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楽しみながら防災学ぶ、救急搬送「タイム縮んだ」、制限時間と戦う緊張感。

[ 2019年8月31日 / 日本経済新聞 夕刊 ]

 スポーツやゲームの要素を取り入れたユニークな防災訓練が広がってきた。楽しみながら学ぶことで実践力が高まり、参加者も増加。住民と一緒に考えた独自の訓練を取り入れる地方自治体も出てきた。

 「さっきよりタイムが縮んだ!」。7月下旬、熊本県合志市の公園に子供たちの元気な声が響いた。スポーツ関連コンサルティングのシンク(東京・千代田)が開いた防災訓練だ。

 子供たちが取り組んだのは負傷者を安全に運ぶ「レスキュータイムアタック」。毛布を担架代わりにして5〜6人でヒト型の模型を運ぶ。倒壊した街中の設定でハードルを越えたり網の下をくぐったり。子供たちは「障害物競走みたい」と何度も挑戦していた。

 同社はスポーツと防災を組み合わせた「防リーグ」を全国で開催。火災時の煙を想定して低姿勢で動く速さを競うレースや、効率的に消火するバケツリレー競走など6つの「種目」がある。

 篠田大輔社長は中学1年時に阪神大震災で被災。倒れた家具から家族を救い出した経験から「防リーグ」を着想した。「けが人を運んだりすばやく逃げたり。災害時は体力が必須。楽しく鍛えてもらえたら」と話す。

 「従来型の避難訓練は実践的ではなく、人も集まらない」。防災ゲームを手がける京都大学防災研究所の矢守克也教授(防災心理学)は指摘する。安全な場所に移動するだけの訓練は「面白みや学びがなく、防災意識を下げるだけで逆効果」。

 高齢者や障害者は災害時の不安が大きいが「すばやく動けない自分が参加したら迷惑では」とためらいがち。「ゲームにすることで参加しやすくなった」(矢守教授)

 人気の脱出ゲームを応用した訓練も登場した。

 「大地震が発生しました。30分以内に避難してください」。巨大モニターに表示されると会場の照明が真っ赤に変わり、ブザー音が鳴り響く。参加者は謎を解き、避難に必要な4アイテムを突き止めなければならない。

 「残り5分」。モニターに大きく表示され、消防隊員風の衣装を着たスタッフから「急いでください」と大きな声が飛ぶ。映画のワンシーンのような緊張感だ。イベントを手がけるフラップゼロα(大阪市)は2015年からアトラクションを全国で展開している。

 8月中旬には東日本大震災の被災地、岩手県大槌町で開催。浜田京子さん(38)は愁禾(しゅうか)君(8)を連れて参加した。地震直後、生後間もない愁禾君を抱いて高台に急いだことを昨日のように思い出す。「息子は当時を覚えていないが、訓練で生きるすべを学べたら」。愁禾君は「謎を解いたり新聞紙で服やスリッパを作ったり、楽しかった」と笑う。

 訓練を工夫する自治体も出てきた。堺市西区では、区民でつくる防災組織と共同で独自の訓練を考案した。

 「仕方のないことだが、東日本大震災では避難時にパニックになって声をかけあう余裕がなくなってしまった」(西区自治推進課の阿南敬さん)。そこで小学校など避難場所にステージを設け「津波だ! 逃げろ」と叫ぶ「大声コンテスト」を14年から開催。声量を機械で計測し、声の大きさを競い合う。

 区民はサイレンを合図に最寄りの小学校などに避難する。当初は黙々と逃げるだけだったが、最近は声をかけあって活気のある様子という。

 「高齢者から子供まで楽しめる要素を取り入れなければ飽きられてしまう」と阿南さんは話す。区民の防災意識も高くなり「自分と家族の身は自分で守らなければ」と積極的に改善案を出しているという。

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