<第13回>警察官総合防犯設備士として、防犯対策の最前線に立つ【警視庁 行本ゆき子さん】
[ 2010.02.23 ]
警視庁
生活安全部生活安全総務課生活安全対策二係
総合防犯設備士 第07-0200号
警部補 行本 ゆき子 さん
日防設への実務研修をきっかけに資格を取得
警視庁 行本 ゆき子さん
警視庁には、実務研修という形で民間団体などに警察官を派遣する制度がある。日本防犯設備協会(日防設)にも、5年間で13名が派遣されている。
2006年4月からの1年間、日防設に実務研修生として派遣されていた行本さんは、その研修で学び取った知識で、まず防犯設備士の資格を取得している。
警視庁には、さまざまな資格取得を推奨するスーパーポリスオフィサーという制度があり、その資格のひとつに総合防犯設備士が入っており、2008年にはその資格も取得している。
警察官は、防犯設備士の資格がなくても総合防犯設備士の資格が取得できる内規になっているが、日防設の当時の役員から基礎から学んだ後に総合防犯設備士になることを薦められ、一般と同じように順を追って資格を取得している。
「防犯設備士の資格取得から3年を経ずに、総合防犯設備士試験を受験できたのが唯一の特例です」と行本さんが語るように、それ以外はすべて一般と同じ扱いだったという。
現在、警察官の総合防犯設備士は全国に9名おり、警視庁では行本さんただ一人だ。しかも、全国の警察官の中で、資格を持つ唯一の女性警察官でもある。
防犯の最前線、警視庁生活安全部に勤務
現在、行本さんが所属する生活安全部は、もともと防犯部という組織名だったことでもわかるように、防犯の専門家集団だ。
事件があったときには、防犯や防犯設備に対する指導を現場で行い、警備会社の担当者とも連係して業務を進めることもあるという。
「現場で防犯の仕事をした経験が浅かったのですが、防犯のシステム自体を学んでから現場に行けましたので、物事を素直に受け止め、偏見を持たずに活動できたことが、私の場合の資格取得のひとつのメリットです」と行本さんは語っており、資格取得で得た知識が現場でも非常に役立っているという。
昨年は、コンビニ強盗が多く、現場に出動する機会も多かったという一方、金融機関の強盗が減少した年でもあったという。これは、振り込め詐欺が多発したことに対応して、警察官がATMを警備するようになったためとも考えられ、振り込め詐欺と同時に金融機関強盗の抑止にもつながっていると見られる。
「(金融機関強盗の件数は)前年比で70%減を実現しています。防犯対策を行った後の検証も非常に大事であると感じた例です」と語る行本さんは、「警察官としても総合防犯設備士としても、市民の皆さまに最新の犯罪を知らせていく必要があると感じています。犯罪の手口を知らせるだけではなく、私の場合は総合防犯設備士として、対処法までアドバイスできたらいいと思っています」。
犯罪件数的には減っているものの、より身近で起こる犯罪が増えているため、いつ被害者になるか分からないという危機感から、体感治安的には改善されていないのが実情で、動機不明の犯罪もそれに拍車をかけている。
空き巣の侵入手段:一戸建て住宅
空き巣の侵入手段:中高層住宅及びその他の住宅 侵入窃盗は減少傾向だが、依然として窓からの侵入が多い。
防犯業務に総合防犯設備士としての知識を生かして
侵入窃盗や侵入強盗の対策、業界団体との連係が主な仕事になっているという行本さんは、現場に臨場した後、防犯の観点から今後どのように改善をすればよいかを指導する活動をしている。
「問題点が見つかったとき、指導によって少しでも安全になれば、お役に立てたと思います」というが、問題点は設備だけではなく、ビルオーナーなどの防犯意識にある場合も多いらしい。
防犯は費用対効果が求められるため、犯罪者の手口を知って、効果的でなければならない。そのため、新しい手口にどのような対策が必要であるかを提案することも重要なことだ。
「防犯について、広く皆さんに効果的に知ってもらう必要があります。誰にでも気軽に話せるという問題ではないため、総合防犯設備士の立場から、防犯対策について踏み込んだ意見を言わせていただいています」。
防犯と防災、さらに生活の利便性を共存させていくことは難しい問題だ。また、地域のコミュニティは特に大切で、地域全体が共同体として関心を持って交流していくことが、防犯対策としては重要なポイントになる。
「CP(防犯性能の高い建物部品)の普及を警察庁でも進めていますが、鍵などの部材単体だけでの防犯はありえません。システムや地域での防犯活動を含めた総合的な防犯のお手伝いを、総合防犯設備士として提案できると良いと思っています。その意味でも、総合防犯士会(注)には大いに期待しています」と語る行本さんは、その知識を生かして防犯設備士の資格講習時の講師も務めている。
講習会場には、必ず地元警察の防犯担当者が出向き、30分の講演をすることがカリキュラムに入っている。講師に総合防犯設備士の資格は必要ないが、行本さんは資格を取得していることもあって、東京で実施されるほとんどの講習に講師として出向いているという。
防犯設備士に期待すること総合防犯設備士および防犯設備士と連係した安全で安心な街づくり
これからの総合防犯設備士に望むこと
現在、総合防犯設備士と防犯設備士の違いはほとんどない。資格上、総合防犯設備士ができることで、防犯設備士にできない仕事はひとつもない。また、防犯設備士の資格を持っていなければできない仕事というのも、現在はない。
資格がなければできない仕事というのがあれば、資格者の地位も向上するだろうし、資格に対する認識も高まるとも考えられる。
その上で、「総合防犯設備士の未来は総合防犯設備士自身が切り開いていかなければならないと思っています」という行本さんは、「総合防犯設備士の資格を取得したことがゴールではなく、資格や知識を生かして、情報収集し、防犯に役立てていくことが重要ではないでしょうか。総合防犯設備士の資格を持っていても、さらに足りない部分があるといつも感じています」とキッパリ語る。 (終)
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- 執筆者:
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【インタビュアー】西山 恵造(有限会社 センス・アンド・フォース 代表)
オーディオ・ビデオ機器、計測制御機器、コンピュータ周辺機器などを製造販売する電気機器メーカーの宣伝部にコピーライターとして勤務。計測制御機器やコンピュータ機器に関するパンフレット、広告等のコピーを制作する際に接した、産業機器関連に興味を持つ。1995年に独立後も、IT関連と産業機器関連のコピーおよび原稿制作等に関わりを持ち、2005〜2006年には「震災時帰宅支援マップ」(昭文社刊)の原稿制作にも携わる。セキュリティ分野では、ネットワークセキュリティと防犯のいずれにも携わっており、2007年からはセキュリティ雑誌への記事掲載も担当した。現在、防犯だけでなく防災にも興味を持ち、2008年に「防災士」と「防犯設備士」の資格を取得。
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