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連載コラム

第31回「2006 サッカーワールドカップに見る、サポーティングカンパニーの戦い方」

[ 2006年7月10日 ]

●SAMURAI BLUEに賭けたファミリーマートの終戦はいつ?
 この原稿が人の目に触れるころには、もうワールドカップ自体が終わっているだろうが、今、この原稿を書いている時点では、「日本のワールドカップは終わった」という状態だ。連日、決勝トーナメントは行われているし、スーパープレイが続出しているが、日本は限りなく「終戦後」の雰囲気に包まれている。スポーツ紙の見出しもベッカムやロナウジーニョよりも、日本代表の新監督になるらしいオシムの名前のほうが大きい。日本サッカーは、もう2010年に視線を向けるしかないのである。

 なんてスポーツジャーナリストみたいな書き出しをしてみましたが、ま、ワールドカップは盛り上がりそこねて終わった・・・ということである。2006年は荒川静香の金メダルだけが救いだったトリノ五輪に続いて、予選敗退(しかも1勝もできず)のサッカーワールドカップとスポーツイベントは空振り続き。一般国民は「あ〜あ」とため息をつけばすむが、そうはいかないのがそのイベントを、会社をあげて支援してきた企業だろう。

 たとえば、ファミリーマート。ワールドカップのサポーティングカンパニーだったファミリーマートはここ数ヶ月、SAMURAI BLUEに店内が染まっていた。店の外には「ワールドカップサポーティングカンパニー」のブルーののぼり。入口の上にはコカ・コーラのワールドカップフェアの告知。レジ前のいちばん目立つ棚は、ワールドカップオフィシャルグッズのコーナー。そして、店内あちこちにSAMURAI BLUEのタペストリーが下がっていた。

 

 近辺のファミリーマートを何軒か見て回ったが、店によって温度差はあった。日本代表の敗戦が決まる前から、そこまでブルー一色にはなっていない店もあった。コンビニは、チェーン店だから同一かと思えば、やはり案外、店主裁量の部分も多いようだということがワールドカップに対する取り組み方からも見えてきた。となると、ブルー一色のファミリーマートは、それだけ店主のワールドカップに対する思いが熱かったということなのだろう。
 さて、そんなファミリーマートだが、オーストラリアに負け、クロアチアと引き分け、最後にはブラジルに大敗したこの2週間の間に、果たしてどんな変化があっただろう? とくにSAMURAI BLUE化の激しかった3つの店舗の終戦前、終戦後を観察してみた。


●6月23日、夕刻には敗戦処理完了!

 結論から言うと、予選敗退が決定するその日までは、ほとんど変化はなかった。国民感情としては「あ〜どうせダメだよね」「まったくしょうもないなあ」となっていただろうオーストラリア戦やクロアチア戦のあとも、ファミリーマートの店頭を見ている限りは「ジーコジャパンが奇跡を起こしてくれるに違いない」と信じているかのようなブルー一色ぶりが持続していた。
 さすがにサポーティングカンパニーというだけあって、日本中があきらめムードに包まれたところで、最後まで応援し続けるという姿勢を貫いたのは潔かったと思う。
 そして、運命の6月23日早朝。日本代表の予選敗退が決まった約3時間後、朝9〜10時にいくつかのファミリーマートを回ってみたが、まだSAMURAI BLUEは健在だった。スポーツ紙の朝刊も、まだ結果が出る前のものが並んでいて、店内にいると敗戦がまだ伝わっていないかのような時差を感じた。

 しかし、この日の夕方、もう一度、ファミリーマートを回ってみたところ、SAMURAI BLUEのタペストリーは見事に姿を消していた。サポーティングカンパニーの、のぼりも姿を消した。やはり23日の早朝に敗戦が決まって、朝イチで「撤収」の指令が出たとしても9時、10時には対応しきれていなかったのだろうが、夕刻にはその指令が行き渡っていたということか。
 ただし、オフィシャルグッズのコーナーはまだ健在だし、ディスカウントもしていない。コカ・コーラのキャンペーンも応募期間が26日までのため残っている。
 これらのワールドカップ関連の商材は、メインカラーが黒なので、SAMURAI BLUEが姿を消してからは、ワールドカップコーナーは黒一色という印象になった。ただし、非常に規模は縮小しているが・・・。
 案外しぶとかったのが、酒コーナーである。万国旗と「世界のビールを飲んで、日本代表を応援しよう」というPOPが下がっていたが、これは26日の段階でも出している店が多い。「日本代表を応援しよう」を「ワールドカップを楽しもう」に変えたほうがいいのではないかと思うのだが・・・。「世界のビールを飲んで」というあたりに「日本ガンバレ!」だけでなく「ワールドカップ」を盛り上げようとしている感じが出ていて悪くない。

 24日の午前中に、前日まではブルー一色だったある店舗を訪れてみたところ、前日まではためいていたSAMURAI BLUEのタペストリーと思われる青い布をかけたテーブルがレジ前に置かれ、カルビーの日本代表スナックが並べられていた。ディスカウントこそされていなかったが、いかにも「処分」という感じがあり、なんだかちょっとさびしかった。
 五輪やワールドカップのような4年に一度、そしてうまくすれば国民全体が盛り上がること必至のイベントは、大きなビジネスチャンスであることは間違いない。しかし、勝負は時の運でもあり、トリノ五輪や今回のワールドカップのように関連企業にとっては「カンベンしてよ〜」な結果に終わるリスクも、もちろんあるわけだ。
 うまみとリスクの両方を引き受けてこその「サポーティングカンパニー」だとしたら、今回のファミリーマートのSAMURAI BLUE化戦略は、きわめて正しいやり方だったと言えるだろう。ファミリーマートが、短かった日本の2006ワールドカップの盛り上げ役になってくれたことは確かであるし(ファミマで応援せんすやリングを買った人、周囲に多かったし!)、日本代表が負けたあとも、ワールドカップというイベントを盛り上げ続けたことは、まさにサポーティングカンパニーと言うにふさわしい取り組み方だったと思う。


●KIRIN淡麗<生>POPのしたたかさに脱帽!

 ところでサポーティングカンパニーといえば、KIRINである。「25年間サッカーを応援し続けてきました!」と豪語するKIRINも、今回のワールドカップにはかなり賭けていたものと思われる。坂口憲二、八嶋智人、松木安太郎が出ているCM(コマーシャル)もおもしろかった。(「勝ちますかね〜」「勝つに決まってんでしょー!」というあれだ!・・・ところでこのCMは、いつまで放映されていたのだろう?)
 スーパーに行ってもビール売り場には、KIRINのサッカー関連POPはよく目についた。なかなか勝てない日本代表には、おそらくKIRINも泣かされているだろうと思っていたのだが。

 クロアチア戦が行われる日の夕方、あるスーパーで買い物をしていたところ、ビール売り場に「日本代表はこのままでは終われない」というPOPが出ていた。もちろん、KIRIN淡麗<生>のPOPだった。苦戦が予想されるクロアチア戦、しかし「そこで勝利すれば、まだ決勝進出の望みはある」というそのときに、目に飛び込んできたこのPOPは「ほ〜〜〜」と私を勇気づけてくれた。「よし、ビール片手に今夜は応援だ!」そんな気にさせる力を持っていた。
 しかし、「こんなタイムリーなPOP、よく用意してあったなあ」と感心して観察してみたところ、このPOPは大きな卓上カレンダーのような形状をしていた。そして、「このままでは終われない」をめくるとその下には「見えたぞ頂点! いけるぞ日本代表」という威勢のいいPOPが現れたのだ。おお、なるほど! 両方のバージョンが用意してあったのか。こりゃ賢いわ。さらにめくると「熱狂の戦い、始まる」という開幕バージョンが・・・。開幕前から日本の試合までの間は、このPOPだったのか。なんだかタイムスリップしたような気分になった。そして、ふと「ん? では未来を見ることもできるのでは?」と思い、POPを逆にめくってみた。するとそこには「忘れられない感動をありがとう!」という文字が・・・。ああ、確かに。勝っても負けても「感動をありがとう」が日本人は好きだものね。どんな結果に終わっても、このPOPならはずすことはないな、と思った。
 なんと! 終戦後のPOPはこの1種類しか用意されていなかった。予選敗退しようが、ベスト8になろうが、たとえ優勝したとしても「感動をありがとう」で間違いない。KIRINのPOP作りのうまさ、したたかさに私は感動した。まさに「(KIRINよ)感動をありがとう」と思った瞬間だった。

 23日の朝10時、そのスーパーが開店すると同時に、私はビール売り場を見に行ってみた。やはりそこには「感動をありがとう」のPOPがあった。日本サッカーの終戦を私はそのPOPと、その日の夕方、SAMURAI BLUEが姿を消したファミリーマートでしみじみと確認したのだった。そこにはなんだか試合が終わったあとに7分間、ピッチに倒れていた中田英寿の姿もオーバーラップするような「祭りのあとのさびしさ」が漂っていた。
 日本代表もがんばったが、ファミマもKIRINもよくやったよ! 結局のところ、ワールドカップは結果じゃないのだろう(そりゃ、結果もよければそれに越したことはないが)。盛り上がれて、感動できればいいのだ。そのための大きな役目を、ファミマやKIRINをはじめとするサポーティングカンパニーは十分に果たしていたと思う。
 今回のように不発気味に終わってしまったイベントでも、そこに賭けつつ、リスクヘッジにも知恵を絞る、そんな姿勢には感服するしかない。これらの企業にはぜひ、2010年、いやもっとその先まで、ずっと日本のサッカーを支援し続けてほしい。本当の、サポーティングカンパニーと言えるかどうかは、これからが正念場だろうから。

今どき主婦のShopウォッチ
執筆者:堤 香苗

株式会社キャリア・マム代表取締役。1964年、兵庫県神戸市生まれ。早稲田大学第一文学部・演劇専攻卒業。
大学時代よりテレビ、ラジオのパーソナリティー等をつとめ、フリーアナウンサーとして活躍。結婚、出産後、子育ての経験を生かした仕事を志し、1995年4月、育児サークルPAO(キャリア・マムの前身)を設立。その後、ママの社会参加の機会を積極的に創出する活動母体として、「ママの元気と笑顔」を合言葉に、『キャリア・マム』を設立。現在、コーディネーターとして、主婦や育児中の女性、起業を目指す人へのアドバイスや、「女性の起業」「在宅ワーク」「ITビジネス」等のテーマで講演も行う。2007年1月「おしゃべり力〜主婦のホンネが常識を変える!〜」、5月「ヒット商品はこうしてできる!売れるマーケティングのしかけ」を出版。

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