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連載コラム

照明イベントの活気と発信力

[ 2011年12月20日 ]

2011年9月15日(木)~9月17日(日)に愛媛県松山市にて平成23年度第44回照明学会全国大会が開催されました。全国大会では日本照明賞などの授賞式、分科会、研究成果発表、シンポジウム等が催され、デザインの分野からテクニカルな分野まで照明に関わるあらゆるジャンルの最新の情報を知ることができます。こういったイベントでは普段仕事では接する事ができない方々とお会いできるのも楽しみの一つです。

特に今回の全国大会では創立95周年記念シンポジウムとして東京スカイツリーの照明デザインを担当している有限会社シリウスライティングオフィス代表取締役の戸恒浩人さんの基調講演が行われたり、私自身が学生時代に慣れ親しんだ松山城の照明が水銀灯からLED照明にリニューアルされ、その松山城のライトアップツアーが催される等、楽しみな見所がたくさんありました。

私事ではありますが、生まれが愛媛県という事もあり照明学会の全国大会という大きなイベントが、地元で開催される事が照明業界に携わる者としてとてもうれしく、特別な想いを持って松山に帰郷しました。

今回は照明学会全国大会の様子、松山城のライトアップツアー、また会期中に見学させて頂いたタスク&アンビエント照明を取り入れたオフィスについてレポートします。またレポートの後半では先日まで東京都内で開催された清澄庭園のライトアップについても報告します。

大盛況の基調講演

楽しみにしていた戸恒さんの基調講演ですが、仕事の都合で当日は開始時間から10分ほど遅刻してしまいました。その日は木曜日で平日であり、定員は800名と伺っていたので、どうにか座ることはできるだろうと思いながら会場入りしたのですが、いざホールを開けてみると立見をしている聴講者が多数で、ホールは多くの人で埋まっていました。東京スカイツリーの造形やライトアップに対する関心の高さを改めて感じました。

これまでに戸恒さんの東京スカイツリーの講演は何度か聴講させて頂きましたが、現在は2012年5月の完成に向けて既にLED照明の実機の開発も完了しているという事もあり、オールLEDによるライトアップを実現するに当たり、オリジナルのLED器具を作り上げて行く上での苦労話など、リアリティのあるお話を多数聞くことができたので非常に楽しめました。また本来は専門知識なしには少し難しい話も戸恒さんの分かりやすく丁寧な解説で、様々なレベルの人がそれぞれの楽しみ方ができる内容でした。


図01、02 戸恒さんの基調講演の様子(写真提供 宮地電機)

特に2°配光の光と、ブルーでライトアップされる「粋」と江戸紫でアップされる「雅」のオペレーションのうち、「雅」の江戸紫の光のお話が印象的でした。東京スカイツリーの照明デザインの概要はTOKYO SKY TREEホームページを参照ください。

スカイツリー頂部のライトアップはゲイン塔と呼ばれる約140mの構造物の先端部分のみをLEDの光によって浮かび上がらせます。


図03 建設中の東京スカイツリー ゲイン塔

しかし、器具を設置する場所は634mのツリー全体でみるとかなり上の方に設置してあるので、ゲイン塔の頂部だけを照らすための引きの距離がほとんど取れません。そのような場合配光の広い広角タイプの照明を使ってライトアップするとゲイン塔全体に光が当たってしまうことから、配光の狭い狭角タイプの器具を使って照らすのが照明デザインのセオリーです。しかし一般的な狭角配光(約10°配光前後)の光をもってしても先端部のみを照らすことが難しく、デザイン案の実現にはさらに狭い超狭角配光の光が必要であることが分かりました。しかもその光をLEDで実現するという難題です。


図04 ゲイン塔の光のイメージ
左:2°配光(スカイツリーオリジナルの超狭角配光)、右:10°配光(一般的な狭角配光)
一般的な狭角配光である10°配光でもゲイン塔の先端部だけを照らす事は難しい。

器具の試作を繰り返し、最終的に2°という超狭角配光の光が完成したとのことです。しかもLEDから放たれる光はライトアップに十分な明るさを有しており、その光によってゲイン塔の先端部はライトアップされるそうです。

また、日本女性の美意識・優雅さを表す「雅」のオペレーションに使用される江戸紫の色味をLEDで再現するにも色々な苦労があったそうです。紫色のような光の色味は明るさを非常に感じにくく、スカイツリーのような巨大な建造物をライトアップするには最も難しい光の色味の一つだと思います。それをLEDで実現するわけですから、現在市販されているようなLED照明ではパワー不足です。またスカイツリーの照明デザインでは大きなコンセプトカラーの一つである「江戸紫」の微妙な色味を再現しなければなりません。これらの条件を満たすために新しい東京スカイツリーオリジナルの江戸紫専用LEDをゼロから開発したそうです。こちらも何度も試作を重ね江戸紫の微妙な色味を調整するために、LEDの蛍光体の配合を調整し明るく高彩度な江戸紫が完成しました。(スカイツリーに使用されるLED照明の紹介は前回のコラムにもアップしましたこちらをご覧ください)

スカイツリーのような巨大な建造物をLED照明でライトアップするということは、照明の専門家である我々の目から見ても非常に難易度が高く、難しい挑戦であることが分かります。正直申し上げて一部ではメタルハライドランプのような高輝度放電灯も導入されるのでは?と思っておりました。戸恒さん自身も本当にオールLEDで可能なのか?という事を当初は心配していたそうです。

しかし先に紹介した2つのエピソードからも分かるように、困難な課題があっても最終的には実現してしまうというプロジェクトに関わる人たちの技術の高さ、そして意思の強さに感動しました。おそらくこれほどの巨大な建造物をオールLEDでライトアップした例は世界にもないと思います。戸恒さんも仰っていましたが、完成したスカイツリーをみてライトアップや造詣の美しさを楽しんでもらうのはもちろんの事、日本には世界に誇ることのできるすごい技術があるということを再認識して欲しいそうです。

様々な事象が重なり、少し元気がない今の日本ですがスカイツリーのライトアップが日本中に元気と誇りと癒しを与えてくれると期待しています。今から2012年5月のオープンが本当に楽しみです。私の事務所の窓からもスカイツリーが見えますので夜中に仕事に追われて一息つきたい時は窓の外のスカイツリーを眺めたいと思います。

松山城のライトアップ見学ツアー

照明学会全国大会のイベントの一貫として、愛媛県松山市のシンボルである松山城のライトアップ見学ツアーが企画されていましたので参加してきました。松山城のライトアップにつきましては、すでに落合勉さんの連載コラムでも紹介されておりますが、私の故郷のシンボルということもあり、重複する部分はあるかと思いますが、こちらでも報告させて頂きます。

松山城は日本に現存する12天守の一つで日本三大平山城の一つに数えられています。(平山城とは平野部にある丘陵を利用して本丸を築き、周囲に外郭を設けた城のことを指します。日本三大平山城は姫路城、津山城、松山城です。)平野の多い松山市にあって標高132mの勝山の頂部に建てられた松山城は市街地のほぼ中心に位置し、市内のあらゆる場所から見る事ができます。勝山に登れば松山市を眼下に一望することができ、松山市民にとってはまさにシンボルと呼ぶにふさわしい城です。これまでも松山城のライトアップは水銀灯を使って行われていましたが、省エネ性、メンテナンス性、演出性を考慮し今春よりRGBのカラーLED照明を採用しリニューアルされました。しかし昨今の節電事情を考慮し、3月から5月までは夜間の点灯は20%くらいまで調光して点灯していました。

今回の照明学会全国大会に合わせて会期中日の9/16(金)に特別点灯するというイベントが企画されました。通常夜間は入ることができない天守閣もこの日は特別に入ることができました。生憎当日は台風の影響もあって大雨でしたが見学ツアーは中止なることなく開催されました。松山城は標高132mの勝山の頂部にあるため、徒歩でも上ることができますが、ロープウェイで頂上付近まで上ることができます。今回のツアーではロープウェイも特別に時間外運転をして頂き、途中までは雨に濡れることなく快適に移動することができました。


図05、06 山頂へ移動するためのロープウェイ
袴姿のスタッフの方がお出迎えをしてくれ、雰囲気を盛り上げてくれる。

ロープウェイを降りると徒歩で山頂を目指します。しばらく歩くと石垣の隙間からライトアップされた天守閣が少しずつ見えてきます。


図07 雨によってできた小さな滝
豪雨の影響でできた即席の滝。たまたま水の落下地点付近にあった石垣の投光器との組み合わせで雨の日しか見る事の出できない貴重な滝のライトアップを見ることができた。


図08、09 城郭(石垣)の間から見える天守閣のライトアップ
LED照明の演出によってさまざまなカラーで天守閣がライトアップされている。

いくつかの城門をくぐり山頂に着くと、目の前には大きな広場が広がりその視線の奥にはライトアップされた松山城の天守閣が浮かび上がっています。かなり強い雨ですが、雨のしぶきが柔らかなベールとなり、ライトアップされた松山城は晴れの日とは違うモヤがかかったような幻想的な雰囲気を醸し出していました。


図10、11 豪雨の夜空に浮かび上がる幻想的な松山城


図12、13 真っ白な漆喰壁は白色の光と相性が良い。

ライトアップにはRGBのLED投光器が採用されています。これまでは1kwの水銀灯37台でライトアップされていましたが、リニューアル後は290wのLED投光器15台となり大幅に消費電力が削減されました。LED投光器は5000lm以上の光束がありLED照明にしてはかなりハイパワーな器具ですが、不快なグレアを極力感じさせないように器具は背の高いポールに取り付けられるなどの配慮が感じられました。


図14 周辺の樹木に隠れるようにハイポールに取り付けられたLED投光器




図15、16 雨の影響でRGBのLED照明を使用して白色の光を作り出している。
赤・青・緑の光がはっきりと見える。

また、これも雨の日限定の照明効果ですが、晴れの日では見ることのできな投光器の光軸をはっきりとみることができ面白い景色をいくつも発見しました。ライブ等のステージライティングでスモークを使った照明演出と似た効果です。



図17~20 雨の滴に光が当たりLED投光器の光軸がはっきり見える。


図21~23 天守閣内部
通常は見る事のできない夜間の天守閣内部。格子窓や矢狭間からLED投光器の光が漏れ出す。


図24 天守閣から見る松山市内の夜景
生憎の雨の為、ベストなコンディションで夜景を見ることはできなかった。



図25~28 晴天時の松山城のライトアップ(写真提供 宮地電機)

松山城のライトアップはLED照明に変更したことで、これまでライトアップに使用していた水銀灯と比べ電気代、CO2の年間排出量共に約9割削減との試算が出ているそうです。改めてLED照明の省エネ性を実感します。また、壁面等の明るさも以前と比較しても遜色なく、さらにはRGBのLED照明を採用したことでカラーライティングも可能になり演出性も向上しました。LED独特の光の指向性が大きな建造物をライトアップする際には影響があるのではないかと懸念しておりましたが、フィルターなどのオプションなどを使って上手に配光をコントロールし違和感のないライトアップを実現していました。このような好例を手本に今後もライトアップのLED化が急速に進んでいくことと思われます。

634mもある東京スカイツリーでは雲が頂部のすぐ近くにあったり、曇りや雨の日は頂部は雲に隠れてしまう事も考えられます。戸恒さんの照明デザインプランでは天に向かって伸びるLEDの光で雲をライトアップしてしまおうというダイナミック仕掛けもあるそうです。少し気持ちが下がり気味になってしまう雨や曇りでも照明を楽しんでもらおうという逆転の発想です。今回は豪雨の中でのライトアップツアーでしたが雨の日限定の照明効果をたくさん見ることができました。こういった効果を意図的に演出する照明デザインも面白いという発見をさせてくれた松山城ライトアップツアーでした。

LED照明を用いたオフィスのタスク&アンビエント照明の事例

松山城のLED照明リニューアルのプロジェクトを担当され、松山城のライトアップツアーを企画された地元愛媛の宮地電機の田部泉さんから照明学会全国大会の会期中に、LEDを使ったタスク&アンビエント照明を取り入れた宮地電機松山支店のオフィス(2011年6月20日リニューアルオープン)を紹介して頂きました。節電の影響でオフィス空間でも従来の照明が見直されLED化が進む中、LEDを使用したタスク&アンビエント照明の好例だと思いますので報告したいと思います。宮地電機は電材の販売、照明器具の製造・販売、電気設備設計・施工、照明設計等様々な事業を展開する四国の照明業界を牽引する企業です。


図29 オフィスを案内して頂いた宮地電機の田部泉さん
田部さんからオフィス照明の概要についての解説をして頂いている様子。

オフィスではリング状のLEDフロアスタンドと、フロアスタンドと同じデザインの灯具を使ったブラケット照明が柱に取り付けられ、それぞれがアンビエント照明として天井を照らしています。これまでのコラムでもタスク&アンビエント照明については何度か取り上げましたが、アンビエント照明とは全般照明や環境照明という意味です。天井や壁面を照らし空間全体の雰囲気を演出する間接照明等がアンビエント照明の代表的な例です。ダウンライト等の全般照明もアンビエント照明に含まれます。一方タスク照明とは作業を行うようなエリアだけを照らす局部照明の事を指します。デスクスタンドなどが代表的な事例です。タスク&アンビエント照明は、心地よい雰囲気を作りながら、明るさが必要な部分をきちんと照らす照明手法です。


図30、31 天井を照らすLEDのフロアスタンドとブラケット


図32 灯具を調光する様子

スタッフの机の明りはデスクスタンドによって確保しています。デスクスタンドの光源はLED電球に交換されています。


図33 スタッフの机に設置されているデスクスタンド


図34 オフィス全体の雰囲気
柱に設置されたブラケットやフロアスタンドの光が効果的に天井を照らし心地よい光だまりをつくる。

オフィスを見学させて頂いたのは11時頃でした。天気は曇りで窓のブラインドは下しているもの外光は入ってくる状況で、オフィス中央あたりの机上面照度は約130lxでした。これまでのオフィス照明の基準から考えると決して明るい数値ではありませんが、よほど細かな作業でない限りは充分な照度です。


図35 オフィス中央の机上面照度を測定。(デスクスタンドなし)照度は約130lx。

またデスクスタンドがあるスタッフの机の机上面照度は約800lxでした。オフィスの机上面照度としては充分な明るさです。


図36 スタッフの机の机上面照度を測定中。照度は約800lx

普段お仕事をされているスタッフの方にオフィスの光環境について聞いてみたところ、やはりリニューアル当初は少々戸惑いもあったそうです。しかし慣れてしまえば机の明かりは作業を行うにも充分ですし、特に問題ないとの事でした。

今年の夏は天井の蛍光灯を消してLEDデスクスタンドを導入し、その光で日中の作業を行うという節電対策を行った企業も多いのではないかと思います。蛍光灯などの全般照明を消灯してしまうと床面のみならず、天井面まで暗くなってしまうので、ある程度広さのあるオフィスでは、日中の外光の明るさが期待できる時間でも窓から離れたエリアではかなり暗く感じてしまうことがあります。また日中の外光は非常に明るい為に、少し暗い場所は外光が差し込むエリアに比べてより暗く感じやすくなってしまいます。

見学させて頂いたオフィスでは、LEDのアッパーブラケットをアンビエント照明として上手に使用し、天井に全く照明器具をつける事無く昼間の暗さ感を解消しています。床面照度はそれ程数値が高くなくても、天井面が明るいと空間全体では明るく感じます。天井をアッパーライトするという手法を選択した結果、天井に照明器具を取り付けるよりも器具の灯数も抑えることができ、加えてLED照明を採用していますから充分な省エネ効果が期待できます。このアンビエント照明とデスクスタンド(LED)というタスク照明を組み合わせることで、快適な光環境で仕事ができることでしょう。これからのオフィスが目指すべき一歩進んだ省エネスタイルが実現されています。

全国的にもLED照明を積極的に導入した省エネオフィスは少しずつ増え始めています。しかし、天井に全般照明が全くないという事例はほとんどないのではないかと思います。オフィスとは均一に明るいものという先入観があるからかもしれませんが、天井に照明器具がついていないと「何かあった時に・・・・」とどうしても不安になってしまいます。私自身、住宅の照明計画などでは天井に照明器具をつけない照明プランをクライアントに対して提案することがありますが、多くのクライアントから同様の問いが返ってきます。


図37 天井に照明器具を取り付けない住宅照明の例
(設計 有限会社デザインプラス 照明計画 Ripple design)

仕事や生活をする上で明るさが必要な部分には、タスク照明で十分な明るさが確保できている訳ですから基本的には問題ないと言って良いと考えます。ただ壁面や天井を明るく照らすことによって得られる空間の明るさ感はなかなか数値で表すことが難しく、個人によって好みも異なります。個人邸と違い、たくさんの人が働くオフィスでは今回紹介して頂いたようなタスク&アンビエント照明の手法を実現するのは難しいのではないかと思っていただけに、その実例を故郷の愛媛で見ることができ、非常に嬉しくなりました。

清澄庭園のライトアップ

ちょうど昨年のこの時期はコラムの取材も兼ねてイルミネーションの調査を行っていました。しかし今年は節電の影響で自粛や規模を縮小しての実施が多いようです。そんな中、清澄白河にある清澄庭園でライトアップイベントが行なわれていましたのでデジカメを片手に出かけてきました。イルミネーションイベントと違い、庭園のライトアップはビューポイントを幾つか想定した照明の配置やプランニング、用途や目的にあった様々な光源や器具の選択、できるだけ照明器具の存在を感じさせない配慮など、仮設のイベント照明とはいえその照明手法は常設の建築照明と全く同じ思想の基に計画されているので、どのような照明演出が行われているか、非常に興味があります。

清澄庭園は都指定の名勝の一つで、隅田川の水を引いた大泉水、築山、周囲に全国から取り寄せた名石などを配した「回遊式林泉庭園」です。回遊式林泉庭園とは庭園を回遊しながら樹木、池、築山などの景色を楽しむ日本庭園の形式の一つです。庭園の広さは約81,091.27㎡と東京ドームの約1.7倍ほどですが、実際にライトアップされているのは約半分ほどの有料庭園区域です。

清澄庭園のマップはコチラ


図38、39 昼間の清澄庭園

散策路の行灯照明
中央の池を囲むように園内を一周している散策路には筒型の行灯照明が配置されています。筒状のアクリルの中に白熱電球が取り付けられていて筒の内側に和紙が巻かれており、光源を隠すと共に行灯のような柔らかな拡散光の演出を狙った照明です。また灯具は杭に固定する仕様になっており、仮設のライトアップイベントには設置も容易で非常に使い勝手の良い仕様になっています。


図40、41 散策路に設置されている行灯照明


図42、43 足元に注意が必要な箇所の行灯照明は、比較的細かいピッチで設置されている。


図44 点灯した状態の行灯照明
和紙と電球色のコンビネーションが美しい。


図45、46 行灯照明のリズムが心地よい。

発光部分が地面から少し浮いているデザインであるため、光が柔らかく地面に拡散しています。意匠だけでなく、足元照明としても充分な機能を果たしています。

アクセントとなる照明
散策路には日本各地の名石や、灯篭、石塔、ベンチなどが配置されていて、それらを効果的に照らしています。特に樹木に取り付けられた小型のスポットライトは、昼間も夜もほとんど器具の存在を感じさせず、さりげなくベンチを照らす心地よい照明でした。


図47、48 スパイク式の小型スポットライトで石を照らす。
正面から照らすのではなく角度をつけて照らすことで凹凸の陰影が強調され、石の表情が際立つ。



図49~51 樹木に小型のスポットライトを取り付け、ベンチを照らす。
器具の設置は手間がかかるが、樹木からのダウン照明は器具の存在感を感じさせず、心地よい雰囲気を作り出す。



図52~54 景石や蹲踞(つくばい)、石塔など対象物に合わせたアッパーライティング&ダウンライティングによる光が、散策路のアクセントになっている。

昼間の景観とグレアに対する配慮
グレアや、昼間庭園に訪れた人たちに対する昼間の景観に対する配慮も随所に見られました。


図55、56 即席のフードでグレアをカットする。仮設照明ならではのグレアカットテクニック。



図57~59 石の背後に隠されたスポットライト
手前の小さな石の背後にスポットライトを隠し、背景の大きな石を照らす。


図60、61 低木植栽の背後に隠されているLED照明の電源

LED照明の導入
清澄庭園のライトアップではLED照明も積極的に導入されています。


図62 小型のスポットライトにはダイクロハロゲン形のLEDランプが使用されている。



図63~65 電球色のLEDにさらにカラーフィルターを使って色温度を落とし、紅葉したもみじをより美しく照らす。
LED独特の輝度感を感じさせないために、グレアカットも丁寧に行う。


図66 RGBタイプのLED照明による演出
ハイパワーなRGBタイプのLED投光器で背景の大きな樹木をライトアップする。

魅せるビューポイントを作る 映り込みの演出
水辺近くの建物や樹木をライトアップすることにより意図的に水面への映り込みを作り出し、散策路に幾つかの計算されたビューポイントが設けられています。








図67~71 水面への映り込みも計算されたビューポイントが設けられている。

また水面への映り込みだけでなく樹木のライトアップも効果的に行われていて、散策路を歩いていると自分なりのお気に入りのビューポイントを見つけることができます。


図72 美しい樹木のライトアップ

照明デザイナーに聞く
清澄庭園のライトアップの照明デザインを担当された焔光景デザイン代表の原田武敏さんにお話を伺う事ができました。今回のような庭園のライトアップで心がけている事やポイント、ライトアップとLED照明について、また昨今の節電事情とライトアップについて等色々とお話して頂きました。


図73 焔光景デザイン 代表の原田武敏さん

ライトアップのポイント
清澄庭園は回遊式の庭園という事もあり、今回の照明計画では夜間も心地よく庭園を散策できるように人の流れを誘導する足元の行灯照明が大きなポイントになっているそうです。比較的短いピッチで散策路全体に配置されているので足元の行灯照明に導かれるように庭園を回遊することができます。


図74 程よい明るさの行灯照明。足元を柔らかく照らす。

この行灯照明は焔光景デザインのオリジナル器具で、アクリルの筒の中に入っている
和紙を交換することで、ライトアップイベントのコンセプトに合わせて違った光の色味を演出する事ができるという面白い器具です。例えば桜の季節であればピンク色の和紙を中に入れるといった使い方が可能です。杭に固定する仕様のため設置も容易で、こういった仮設のライトアップイベントに特化した非常によく考えられた器具だと思います。


図75 足元の行灯照明 内部の和紙の色を変えることによって光の色味を変える事ができる。

また、やはりグレアをカットするという事については丁寧に行っているそうです。年々ライトアップやイルミネーションのイベントは増えていますが、中にはハイパワーな投光器で照らしただけで、照明器具の近くを通ると眩しくて目を覆ってしまうような事も少なくありません。地味な作業ではありますが、お客さんの動線や視線を考慮し照明器具を隠したり、フードでグレアをカットすることで、照明器具の存在を感じさせることなく、光だけを楽しんでもらう事ができます。先に紹介したように清澄庭園のライトアップではそういった原田さんの心配りが随所に見られました。来園者が気付かないような細かい気配りの積み重ねが心地よい光景を生み出すのだと思います。

ビューポイントを演出する
ライトアップやイルミネーションでは美しい光の演出を楽しむのと同時に、訪れた人のもう一つの大きな楽しみは写真撮影です。感動した夜景を写真に撮り、お土産として持ち帰ります。近年のデジタルカメラや、携帯電話のカメラは高感度撮影機能が向上し、撮影に少々テクニックが必要な夜景でも手軽に、そして綺麗に撮影できるようになりました。そのため訪れた多くの人がそれぞれのお気に入りのビューポイントを見つけて写真を撮影します。清澄庭園でもほとんどの来園者がデジタルカメラを持って散策していました。デジタル一眼レフカメラに三脚という本格的なスタイルの人も珍しくありません。今回のような池を中心とした回遊式の庭園では水面への映り込みが最大の見せ場になると思います。


図76 清澄庭園の映り込みの演出


図77 同時期に開催されていた六義園(駒込)のライトアップ
ライトアップされた樹木が水面に映り込み美しい景色を作り出す。

原田さんに照明計画を行う際に、写真撮影を考慮したビューポイントを想定しているのですか?と伺ってみました。計画を行う際に写真の画角までを想定することはないそうですが、数か所のビューポイントを想定し、そこから見たときに景色がより際立つような演出を考えているそうです。実際に自分が想定したビューポイントでたくさんの人が集まって撮影していると嬉しくなると仰っていました。

LED照明とライトアップについて
節電の影響などもあり、急速にLEDの需要が高まっていますが、清澄庭園のような仮設のライトアップイベントでのLEDの使用状況について伺ってみました。既に紹介したように清澄庭園では省エネ性も考慮し、LED照明も採用しています。しかし機能的な理由からLED照明を採用していない部分もあるそうです。例えば足元の行灯照明などは白熱電球を使用しています。もちろんE26口金のLED電球を使用することは可能ですが、行灯の内部で結線するという仮設の設置に対応した仕様であるため、密閉形にするのは難しく、雨や昼夜の温度差により器具内に湿気が残ります。そのため電子部品を使用しているLED電球は機能性、安全性を考慮して使用していないそうです。

逆に、サインや石を照らしている小型のスポットライトは本来ダイクロハロゲンランプを使用することが多い器具ですが、子供が容易に手を触れることができる場所に使用しているので、安全面を考慮し発熱量の少ないダイクロハロゲン形のLEDランプを採用しているそうです。


図78 LEDランプを採用した小型のスポットライト
ハロゲンランプに比べ発熱量が少ないため安全性が高い

その他では単色、RGBのハイパワーなLED投光器が大きめの樹木のライトアップに使用されるなど、用途や機能に合わせて適切な光源を選択されていました。今回のような大規模なライトアップイベントをすべてLEDで行う事は可能か?という事を原田さんに伺ってみました。

「年々進化しているLED照明はすでに大型の投光器に匹敵するパワーを持つものが登場しており、グレアなどに配慮すれば問題なく大きな樹木をライトアップする事は可能です。LED独特の光の色味もフィルターなどを用いて微調整すればこの問題も解決できます。RGBの器具が豊富なLEDは一般の光源に比べてライトアップイベントなどでは演出性にも長けています。従ってオールLEDのライトアップは問題なく可能です。」とのお話でした。ただし一つ問題なのはコストだそうです。「低価格化は進んでいるものの、屋外用のハイパワーなLED照明などはまだ従来光源を使用した器具に比べ割高です。常設する照明器具ならば長期の使用を考慮し、ランニングコストでイニシャルコスト分を回収するという考え方も成り立ちますが、短期間の仮設イベントではランニングコストよりもイニシャルコストの比重が非常に大きくなります。そのためにオールLEDでのライトアップ実現のためには、ある程度のイニシャルコストの準備が必要になる」と仰っていました。今後はライトアップイベントでもさらなるLED化が進んでいくと予想されます。

節電とライトアップイベント
先にも述べたように今年のライトアップ&イルミネーションイベントは震災、節電の影響により規模縮小、中止になったものもあります。しかし、37年ぶりに発令された「電力使用制限令」も解除され、節電の夏時期を超え現在では、日本を元気付けようというテーマでイベントが開催されるなど、状況が少しずつ変わってきています。この時期にライトアップを開催することについてどのように思われているのか原田さんに伺ったところ、「震災から少し時間がたった今だからこそ、普段とは違う夜の景色を気軽に楽しむことができる光のイベントがあっても良いのではないか」とおっしゃっていました。

実際にイベントに訪れている人はみな楽しそうで、美しい夜の庭園の光景を楽しんでいました。楽しむ光の重要性を改めて感じました。訪れた人に楽しんでもらおうという原田さんの細やかな心配りが感じられた清澄庭園のライトアップでした。それぞれの事情がありますので、中止、規模縮小、開催等の判断は難しいものがあり、どちらが良い、悪いという問題ではありません。どのような判断を選択するにも企画する側の想いやビジョンが重要だと考えます。

まとめ

今回は照明学会の全国大会、清澄庭園のライトアップを取材しましたが、いずれのイベントも照明業界を活気づけるようなエネルギーと発信力を感じました。これからの本格的な冬に向けて電力不足も懸念されます。夏の節電時に得た経験を活かし、単なる節電はなく、先に紹介したオフィスの事例のような、LED照明等の省エネ光源を効果的に用いた心地よい節電を目指しながら、楽しむ光も少しずつ街に取り戻していくことが日本全体を元気づける事につながっていくのだと思います。

光のデザインレポート
執筆者:岡本 賢

岡本 賢(おかもと けん) 
照明デザイナー/Ripple design(リップルデザイン)代表

1977年愛媛県生まれ。2002年株式会社ライティング プランナーズ アソシエーツに入社し、幅広い分野のプロジェクトに参加し建築照明デザインを学ぶ。2007年独立し、Ripple designを設立。現在も様々な空間の照明計画を行っている。
URL http://ripple-design.jp

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