連載コラム

空港のセキュリティ事情

[ 2011年1月14日 ]

a&s JAPAN

 羽田空港新国際線ターミナルの運用開始で、いま空港に注目が集まっている。空港には絶えずテロを始めとする脅威があり、また不法出入国者や禁止薬物、危険物などの水際での発見は至上命題だ。一方、アジアのLCC(Low Cost Carrier / 格安航空会社)の日本進出が加速し、日本に訪れる観光客が増加することが予想される。現在の空港は、潜在するテロの脅威と政府が推進する観光立国策との狭間で揺れている。その微妙なバランスの上に立って日々運用されているのが偽らざる実情だ。本稿では空港の施設面に焦点を合わせて最新のセキュリティ事情を紹介する。
【a&s JAPAN 2010年11月号(No.19)より】

大川鮎太郎

日本の空港への評価

 これまで日本の国際空港つまり空の玄関は成田空港という認識があったが、2010年10月、羽田空港が都心との交通の利便性を武器に国際空港として本格的に復活した。

 さて、国際空港には旅行客への「玄関」としての役割の他に乗り継ぎ拠点としての利便性すなわち「ハブ空港」だが、近年特に重視されている。しかし、日本は戦略的な立ち後れから、アジアのハブ空港の座を韓国仁川(インチョン)空港に奪われている。

 空港の大前提はその安全性にある。この根幹が揺らぐようでは経済振興も観光立国どころではない。中央電子セキュリティシステム営業部長の中村肇氏は、2010年開催の「テロ対策特殊装備展」に来日した欧州警察関係者から聞いた話が衝撃的だと語る。「日本の国際空港のセキュリティ対策は信じられないくらい脆弱だ。欧州各国では考えられない」。


中央電子
セキュリティシステム営業部長
中村 肇

空港セキュリティの3つの柱

 空港でのセキュリティ対象は大きく3つに分類することができる。旅客、荷物(貨物)そして空港施設である。旅客を対象としたセキュリティでの最重要項目は、確実に個人を認証することである。犯罪者などの他人への成り済ましを防止し、日本での入出国行為を防ぐことだ。

 ここで焦点となるのが二律背反の関係だ。個人認証を強化すれば空港での手続き時間が増える。韓国まで約2時間半の飛行時間にもかかわらず、団体客の場合で集合時刻が2時間前だ。旅行客は、空港までの移動時間も含めると搭乗までに長時間を費やさなければならない。

 また、荷物や貨物での最重要項目は危険物の検査を強化し、水際でその持ち込みを防止することだ。ここでも検査の強化と荷物輸送の効率化・迅速化が二律背反となる。

 さらに、空港施設での最重要項目は保安制限区域でのセキュリティの確保である。現在では監視カメラシステムと入退管理システムを連動させ、さらに各種センサを組み込んで高セキュリティ性を維持している。また、最新技術によるシステム統合や監視業務の自動化と効率化などを追求している。

旅客向け対策

 セキュリティ先進国の米国は、2004年に入国する外国人に生体認証情報の提示を義務づける「US-VISITプログラム」を開始した。ビザ保持者から2指の指紋と顔画像を取得、同年9月からはビザ免除者からも取得を開始し、2006年には10指の指紋データの取得を義務づけるなど警戒を強めている。

 日本では2005年に旅券法が改正され、2006年からICパスポートの申請受付が始まった。このICパスポートには生体認証として、所有者の顔情報を登録している。しかし、今年の1月、偽造パスポートと特殊テープによる偽造指紋により、日本から国外追放された韓国人の女性が入国審査を通過していたことが発覚した。今後は複数の生体認証情報を併用する複数手段(マルチモーダル)認証等への移行が必要となるだろう。

荷貨物向け対策

 荷貨物については、2006年から本格運用された「Known Shipper Regulated Agent / 特定荷主特定フォワーダー制度」がある。これは一部の緊急品目を除いたすべての航空貨物に課せられていた保安措置(24時間留置、X線検査装置や爆発物探知装置による検査、開披による安全性の確認)を、信頼できる物流業者や物流経路を経て輸送された貨物は省略できるようにした制度だ。これは国土交通省が信頼される特定フォワーダー(航空貨物運送事業者)として認めた業者と、その業者が認定した特定荷主の間を流れる貨物の輸送経路を経たという条件を満たせば適用される。ここで問題となるのが、空港にはこの特定フォワーダーの荷物以外にも、不特定の荷主や多様な物流経路を経た荷貨物も流入するため、ラベル等による目視での判別の効率の悪さが指摘されてきた。そこで登場したのがRFIDの活用である。自動化への対応、処理速度、拡張性、記録保存などに優れ、爆発物検査実施の有無による自動仕分けができる点など、際立った特長を有する。

施設対策 / 外周警備

 広大な敷地を擁する空港では、外周の総距離は十数キロにも及ぶ。侵入防止には防護柵を張り巡らし、各種センサや監視カメラを連繋してセキュリティを確保している。防護柵には赤外線センサを張り巡らし、侵入者があればセンサが即座に検知し警報で威嚇撃退する。侵入検知センサには様々な種類があるが、赤外線を使ったもの、テンション(張力)を検知するもの、振動を検知するもの、光ファイバを利用したものなどがある。これらのセンサによる警報と監視カメラを連動させて画面上に映し出す仕組みとなっている。しかし、設置環境はまさに千変万化で、昼間と夜間、晴天と曇天、風や雨、霧や雪などへの対応が必要だ。

 この分野で注目したいのが中央電子の屋外監視に利用できる外乱除去装置だ。これは既設のカメラ映像をこの装置に入力するだけで、雪や大雨、霧などの外乱を低減するもので、かなり鮮明な映像を実現している。空港敷地内の屋外監視や不審者の侵入監視に効果を発揮しそうだ。同社の中村氏は「まだ、空港施設での導入事例はないが、今後さらに精度を高めて導入提案したい」との抱負を語る。

 また、ケーティーワークショップが提供する監視カメラ画像解析システム「OPAX」も有効だ。三次元解析による高度な画像解析アルゴリズムを有し、外周侵入検知専用システムとして異彩を放っている。同社取締役社長の城戸誠一氏も「NATO軍の軍事システムからの民生転用なので精度は非常に高い。立入禁止区域の侵入検知、移動方向や速度の検知、停車車両や駐車車両の検知に最適だ」と自信をみせる。


ケーティーワークショップ
取締役社長
城戸 誠一

 さらに、日立産機システムでは外周警備のポイントとして「誤検知対応を含む検知時対応の標準化が重要」と指摘する。屋外設置では小動物や自然現象などによる誤検知がどうしても発生する。その際の標準指針を設定することで、異常検知時にだけ発報するようにできる。また、システムの冗長構成、構成機器の信頼性確保、障害発生時の修復手段をあらかじめ用意しておく重要性など確認すべき項目を指摘している。

 我が国の3大空港は羽田国際空港、成田国際空港、関西国際空港だが、そのうち羽田国際空港と関西国際空港は海に面している。10月に開催された「テロ対策特殊装備展」でも港湾施設のセキュリティ対策として、海上レーダ、海中ソナー・センサ、可搬式レーザレーダなどが展示されていた。これはそのまま羽田国際空港と関西国際空港での設置および運用が可能で、海からの脅威に対する防御措置として有効だ。

施設対策 / 監視カメラとVMS

 海外空港セキュリティ事情については、米国ベリント社の日本法人ベリントシステムズジャパンとデンマークに本社を置くマイルストーン・システムズの2社に取材した。

 ベリントは米国トップ30にランクされるソフトウエア会社であり、「Nextiva」で知られるIPビデオソリューションを提供している。その品質は米国国土防衛省が採用していることで証明されている。同社代表取締役社長のオリビエ・ジオレット氏は「Nextivaは世界の主要空港55箇所、大手小売業やベストバイでも採用されている」と胸を張る。海外のセキュリティ先進国では、特に監視業務の自動化と効率化に重点を置いていることから、Nextivaは高度処理機能や画像解析機能を駆使した監視業務と入退管理システムやセンサなどを統合して、共通のユーザ・インタフェースを持つフレームワークを構築している。さらにPSIM(物理セキュリティ情報管理)機能を追加したNextiva PSIMソリューションでは、各システムと既存のインフラを活用し、情報を共有するシステムの統合管理を可能にする。「Nextivaはオープンで標準ベースのアーキテクチャで構築しているため、既存のIT基盤や汎用ネットワーク、サーバ、ストレージなどとの統合が容易だ」とジオレット氏は解説した。また同社ソリューションエンジニアの佐藤裕之氏は「日本はテロに対する意識が世界と比べると遥かに低い。監視の世界も監視要員の目視に頼っているケースが多い」と自動化の必要性を強調する。


ベリントシステムズジャパン
代表取締役社長
オリビエ・ジオレット


ベリントシステムズジャパン
ソリューションエンジニア
佐藤 裕之

 現在空港のセキュリティシステムは「統合化」が潮流となっており、システム連繋や拡張性、自動化や効率化などとの導入していることからも、代表的な映像ソリューションと言える。

 また、マイルストーン・システムズは監視カメラシステム「XProtect」を世界に展開しているが、オープンプラットフォームのIP監視カメラとして18%もの世界シェアを誇っている。同社日本代表のモンドーフ・エリック・フリース氏は「システムの統合と連繋にはオープンプラットフォームが基本条件だ。カメラはもちろん、レコーダ、エンコーダなど、事例ごとに求められる機能が異なる。当社は世界中のメーカーやベンダーと連繋して最適な機種構成でシステムを構築できることが顧客満足に繋がると考えている」とその基本理念を述べる。同社では、現在アジアの空港で数千台規模の監視カメラシステムの導入事業を推進しているとのことだ。


マイルストーン・システムズ
日本法人代表
モンドーフ・エリック・フリース

 これとは別に、ケーティーワークショップの城戸氏は、米国の空港で稼働しているXProtectの象徴的な事例として「4台の2メガピクセルのカメラが連繋して180°の映像監視を実現している」事例を紹介している。これまではPTZカメラが上下動、旋回、拡大して180°映像を確保しているが、どうしても物理的な駆動部分が必要となり、その耐久性に問題があった。この使い方なら全く耐久性の問題は解消し、同時に高解像度の映像を常に得ることができる。

 やはり海外ではオープンアーキテクチャ志向が常識のようだ。「費用や性能など、様々な仕様を吟味して最良のシステムを構築するためには、選択の自由度が大きなカギを握るからだ」とマイルストーン・システムズのモンドーフ氏はオープン化が現在の世界標準だと重ねて強調している。

施設対策 / 入退管理システム

 保安制限区域に対する入退管理システムとしては、非接触のICカードを利用した門扉制御が一般化している。ただし、保安制限区域にも様々な制限段階があり、マルチカードの利用や入退権限の付加状況などを確認することができなかった。一般的に入退管理は「成り済ましによる不正立ち入り」の阻止が基本のため、特に空港施設ではその強化は最重要課題だ。従って、非接触ICカードと指静脈認証などの生体認証装置を組み合わせた高度なシステムの構築が必要となる。

 ケーティーワークショップでは成田空港の物流業者の業務区域に非接触ICカードを利用した入退管理システム「Net2」を提供して、空港職員やテナント従業員、物流業者などの日々の業務の利便性とセキュリティ対策の同時強化を追求している。

施設対策 / ボディスキャナー

 出入国時に、手荷物にはX線検査、人には金属探知装置を利用することで安全を確認している。これらの検査は爆発物や拳銃また刃物などの危険物、麻薬等の禁止薬物の携行を阻止するために欠かせない。様々な検査システムのある中で今注目を集めているのが、ボディスキャナーだ。国土交通省はミリ波やテラ波を利用したボディスキャナーの実証実験を成田で実施した。ボディスキャナーは、ミリ波を人体に照射するアクティブタイプ、人体が発するミリ波やテラ波を検知するパッシブタイプに大別される。どちらも悪意を持った人間が金属探知機ではチェックできない薬物や特殊爆弾等を身体に隠し持っている姿を映し出す。

 現在、中央電子では東北大学、マスプロ電工と共同でこのミリ波パッシブタイプを開発中だ。同社の中村氏は「私どもが開発しているパッシブタイプは人体が自ら発するミリ波を画像化するため、被爆問題を忌避される方にも安心で使用できる方式」と語る。いずれにしても、その精度の向上や画像化時間の短縮、受信方向(前・後姿勢)、またプライバシーの問題などを解決することで、金属探知機やX線検査と併用して、強固なセキュリティ対策の構築が可能となる。

待たれるシステム統合

 空港のセキュリティシステムは現在、統合化に取り組む段階にある。これは、各システムが単独で機能しているとシステム間に空白箇所が生まれてしまうからだ。監視カメラによる映像監視システム、入退管理システム、警報システム、機械警備システムなどを1つのプラットフォームで管理するだけでなく、消防システムや物流システム、安全管理システムまでを連繋した統合セキュリティシステムが必要となってきている。

 その構築方法には多様な考え方があるが、1つにはTCP / IPを経由して各システムを統合することが標準的だ。また各メーカーが提供するOPC(OLE for Process Control / マイクロソフト社が提供する標準インタフェース)やAPI(Application Program Interface)を最大限に活用するシステム構築者主導型の統合方式などが考えられる。

 いずれにしても空港セキュリティのデジタル化、IP化、オープン化は既に世界標準となっており、今後日本の空港がどのように統合セキュリティシステムを構築していくのかが重要となる。

将来展望

 今後の空港セキュリティを考える上で最も重要なことは「立地条件や実現目標などを考えると、各空港で必要なセキュリティレベルは異なるが、各空港に共通した必要最小限のセキュリティポリシーの策定が望まれる」と日立産機システムは指摘する。

 成田空港では、次世代空港システム実現の一環として「e-Airport構想」を推進している。これはIT技術を総合的に活用し、空港利用者の利便性を飛躍的に向上させ、日本と世界との距離感を短縮することを目標としている。その代表的なものがe-チェックイン。これは空港手続きの簡素化を支援するもので、ICチップ内蔵の携帯電話でチケットレスサービスが利用でき、各種手続きの自動化や生体認証技術による本人確認を迅速化する。また、e-タグはRFIDを活用することで荷物紛失を削減し、宅配業者とも連繋して自宅から旅先までの手ぶら旅行を可能にする。さらには、国内のICカードで東アジア諸国の交通機関を利用できる公共交通ICカードの実現などが盛り込まれている。

 また、今後の展望としては、ネットワークの信頼性向上や充実、法整備の問題などを踏まえた上で、各国の国際空港間での情報共有化を求めている。その結果、手配者や犯罪者などの生体認証情報やID情報、各種の画像情報などを相互に提供交換することで、世界規模のセキュリティネットワークシステムが構築できる。

「a&s JAPAN」最新号より

a&s JAPANはご自宅や職場にお届けするセキュリティ総合専門誌です。ご購読は一切無料。ご興味のある方、a&s JAPANオンライン無料購読にてご登録ください。

バックナンバー

PAGE TOP