺しながら策定・運用することの重要性への理解が進み、経営企画部門を責任部門としたり、経営層が積極的に関与したりする企業が増えつつある」

(聞き手は福本裕貴)

 やまぐち・おさむ 1993年阪大法卒、住友海上火災保険(現三井住友海上火災保険)入社。2009年インターリスク総研(現MS&ADインターリスク総研)に出向。12年よりBCM所管グループのグループ長。19年より関西支店長。

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