【セミナーレポート】成熟市場で勝ち残るデータ活用型MDと協働の実現

 NIKKEI ShopBizのWEBサイトでの、カテゴリーマネジメントの連載でおなじみの日本キャップジェミニの矢矧晴彦ディレクターによるセミナーが3月2日に実施された。矢矧氏は、今回の主催者企画インテリジェント・リテールにも参加しており、カテゴリー・MD戦略について語ってくれている。




矢矧氏


 矢矧氏の講演は昨年に続いての2回目となるが、前回はカテゴリーマネジメントの分析手法とその実践事例の紹介であった。

 今回は、その後矢矧氏が様々なクライアントでの導入支援から感じた課題として、企業としてのデータ活用や協働を進めていくための体制作りについて講演が行われた。

 カテマネ自体は90年代に話題となったが定着しなかったこともあり、小売業では懐疑的な立場の人もいる。またメーカー・卸でも、営業部門が得意先を訪問せずに社内でデータ分析を行っていることに批判的な人がいたりする。残念なことに、これらは感覚的な抵抗である。

 そこで矢矧氏はこういった障害を越えるために、まずカテマネの取り組み提案が承認された次のステップとして、「勉強会」の実施を進めている。カテマネの意義やモデルについての理解レベルを参加者レベルで揃えるところから取り組んでいる。

 矢矧氏が実際に行った取り組みでは、こういった準備を経て、実際の最終評価を行うために10カ月程度の時間をかけている。短期的な結果を求める小売ビジネスを考えると、長いスパンの取り組みである。


 矢矧氏が行っているカテマネは欧州型のD2D(デイ・トゥー・デイ)モデルをベースにしている。しかし、日本の商圏特性の問題から、このD2Dに店舗グループ化の手法を加えている。FSPや商圏データから顧客タイプを見出し、その結果をもとに店舗をグループ化している。これによって、個店を意識しながら、本部主導型のMD計画立案を可能にしている。

 結果として、売上金額では対前年112%、粗利で108%という、素晴らしい成果を実現した。

 しかし、分析方法については、まだまだ改善の余地を見出している。D2Dで使われている評価指標の一部には日本では馴染みの無いものや、分析ステップについても実際にデータ分析を行うまではそのステップの意味が分からずに戸惑うことがある。

 データ分析を行うために、データ整備などでの手間がかかっている。一つは商品マスタの整備の問題がある。カテマネでは市場データをもとに、自社の売り場分類のデータとの整合性を持たせなければならない。自社データは売り場分類と紐付けられているが、市場データと比較するためには市場データを比較可能にするために整理しなければならない。自社で扱っていない商品を分類しなければならずにとても手間のかかる作業である。こういった負担を減らしていけるようなシステム化を考えなければならない。


社内の壁を越える


 こういった、方法論の課題は論理的に解決できる課題であり、データ整備などはデータの持ち方を改良することで解決することができる。最大の課題は、取り組みに対する社内の壁である。

 カテマネを提案のテクニックとして考えていては本当の成功は得られない。そうではなく、販売活動の業務改革としてとらえ、1)販売活動の質の向上、2)提案活動の標準化、3)顧客との提携強化を目指すべきだと矢矧氏は語っている。

 一方で、高度な分析の実現を目指そうとする傾向がしばしば見られる。しかし、現実には高度なレベルのカテマネをメーカーが全ての得意先と行うことには無理がある。矢矧氏は現実的な成果をあげることを強調する。そのためには、カテマネの取り組みをモジュール化し、レベル設定をしながら適用していくことを進めている。そうすることで、手をつけやすいものとし、少しずつレベルアップをしていくのである。

 また、サプライヤー側の準備として、まずカテゴリーキャプテンになることに向けての販売活動のスタンスを見直す必要がある。そして、投資として大切なのは、市場データの購入である。これはカテマネに取り組む上では必須となる客観データである市場シェアや消費者の支出動向に関するデータである。

 成果が見極められたら、教育、情報システム化に投資をして、カテマネの取り組みを通常業務に組み込んでいく努力が必要になる。


 矢矧氏は99年ごろからコンサルタントとしてカテマネの取り組みを本格化させてきたが、ここ数年で小売業側でもデータ活用から、協働への必要性についての理解を高まってきている。

 ただ、サプライヤー側と小売業側でのカテマネの取り組みをすることについての理解レベルのギャップが存在している。カテマネにパートナーとして取り組みことは、かなり深いレベルでの取り組みになり小売業側にも一時的には費用や負荷が発生する。この覚悟が小売業側にないと、うわべだけの取り組みになってしまい、一時的なプロジェクトで終わってしまう。また、サプライヤー側にも小売業の立場に立って、ものごとを考えられるような自己変革が必要になる。さらに一部の深い理解をもったサプライヤー側で、知的優越性を売りにした営業を行っている傾向が見られ、それが小売業さんとの壁になっている。本当の意味でのパートナーシップの確立のために目線を揃える必要がある。

 カテマネへの取り組みは長距離レースであるとともに、実際の取り組みを続ける中で考えてかなければ、ものにならないと語っている。「動中の工夫は、静中の工夫に勝ること幾千億倍」という白隠禅師の言葉で矢矧氏は講演を締めくくった。


協働関係の重要性




 矢矧氏の講演に続いては、菱食 RS統括部の原部長、日本コカ・コーラ・カスタマーマネジメントラーニングセンターの市原統括部長を交えて、トライメディアインクの田原氏の司会でパネルディスカッションが行われた。


 田原氏は冒頭に問題提起として海外企業の経営者の意識について、CIES(国際チェーンストア協会)のCEOの意識調査とコンサルティング会社の調査を使いながら、小売業とメーカーの関係についての紹介があった。サプライヤーにとって今日小売業との関係は経営者にとっての最大の関心事である。小売業にとっては6位であり、上位には業態や顧客ロイヤルティ、品揃え、SCM、IT標準といった課題が並んでいる。また、小売業側の意識としては、サプライヤーは小売業の戦略を理解しているということついては9%しかないが、小売業はサプライヤーに対する協力として消費者理解やカテマネについて考えており、消費者理解については95%の小売業が必要だとしている。


 日本コカ・コーラ市原統括部長は、カスタマーマネジメントラーニングセンターの責任者として、国内外の量販店に関わる事例や営業ノウハウを収集・顕在化し国内の営業力向上のための活動を行っている。

 田原氏の問題提起に対して市原氏は、基本的な流れとして欧米と日本では大きな差は無いが、時間的なギャップが存在しているとコメント。日本でも市場環境や競争環境の厳しくなる中で、新しい仕事の仕方を変えなければ競争に勝てない。キメの細かいMD対応をしなければならず、そのためにパートナー協働が重要だという考え方にここ10年ぐらいで大きく変わってきていると語った。市原氏によると、ジョイントビジネスプランの結果としてグローバルレベルでの両者の会議は「誰がウォルマートの社員か、日本コカ・コーラの社員かわからない」というほどの協働が進んでいるとのことである。


 菱食原氏は、広島のユアーズさんとの取り組みについては成果も上げており、自分自身にとって大きな勉強の場だと語っている。その結果、カテマネは日常業務化しているが、ここまで実現できた背景には、ユアーズ社の経営改革の一環として行われておりトップが責任を持って取り組んでいる。その姿勢が、菱食側でのやる気を引き出している。そのため菱食のもつ全てのツールを投入した総合的な取り組みに結びついているとのこと。小売業の企業を上げた取り組みが、矢矧氏が指摘した認識ギャップを乗り越えて、本格的な協働を実現している。


データを上手く活用する


 データの活用について矢矧氏は、欧州のカテマネの開発者との会話から、たくさんデータを揃えて分析を行うより、顧客理解から売り場作りまでのストーリー性をもって考えることが大事であると語っている。菱食では、様々なデータを揃えて買った時期があった。その結果、一時大量のデータを集めて分析をしてカスタマーに渡すだけで終わっていた。最近では、食卓メニューデータから、季節性などを考えた家庭でのメニューを想定し、それをベースにした生鮮と加工食品の組み合わせといったストーリー性のある提案を行っており、成果を挙げている。

 データ活用を進める上で大事なことの一つとして、データのクレンジングと分析のためのデータ加工作業がある。特にカテマネを進める上で、デー分析の加工作業はバイヤーや営業の本来業務とはいえない。こういった業務についてはシステム化によって、本来業務に注力できるようにしなければならない。


 パネルディスカッションの最後に矢矧氏より、2点大事なポイントが紹介された。

 1点目は先に取り組んだものが勝ちということである。先に取り組んだ企業ほど、サプライヤー側でもエース級の人材が投入されて高いレベルに早くたどり着ける。サプライヤーとっては、意識の高い小売業と本格的な取り組みを行えることができる。

 2点目は、幹部がいかに真剣に取り組むかが重要である。広島のユアーズ社の事例では、副社長・専務自身が会議に出て、担当者に対してカテゴリー計画の詳細について自社ビジネスへの貢献の可能性についてしつこく確認を行っている。


 カテゴリーマネジメントについては棚割りという理解が一般的であるが、本当の成果を得るためには、パートナー企業双方の協働業務改革となってはじめて成果が得られるということである。

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