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連載コラム

第22回「あったかみとおしゃれ感で、今や手書きがスタンダードに!〜今どき店頭POP事情〜」

[ 2005年10月11日 ]

●「ココス」が変わった! ビストロ風外装のポイントは?
 「CASA」というファミリーレストランチェーンが、「ココス」という名前に変わってから、もうずい分たった。「CASA」はファミレスの中では無機的な印象の外装とインテリアで、1980年代に流行したカフェバーなどに近いイメージの店舗。多摩ニュータウンにも2店舗の「CASA」があったが、その2店舗に関していえば「ココス」に変わってからも、インテリアなどの印象はあまり変化がなかった。
 しかし「ココス」は、数年前に大幅なイメージチェンジをした。数日間、店舗を閉鎖しての、かなり大規模な改装工事を行ったのだ(*リニューアル実施店舗/約90店)。その結果、「ココス」はビストロ風のおしゃれ感を出すことに成功。屋根に赤をもってきたことや、白っぽかった内装のベースカラーを茶色など暖色系にしたこと、看板商品であるハンバーグの写真を使った店頭のディスプレイなど、イメージチェンジに成功できた要因はいくつかある。
 けれど、もっとも大きかったのは店頭でとても目をひく「Welcomeボード」ではないかと思うのだ。

 

 黒板風のグリーンをベースにして、チョークで書いたような手書き風の白い文字で「私たちの店にようこそ! とてもおいしい料理を用意して待っています」というようなメッセージが英語で書かれている。そして、主なメニューが列記してあるのだ。このボード、かなり大きくて目立つが、書いてある内容は英語だし、情報量も多くない。ボードに書かれている内容を読んだからといって「入ってみよう」と思うものではないように思える。
 しかし、この「手書き風文字」「黒板風」というのが、ビストロのようなイメージを演出するうえでは、とても大きな効果を上げているのだ。このボードの隣に、ホイルに包まれた煮込みハンバーグの大きな写真なんか出ていると、とってもおいしそうに見える。「ファミリーレストラン=セントラルキッチンで製造された半加工品を、店のキッチンで仕上げて提供してる」ということを忘れて、「ココス」のキッチンで、ハンバーグの種をこねているかのような手作り感が出るから不思議だ。

 「黒板にチョークで書いた手書き文字」というのが、どうもそのイメージ作りのポイントのように思われるが、「そういえば、最近の店頭にはそういう告知が多いような気がするよね!」「凝ったものだとチョークアートとか呼ぶらしいよ」という報告がスタッフからも出たし、たしかによく見かける。
 そこで、いかにも「チョークアート」がたくさんありそうな街・吉祥寺に出かけてみることにした。


●チョークアート街道・吉祥寺をゆく!

 ある日曜日の夕方、吉祥寺の街を歩いてみた。吉祥寺本町の中通りと呼ばれる商店街をブラブラしながら、いわゆるチョークアート(黒板+チョークでの手書き文字を、便宜上そう称しておく)を見かけては、デジカメ画像を撮ってみることにしたのだが、なんとまあ多いこと! 一本、路地裏に入るとビストロやカフェも多く、それらの店の店頭では、かなりの確率でチョークアートが見られる。
 また、いかにもチョークアートという業種ではない美容院、クリーニング店などでも、なぜかある店もあった。吉祥寺の街中を歩いて収集しようと思っていたチョークアートコレクションだが、中通りだけで「もう十分!」なほど集まってしまったのだ。
 これは吉祥寺が特化しているのかもしれないが、いかに、チョークアートが浸透しているかという検証は、この通りを歩くだけでも十分できた。

 チョークアートによって告知されている内容は「本日のおすすめ」「今日のランチ」など日によって変更されるものが多い。印刷されたチラシなどと違って、日によってフレキシブルに変えることができ、常に新しい情報を発信できることがチョークアートのメリットだろう。
 そのため、実際に新しい情報ではなくてもチョークアートにしてしまえば、とても新しい情報のように見えるというマジックもあるようだ。今回、見つけた中にも「それはチョークで書く必要なかろう」という固定された情報のものもいくつかあった。
 それだけ「チョークアート」には、今どき感、おしゃれ感、手作り感などを演出する力があるということなのだろう。いつの間にか、こんなにも多くの店舗がチョークアートを取り入れているということに、本当に驚かされた。


●名脇役・イーゼルのおそるべき浸透度

 チョークアートと共に街にあふれていたものとして、「イーゼル」がある。もともとは絵を描くときにキャンバスを立てかけるためのものだが、チョークアートに使う黒板を立てかけるのにも、かなり重宝されていた。
 さらに、チョークアートだけでなく、コルクボードにメニューや店内写真などをピンナップしたものや、メニューをそのまま開いて立てかけている。イーゼルは、かなり多くの店で、いろいろな使い方をされていることにはおそれ入った。
 なんと、吉祥寺ではセブンイレブンまでもがイーゼルを使っていた。普通は店頭のガラス面などに貼りつけるだろう「おでん全品30円引き」のようなPOP広告を、イーゼルに貼って店頭に出してあったのだ。イーゼルなんて絵画に使われるだけなら、年間での売上などそう多いとは思えない。が、こうやって本来とは違う用途でここまで使われていると、かなりの「特需」ではないかと思われ、「モノの売れ方」のおもしろい事例だなあ、と感じた。

 

●「手書き文字」への回帰現象が示すこと

 吉祥寺の街を探索してみて感じたのは、チョークアートに限らず、手書き文字があふれていることだった。イーゼルに立てかけて店頭に出してある飲食店のメニューは印刷物であっても、たいていが手書き文字だ。毛筆あり、ペン字風ありだが、とにかく手書き! とくにこれは飲食店のメニューには顕著な傾向のようだ。
 20年前にワープロが出現するまでは、「手書き文字=印刷物にする予算がない」だった。だから、印刷された活字のものは立派に見えた時代があったのだ。ワープロからパソコンが普及し、だれでも簡単に「活字=手書きでない文字」を使えるようになった今の時代だからこそ、「手書き文字」が、もてはやされるようになったのではないかと思うのだ。それは、もちろん単なる手書きではない、おしゃれ感や風情のあるものを指すのだが。

 飲食店にその傾向が強いのは、むかし「料理の鉄人」という人気番組で和の鉄人・道場六三郎氏が調理時間の一部を使って、その日の献立を毛筆でしたためていたが、あのへんがルーツなのだろうか? 道場氏もなかなか味のある字を書いていたが、巷にあふれる毛筆書きのメニューは、どれもあの影響を受けているような気がしてしまう。
 かつてはファミレスといえば、どの店に行っても同じ味、品質というのが売りだった。個性は薄いが、はずれがない、というか。しかし、「ココス」のようにファミレスでありながら、あえて手書き文字の「Welcomeボード」を大きく掲げて「手作り感」をアピールする店も出現し、明らかに「CASA」時代よりも支持されている。

 手書き文字への回帰現象は、「みんな同じ」ではない、「オンリーワン」志向の現れなのかもしれない。「あなたのために」「今日はこれ」というような限定感を演出する代表選手がチョークアートであり、手書き文字やイーゼルもそのフィールドで活躍している。
 吉祥寺の街を歩きながらそんなことを感じたのだった。

今どき主婦のShopウォッチ
執筆者:堤 香苗

株式会社キャリア・マム代表取締役。1964年、兵庫県神戸市生まれ。早稲田大学第一文学部・演劇専攻卒業。
大学時代よりテレビ、ラジオのパーソナリティー等をつとめ、フリーアナウンサーとして活躍。結婚、出産後、子育ての経験を生かした仕事を志し、1995年4月、育児サークルPAO(キャリア・マムの前身)を設立。その後、ママの社会参加の機会を積極的に創出する活動母体として、「ママの元気と笑顔」を合言葉に、『キャリア・マム』を設立。現在、コーディネーターとして、主婦や育児中の女性、起業を目指す人へのアドバイスや、「女性の起業」「在宅ワーク」「ITビジネス」等のテーマで講演も行う。2007年1月「おしゃべり力〜主婦のホンネが常識を変える!〜」、5月「ヒット商品はこうしてできる!売れるマーケティングのしかけ」を出版。

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