【セミナーレポート】日本版フューチャーストア構想とその成功条件(EPC RFIDセミナーより)

 3月4日最終日のEPC RFIDセミナーで、小売店舗での無線ICタグの実証実験の報告が行われ、報告に続いて「日本版フューチャーストア構想」についてのパネルディスカッションが行われた。フューチャーストアというコンセプトの実現の中で、新しいデバイスなどが登場していくことになるだろう。 すでに「RETAILTECH JAPAN」では昨年度ストアイマジネーション2009という企画でいち早くこのテーマへの取り組みを始めているが、このテーマは今後の「RETAILTECH JAPAN」に大きな影響を与えるものになる。



 
ストアイマジネーション2009


 セミナーでは経済産業省の支援で行われた実証実験の事例報告が、三越営業本部 営業企画部 ゼネラルマネージャー 西田雅一氏、講談社 販売開発部 次長 永井祥一氏、日本レコード協会 常務理事 田中純一氏から行われた。




西田雅一氏


 
写真左:田中純一氏、永井祥一氏、国領二郎教授 写真右:浜辺哲也氏


三越婦人靴売り場での実証実験


 筆頭は三越による婦人靴売り場の事例であった。無線ICタグの活用事例の多くが、SCMやオペレーションの効率化の話が中心であったが、三越は店頭での接客サービスの向上によって満足度を高めるための活用を目指している。

 売り場から離れたスットクルームにある靴の在庫を無線ICタグによってリアルタイムで管理しており、保管場所や、卸の在庫などを店員が持っているPDAで確認できる。同じシステムをお客様にも店頭で使えるようにしており、お客様自身でサイズ、色違いなどを確認できるようになっている。

 靴売り場では売り場に全てのサイズが展示できないので、店員は常に離れた場所にあるストックルームまで在庫を確認しに行かなければならなかった。手作業で在庫を記録している店も多いがこの方法は正確さの問題があるし、色違いの管理までとなると難しい。この在庫確認のための時間、お客様をお待たせすることが店にとっては大きな問題であった。これが大きく改善された。

 顧客満足度も向上するが店員の業務効率も改善される。例えば検品時間は4割程度削減されるとの見通しであり、棚卸作業なども軽減化されるとのこと。在庫確認のためだけにバックルームに行く必要はなくなり、接客時間を増やすこともできた。効率化と顧客満足が両輪で実現されている。また、タグがついているためにリーダーの上に置くか、リーダーをかざすだけというのは説明が少なくて利用できるところも魅力のひとつとのこと。

 このシステムでの在庫検索を行った記録などから、品切れについての記録がとれるので、POSでは見えなかった機会損失も見えてきているという。

 ビジネスへの貢献度だか、売上げは10.3%アップと、サービス向上の成果が現れている。

 気になるタグについては常に費用が問題になるが、この実験ではタグを販売時にタグを回収し再利用することでこの問題を解決しようとしている。


日本出版インフラセンターによる小売店舗での実証


 日本出版インフラセンターでは業界全体での利用を目指した、川上川下にとどまらずリサイクルまでを視野に入れたサプライチェーン全体での活用を進めようとしている。センターでは55社からなる出版RF-IDコンソーシアムを設立し活動を勧めている

 業界でこのような取り組みを積極的に進める背景には、書店における万引き被害の大きさが引き金である。しかし、万引き防犯だけではなく、それ以外の活用も含めて議論をおこなっている。

 平成15年度の実験では、スマートシェルフにより立ち読みデータ取得により効果的な陳列位置、売れ筋に合わせた仕入れの可能性検証を実施。タグを用いた一括精算によりレジ待ち時間の短縮も行った。16年度はこれらの実証済みの取り組みを含めた包括的な実験を行っている。そのひとつはレジでの読み取り記録から不正流通品の検出に使い、正規に販売された記録が無い商品が、中古店に持ち込まれたときに検出できるようにする。また書店に置いてある絵本塔(回転ラック)の在庫管理や追加注文を行う。

 インフラセンターでは実用化を目指したロードマップを策定しており、2003年の基礎研究、2004年の応用的研究の成果を元に、2005-6年に実用化、2007年から本格導入を目指している。


音楽映像ソフト流通における活用・実証


 音楽映像ソフト業界では、日本レコード協会、日本映像ソフト協会、日本レコード商業組合、日本コンパクトディスク・ビデオレンタル商業組合が実施主体となって、無線ICタグの実証実験を行った。この目的は、物流工程、在庫管理の効率化・省力化とユーザーの利便性の向上と付加価値の提供を目的としている。物流工程、在庫管理はSKU数が多く新製品を含めたSKU数の多さが、コストと人手をかけなければならなくしている。

 物流工程管理の事例のひとつとしては、棚卸の実験では300枚のCDを3分で行うことができた。通常では10分程度かかる。また物流センターではUHF帯による一括読み取りの実験も行った。

 付加価値提供としてはCD視聴機などのサービスの実証が新星堂の店舗で行われた。スマートシェルフと視聴機を並べた売り場をつくり。何が手をとられて、視聴、購入にいったのかというところまで調べられるようにしている。業界ではインフラとなる120万曲のDBが既に完成しているので、今後の普及が期待される。

 また携帯電話にリーダーを接続し、CDのタグを読み込むことでコンサート情報などを入手できるような情報サービスを提供することでワン・トゥー・ワンのサービスを目指しており、店からは想像以上に良い評価もらったとのこと。

 レンタルのTSUTAYAでの事例では、ICタグによって夜間のセルフ返却を行った。従来のシステムでは、返却の確認がきちんとできずに、トラブルなども発生していたが、1枚1枚に個別の識別コードがついていることで返却時に機械での確認ができそういった問題を解決できる。


パートナー会社の連携とビジネスメリットが課題


 3氏の報告を受けて、パネルディスカッションのモデレーターである国領二郎慶応義塾大学教授は、パートナー会社との連携をどう作っていくのかと、ユーザーにとってのビジネスメリットが今後の共通課題だと指摘。


業界連携の必要性


 タグの実現にはパートナーだけではライバル会社も含めて競争と協調を考えなければならない。三越西田氏は、業界団体でのプロジェクトのメリットを指摘している。また卸売業に対してメリットが出し切れてないことが課題だが、この解決策については具体案を検討中とのことである。

 バイイングパワーを持った小売業が要求すると実現できるかもしれないが、日本は栄枯盛衰が激しく、誰がリーダーというのが分からずに難しい。成功事例を作っていくということで、ビジネスが向上したという事実があれば普及していくだろう。ただし、コード体系、周波数、タグの場所などは業界でルール作りが必要で、この両方が揃えば早く進むだろうと、永井氏は業界ルール作りの重要性を指摘。


現場ユーザーの声で完成されていくシステム


 三越での実証事件は4月から本格稼動が決まっており、他の百貨店にも広がることが決まっている。この事実については、経済産業省の浜辺氏はその速さへの驚きを感じていた。ただ、新星堂の実験店を視察してまだ消費者にICタグというもののメリットが十分浸透していないことを残念に感じていた。技術的には十分実用レベルに至っているのに実用化されない現状をなんとかできないかと考えている。

 実用化の鍵のひとつはユーザーからのフィードバックによって、ビジネス上の課題解決と結びついていくことにある。西田氏は「実験だと言っているが、現場からは継続して欲しいという要望があり、実導入が決まった」。 実験が開始されるまでに、現場の意見を吸い上げる努力があった。

 永井氏は「報告書を書くための実験ではなくて実用化を目指した実験で、実際に売り場で仕事している仕事している人々からの提案で、新しいアイディアが出てきている。ユーザーの声が反映されている」。

 一日200点ほどの新製品がでる出版業界では商品知識に限界がある。かざすだけで情報が提供されるのは魅力的である。特に昨年は9つのミリオンセラーが出たが、これらの多くは店舗での店員の推奨から出てきたものであり、こういった動きが出版業界では注目されている。店頭の活性化が業界の活性化に繋がるという考えが広がれば、現在の取り組みを後押しする要因になるだろう。小売店が疲弊すると、製造者も疲弊する。小売店が伸びることを考えなければ自分たちに帰ってくる。年間7万点をこえる新製品を扱うのが小売店。これだけの数を扱えるチャネルは他に無い。年間1000店が閉店されており、雑誌の伸びが止まっている。書店は「好奇心を満たしてくれる場所」だったが、今はコンビニなどに移っている。お客さんを楽しませる店作りで買ってもらえるようにすることが重要である。


日本版フューチャーストア構想


 経済産業省では昨年12月に「未来型店舗サービスを考える研究会」を発足させ、国領教授が座長となり流通経済研究所と野村総合研究所が事務局として、GMS、SM、コンビニ、書籍など様々な業種・業態の企業が参加しながら日本版フューチャーストアの姿を模索してきた。この研究会は、浜辺氏が欧州視察の経験に触発されたことがきっかけで、部分的に行われているICタグの実証の成果をまとめて示すことで普及を図っていきたいということで始められた。この研究会の興味深い点は各社IT担当ではなく店舗営業の担当に参加してもらい、議論のポイントを顧客サービスという観点からの議論を行っている点である。技術実験に終わらせないための意気込みが感じられる。

 国領教授の指摘点である、ユーザーにとってのビジネスメリットの部分から議論が始まっている。また、浜辺氏の問題意識として欧米ではウォルマート、メトロなど小売業が主導で進められており、様子見となっている日本の小売業を触発することを考えているようだ。

 この研究会の考えるフューチャーストアでは、お店の効率化だけではなくお客様の満足度を高める仕掛けの提供も考えおり、そのために「発見」や「楽しさ」「感動」「驚き」などの高度な顧客満足を得るための

 研究会での議論の結果として未来型店舗を構成する要素として次の6つコンセプトが紹介された。

1. 効果的な来店喚起に寄与するサービス

2. 効果的な購買喚起に寄与するサービス

3. 的確な品揃えと商品情報提供サービスに寄与する小売サービス

4. 在庫可視化と物流管理の高度化に寄与するサービス

5. 精算処理のスピード化に寄与するサービス

6. CSR(企業の社会的責任に)寄与する小売サービス。


 これらのコンセプトをもとに17年度には実証事業を行い、このコンセプトは公募要綱の中に盛り込まれる予定である。また、実証実験ではそのスコープを単なる店舗内や特定カテゴリーに限定せず、次の6つの切り口で検討を行っている。

A. 製配販をまたがるサプライチェーン

B. (サービス提供の)マルチチャネル

C. (お客様から店員など)多彩な利用者

D. CRM―顧客へのインセンティブ提供

E. 多彩な商材-全ての商品を対象にする

F. 様々な空間を結び情報ネットワーク


 実証事件に関して、経済産業省浜辺氏は「貴重な税金なのでコミットメントとリスクテイキングのある企業に参加して欲しい」と語っている。

 またこの実証実験とあわせてフューチャーストア推進フォーラムを今年4月から開催する予定である。ここでは、実現に向けた課題であるユーザーにとってのビジネスシナリオの整理や、その実現課題となる技術問題についての検討を行う。


最後に


 最後に各パネリストからのコメントは、実証で成果を上げた自信と知見が含まれたものであった。

 西田氏(三越):「やっぱり日本型のフューチャーストアを高い志で作っていくことは大事だ。アメリカと日本ではサービスの質も内容も違う。積極的な顧客サービスためのIT活用を突っ込んで研究したい」

 永井氏(日本出版インフラセンター):「我々の世代とは違う20代、30代の人たち色々なアイディアが出てくるだろう。そういう人たちにもっと発言して欲しい。その人たちが今後使っていきたいアイディアなので、もっと普及するだろう」

 田中氏(日本レコード協会):「フューチャーストアはリテールの原点ではないだろうか。顧客の囲い込み、顧客の対面サービスとか。そういうものが実現できれば大変良いのだろう」


 先日の国会中継での、この無線ICタグの普及や未来型店舗サービスに関する討論の様子がビデオで紹介された。国会での議論も終わり、「あとは実現あるのみ」という浜辺氏の力強い言葉で締めくくられた。来年の「RETAILTECH JAPAN」でこの成果が見られるのが楽しみである。


 (有明)

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