入退管理システムの現状と展望
[ 2010.07.22 ]
ニューヨークを襲った9.11同時多発テロ以降、日本では入退管理システムに対する関心が高まった。また、個人情報保護法および企業の内部統制強化などで企業に情報管理の厳格な対応を求め、これにより入退管理システムの導入が進んだ。
そして、入退管理は、現在では単に不正侵入の抑止という基本的な内容から、企業の抱える課題解決として期待されるようになった。本稿では入退管理システムの最新の動向と展望を紹介する。
【a&s JAPAN 2010年7月号(No.17)より】
大川鮎太郎
変貌する入退管理システム
日本の入退管理システムの歴史をみると、当初は研究所や原子力施設、企業のコンピュータルームなどの特定施設で必要だった防犯システムとして出発した。それは、部外者の侵入の防止であり、特定の「ドアや出入り口」に限定したシステムだった。
もちろんこの基本は現在でも変わっていないが、求められる内容や機能は大きく変化してきたと言える。それは個人情報保護法や内部統制、コンプライアンスといった企業が果たすべき社会的・法律的な責任に加えて、社内の情報管理や機密情報の漏えい防止、労務管理や勤怠情報管理などへの応用であり、企業の抱える課題の解決策として注目されるようになっていることだ。
入退管理システムの現状
入退管理システムは、大企業ではほぼ100%といっていいほど導入・運用が進んでいる。社員が首からカードを下げ、セキュリティゲートを通過していく姿はオフィスの一般的な光景だ。
近年の潮流は人事情報や勤怠管理情報との連動で、動線管理や在室(位置)情報、車両管理(ナンバー認識)などとの連結も一部導入されている。技術動向としては、FeliCaなどの非接触ICカードによる社員証、既存カードの活用、生体認証機器の導入、ネットワークカメラの映像を利用した共連れ防止や録画映像による事後検証、セキュリティゲートの設置と運用、システムの遠隔統合管理などが注目されている。
非接触ICカードとRFIDタグ
現在の日本市場ではFeliCaなどの非接触ICカードが主流だが、ここで非接触ICカードとRFIDタグの違いについて確認しておきたい。まず両者の通信原理は同様で、リーダ/ライタの基本的な機能についても同様だ。ただし、基本的な回路構成を比較すると、非接触ICカードはCPUを搭載しており(一部搭載していないものもある)、RFIDタグはCPUを持たない。
日本工業規格(JIS)によると、RFIDタグは「半導体メモリを内蔵し、誘導電磁界または電波によって書き込まれたデータを保持し、非接触で読み出しできる情報媒体」だ。このJISの定義では、RFIDタグの中に非接触ICカードを含むことになるが、一般的には「パッシブ型RFIDに機能を付加したものが非接触ICカード」と解釈している。
FeliCaが市場を席巻
入退管理システムの最初の接点はカードを使用するケースが多いが、日本市場では「圧倒的にFeliCaが強い」というのが今回取材した各社の反応だ。特に海外メーカーにとっては、FeliCaが大きな障壁になる。GENETEC社IPアクセスコントロールソフトウエアのSYNERGIS(シナジス)を展開するジャバテル代表取締役の佐々木宏至氏も「弊社はグローバル対応なのでWiegandインタフェースをサポートしているが、日本市場へのさらなる浸透にはFeliCaの利用は欠かせない」として対応を強化する方針だ。
日本市場ではセキュリティの分野に限らず、絶えず「世界標準対日本独自」の構図が生まれるが、今後の進展や動向に注目していきたい。
一方、FeliCaで展開する国内メーカーにも新しい流れがあるようだ。それはRFIDタグの活用だ。中央電子セキュリティシステム営業部長の中村肇氏は、「従来の磁気カードにミューチップ(RFIDタグの一種)を貼ることで非接触ICカードとして利用することができ、既存の非接触カードに貼っても多様な使い方ができる」と解説している。また「アルバイトやパート従業員の多い業種では、カード大のプラスチックや厚紙にミューチップを貼っても使うことができる」という。
入退管理システムのリプレースや新規導入を考えている中小企業でも、昨今の経済情勢からコスト面が最優先課題となり、新規の非接触ICカードなどへの切り替えには二の足を踏むケースが多いという。安価なミューチップはこの切実な需要に対応する。
火災報知機や消火設備のトップメーカーのホーチキは、IPベースの出入管理システムid・Techno for Professional IIを提供している。このシステムはドア数640、カメラ32台を制御するもので、「FeliCaはもちろんのことEdy、PASMO、MIFAREなど多様なカードに対応している。顧客要望は多種多様なので、選択肢を多く用意することが大切」と同社営業本部セキュリティシステム部技術課課長の高塚理氏は語っている。
また、入退分野とは異なるが、同社ではデータセンター向けの超高感度煙検出センサを市場投入している。近年のデータセンターではブレードサーバが高密度化し、高温になる状況が知られている。この超高感度センサは「サーバ基盤の床下にメッシュ状に配管され、サーバから発生する微量の煙も検知し警報を発報、大切な情報を火災から守るセンサとして期待されている」と同社セキュリティシステム部営業課課長の星野広一氏は解説している。
超音波を利用したセミアクティブIDタグ
超音波を利用した位置検出システムとして注目されているのは古河機械金属の「超音波3次元位置測位システム」だ。同システムは人や物にタグ(発信器)を取り付け、ネットワークで結ばれた3個以上のリーダ(受信器)がそのIDを受信することで3次元の位置測位を可能にし、「いつ、どこで、誰が(何が)、どういう状態で」という情報をリアルタイムで提供するシステムだ。精度は3次元測位で50~80mm、直線なら20~50mmの誤差を実現し、既に物流分野での製品のトレース、工場でのフォークリフトや運搬車、パレットの位置情報取得による工程改善に利用されている。また入退管理の分野では、社員の位置情報の把握、データセンターではユーザーの行動管理や動線管理に応用し高度セキュリティシステムへの活用が期待されている。さらに、病院や老人養護施設では、患者やお年寄りの位置情報の把握や徘徊の確認、立っているのか、倒れているのか等の安否情報の確認もでき活用の場を広げている。このシステムのもう1つの特長は、ハードウエアとソフトウエアともにパッケージ化されているため様々なシステム(カードシステムやカメラシステムなど)と簡単に組み合わせて使用ができることだ。同社の研究開発本部開発企画部通信グルプ参与の石田益朗氏によると「受信器の数を減らして精度を落として使用することで、工場や一般的なオフィスなど様々な市場での採用が増えている」と語る。今後も注目すべき製品だ。
生体認証装置の動向
これまで本誌でも特集を組み、数多く紹介してきた生体認証機器だが、高度セキュリティが要求される空港や研究所、データセンターやコールセンターなどで導入が進んでいる。特に普及しているのが静脈(指、掌、手の甲)認証だ。やはり非接触で偽造が困難で、検出精度に優れていることや機器のコストダウン化が貢献している。一般オフィスの入退用認証装置としても、機密情報を管理する部門や特定のドアや出入口に限定して導入しているが、一般化までには至っていない。やはり、既存の非接触ICカードやテンキーとの併用が実用に適うという判断で、利便性を優先している結果だと言える。
入退管理分野での今後の生体認証機器の潮流として「顔認証」を挙げる方が多い。中央電子の中村氏は「入退管理システムの理想はやはりウォークスルーであり、今後の検出精度のさらなる向上が期待される」という。やはり「顔」は紛失や盗難の心配がなく、利便性においてもこれに勝るものはない。
デジタルシリンダーとセキュリティゲート
入退管理システムの基本中の基本はドアやゲートである。シリンダーをはじめとするトータル・アクセスの世界ブランド「KABA」の日本法人日本カバでの取材内容を報告する。
日本国内の入退管理システムでは電気錠の導入が進んだが、まだ十分な水準ではないのが実情だ。コスト面が問題点との指摘が多い。同社のセキュリティゲート事業統括マネージャーの武田康雅氏は「日本のユーザーには、多額の施工費をかけずにログを取りたいという要望が多くあり、LEGICカードを使用した配線不要のスタンドアロン式デジタルシリンダーを提供している」と語る。しかし、堅牢で高度な技術に裏付けされた同社製品も日本市場では苦戦を強いられているという。LEGICカードはライセンス生産を他社に供与しないため、第三者によるコピーが非常に困難とされている。海外メーカーから見ると脆弱に映る日本のカードシステムだが、やはり市場の壁は高いと言える。
セキュリティゲートでは回転式の「トライポッド」をラインアップに入れている。日本では開閉式のフラッパーゲートが多いが、海外では圧倒的にこの回転ゲートが主流だ。同社製品は北京オリンピックの開会式の会場(バードネスト)でも採用され、人数計数としても活躍した。さらに、高度セキュリティ用途では円筒形のインターロック式ゲートも用意。共連れ防止措置や体重センサ機能などにより、高水準な入退管理を実現している。
同社の武田氏は「今後とも海外の優れた製品と同時にセキュリティ思想も紹介していきたい」と抱負を熱く語っている。
システム連携の進展・共連れ防止への取り組み
入退管理システムを語る上で欠くことができないのが共連れの防止と検証だ。フルIPによる入退管理システムNet2を展開するケーティーワークショップ代表取締役の城戸誠一氏は「英国Milestone社製IP監視カメラシステムとの連動が可能。Net2システム側の履歴画面の入退出履歴をクリックするだけで、そのユーザーの入退出時の動画映像がプレイバックでき、登録済みユーザーの顔写真と動画像を比較することで不正入室の確認ができる」と語る。
また、同様にビデオインテグレーションの重要性を訴えるのはジャバテル代表の佐々木氏だ。同社の展開するIPアクセスコントロールソフトウエア・SYNERGISは実績あるIP監視カメラシステムOMNICASTとシームレスに統合された。「アラーム前後の映像の録画とプレイバックができることはもちろん大切だが、そのアラームの場所や管理レベルによって、アラーム発報を担当者レベル、上司、役員クラスなど、レベル別にあらかじめ設定することができようになった」としている。
さらに中央電子が展開するAcsaran-WNv画像連携入退管理システムでは、認証者以外が入室するとネットワークカメラが「共連れ検出画像」として自動保存。同社の中村氏によれば「入退室のログ画面からアイコンをクリックするだけで画像の再生を可能にしている」という。
入退管理システムにとって、監視カメラ画像との連携は大きな課題であることは間違いなく、その活用の仕方が問われている。
システム連携の進展・他のシステムとの連動
入退管理システムと他のシステムとの連携の動向はどのようになっているのか。KTワークショップの城戸氏によれば「機械警備システムとの連携が一番多い。Net2は標準システムで連携が可能であり、カードで機械警備のON/OFFと入退管理システムの使用可/使用不可が連動できる。さらに、履歴データを勤怠システムへ応用することも可能」という。
また、中央電子の中村氏は「今後生体認証が普及すれば、例えば指静脈などのテンプレートを個人IDとして共通管理し、入退、オフィス機器のログイン、勤怠情報、社員食堂のキャッシュレス化などに活用できる」として将来を見据えている。
さらに、入退管理システムには、入室後の行動管理や動線管理などが期待されており、今回取材した各社ともに対応を検討しているが、「まずは基本の入退を」というのがユーザー側の偽らざる要望のようだ。いずれにしても経済情勢の好転が待たれるが、機器・システムの高機能化や精度向上は静かに、しかし着実に進展している。
システム連携の進展・カメラ自体がカードリーダに
360°半球全方位画像などユニークなカメラを提供するMOBOTIX JAPANでは、同社のネットワークカメラQ24の技術を応用した新製品T24とRFIDのカードリーダ機能を組み合わせた全く新しいアーキテクチャを発表した。
これは「もともとMOBOTIXのカメラはソフトウエアを内蔵しており、カメラ自体がカードリーダを取り込んでもいいのではないか」という発想から生まれたもので「カメラ内蔵のカードリーダがカメラ自体を起動させるツールとなる。当面カードリーダはスタンドアロンだが、フルIPによるトータルシステムとしての展開も視野に入れている」と同社代表の戸田敬樹氏は語った。今後の展開が楽しみなシステムだ。
今後の展望
今回取材した各社では「省エネ・省電力」をキーワードにした製品が目についた。いよいよ入退管理システムにもエコロジーの風が吹いてきたようだ。中央電子の液晶付非接触カードリーダは、もともと低消費電力設計の上、人感センサ搭載により使用しない時はスイッチがオフの状態になっている。人がカードをかざした時だけオンになり、最大で約80%の省エネを実現するという。
中央電子では屋外監視外乱除去装置を発表した。これは既設のカメラ映像をこの装置に入力するだけで、雪や大雨、霧などの外乱(ノイズ)を低減するもので、雪国などの屋外監視や車両のナンバー認識に大きな貢献を果たすことが期待される。同社の中村氏は「今後とも入退管理などの単一システムだけではなく、よりトータルなソリューションを提供し、ユーザーの課題解決に貢献したい」と抱負を述べる。
また「ビデオインテグレーションの重要性をさらにアピールしていく」と語るのはジャバテルの佐々木氏だ。前述したアクセスコントロールソフトウエア・SYNERGISと監視カメラシステム・OMNICASTとのシームレスな統合によって実現したビデオ統合システム・Security Centerを背景に「監視システムをコスト(費用)からプロフィット(収益)へと変革したい」と将来を見据える。
ホーチキでも今後の展望として、映像との連動が大きなキーワードになると考えている。同社の高塚氏は「カメラ映像とのシームレスな連携が不可欠な要素だ。解決すべき課題もあるが、なりすましや共連れ防止に注力していきたい」と見解を述べる。
ONVIFなどに代表されるビデオ機器間の規格統一、さらにはH.264に代表される動画像高圧縮技術の普及など、映像監視の世界はまさに変革の時を迎えている。メーカーやベンダー各社の真価が問われることになる。
入退管理システムは単独型から統合型へ、大企業から中小へ、そして都市から地方へと裾野を広げている。今後とも入退管理システムの動向から目が離せない。そんな中、日本カバのセキュリティゲート事業技術営業マネージャーの西山氏の言葉が今もなお印象的だ。
「日本は利便性を有したセキュリティを構築する傾向だ、海外ではセキュリティは確実性を優先するという共通認識がある」。この言葉を読者諸兄はどのように受け止めるだろうか。
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