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連載コラム

食品工場のセキュリティ事情

[ 2010年11月9日 ]

a&s JAPAN 

 BSE(牛海綿状脳症)や食品の産地偽称事件、さらには無認可食品添加物や異物混入問題などが相次いで報道され、「食の安全性」に対する消費者の関心が高まっている。とりわけ日本人はこの問題について敏感だ。食品が生産から加工、流通を通して消費者に届くまでには様々な段階がある。本稿ではその中核を担う食品工場の最新のセキュリティ事情を解説する。
【a&s JAPAN 2010年9月号(No.18)より】

大川鮎太郎

食の安全は基本中の基本

 言うまでもなく「食の安全」は、人間が生活する上で最上位に位置づけるべきもので、安全でない食品が流通する社会は想像するだけで恐ろしい。食の安全に関しては、生産・流通・消費のすべての段階が連動しており、その一つに問題があれば深刻な事態を招く恐れがある。

 現代の食生活は大きく変化した。加工食品が食卓に数多く並び、食品が人の口に入る経路や経緯が多様化しているため、「以前に比べてその安全性を確保することは複雑で難しい問題」という認識が必要だ。

食品工場の多様な問題点

 食品工場のリスクにはどのようなものがあるのか。まず、一般的な工場と同様と考えられるのが、侵入窃盗や放火などだ。特に窃盗については、外部犯よりも出入業者を含む内部の犯行が多い傾向にあるという。「正規社員以外にアルバイトやパートを数多く使う雇用形態が遠因となっている」とネットカムシステムズ代表取締役の金延純男氏は指摘する。

金延氏
ネットカムシステムズ
代表取締役
金延 純男

 また「食の安全」という本稿の趣旨からすると、異物混入による衛生面や信頼性の低下、また細菌や化学物質による中毒が最大のリスクとして考えられる。

 とりわけ食の安全性に関して敏感な日本では、ひとたび問題が発生するとマスコミが大きく取り上げ、一夜にして長年かかって築き上げてきた企業イメージやブランドイメージが失墜するケースもある。企業にとってはまさに死活問題となる。

外周警備の現状

 食品工場はその規模や形態が多種多様だが、外周機械警備システムを導入しているケースが多い。敷地の外周にネットフェンスやブロック塀を設置し、赤外線センサを張り巡らせ、侵入者があればセンサが即座に検知しサイレンなどで威嚇撃退する。侵入検知センサには様々な種類があるが、赤外線を使ったもの、テンション(張力)を検知するもの、振動を検知するものなどがある。

 特に赤外線センサの中でパッシブ型と呼ばれるものは、人の体温を検知して点灯する人感センサ付き屋外灯や駐車場などの自動点灯スイッチが代表的だ。また、ビーム型はフェンスのセンサ間を赤外線ビームで結び、そのビームを侵入者などが遮ると警報を発する仕組み。不審者の侵入は確実に捉えるが、小動物やビニールなどの飛来物によって赤外線が遮られた場合にも発報するため、運用面では誤報対応が大変となる。

 また、テンションセンサはフェンス上部の忍び返し部分に特殊なワイヤを張り、侵入者がワイヤに圧力を加えた際にスイッチが入り警報を発する仕組み。動作が確実でコスト面からも普及が進んでいる。振動センサは、フェンスに伝わる振動をフェンス設置のセンサ用ケーブルから検知するもの。振動の大小などによる警報レベルの設定調整が難しく、雷などによる電気的ノイズや風雨の影響も受けやすいなどの欠点がある。

 ここで注目されるのが、センサ用ケーブルに光ファイバを利用し、これまでのシステムの欠点を改善した外周防犯システムだ。このシステムは従来の電気式のテンションセンサや振動センサに代わるものとして注目される。電気を必要としないこと、長距離(外周フェンスが数kmも可)伝送にすぐれている点、雷などによる電磁誘導を受けない利点がある。

 いずれにしても、外周警備にはこれらセンサと監視カメラが連動し、センサや警報発報を受けて録画を開始するシステムを採用している事業所が多い。

脆弱な入退管理方法

 いまや大企業のオフィスの入退には、非接触カードを利用した入退管理システムを広く導入し、カードを読取機にかざして社屋に入る姿が一般化しているが、食品工場の現場では、まだまだ採用が少ないようだ。

 一般的な食品工場では、工場への入場時に通用門にある守衛室に社員証などを提示して入るケースが多く、工場内の各部門の出入りに関しても、特殊なケースを除き出入りが自由になっているという。

 これだけ「食の安全」が関心事となり、日々ニュースなどで問題が取り上げられているにも関わらずこの状態は「無防備」と言わざるを得ない。低迷する消費や経済停滞などのマイナス要因があるとはいえ、悪意を持った人間の侵入に対してどのように対処するのか、早急な改善が喫緊だ。

ネットワークカメラの活用

 脆弱な入退管理方法よりも、現在注目されているのがネットワークカメラの活用だ。工場の「見える化」をキーワードに意欲的に工場分野に進出しているパナソニック システムソリューションズジャパンでは「ネットワークカメラを用いた食の安全ソリューション」を提案している。

 同社のIPネットワーク事業グループ 統合セキュリティチーム 工場見える化システム担当参事 金指三喜夫氏は「食の安全ソリューションは、工場内にi-PROシリーズのメガピクセルネットワークカメラを設置することで、現場を広範囲に高画質撮影と記録保存することができ、万一食品事故などが発生した時に、過去に遡って作業状況を映像で確認し、作業時に不正や不備がないことを立証する資料として活用できる」と語る。

 このメガピクセルカメラは、40メートル先の作業者が何の作業を行っているのか指先の動きまで映し出すことができ、細かな文字まで読み取れる。例えば賞味期限のラベルを貼る工程で、ラベルの貼り間違いや改竄がないかをチェックすることができるという。「一度に工場内すべてを『見える化』するには数十台のカメラを設置することもあるが、特定のラインだけからスタートする場合には数台のカメラから可能」と金指氏は補足する。さらに、同社が提供する「工場見える化システム」は、DEJIDONの構成で事故や異常発生時の"その時"の映像を記録し原因の究明や安全性の立証に役立てるソリューションだが、モノづくりの基本である「ムリ」「ムダ」「ムラ」の排除を記録映像を解析する事で実現し、工場の生産性の向上や作業の効率化にも貢献するという。

 また、コンビニエンスストア向け弁当製造工場に監視カメラシステムのソリューションを提供しているのがガリレオとネットカムシステムズだ。

 「ネットワークカメラの高画質を活用して、作業の手元まで鮮明に見えることが大切。異物混入などの事故があった場合でも、記録映像の検証によって事実を把握することができる」とガリレオ営業部リーダーの松本貴雄氏は語る。さらに同氏は「食品工場では工場内全体で15台くらいのカメラを設置しているケースが多い。既に金属探知機は導入されているが、監視カメラの導入で金属探知機の警報と連動して映像を確認できるようになった」と解説する。

松本氏
ガリレオ
営業部 リーダー
松本 貴雄

 また、ネットカムシステムズの金延氏も「提供しているのはすべてIPカメラでほぼ半分はPTZカメラになっている。弁当製造工程別にカメラを設置し、高画質な映像を記録している」と現況を語る。さらに「工場内は高温多湿で、揚げ物の油が浮遊するなどカメラにとって劣悪な環境であるケースが多い。レンズカバーに油対策のコーティングをして定期的にカバーを交換するなどの対策が必要」とアドバイスする。

 この他ガリレオでは菓子工場やパン・ベーカリー製造工場に、ネットカムシステムズでは学校給食センターにも食の安全のための監視カメラシステムを納入している。この学校給食センターでは、調理場にネットワークカメラを設置し、保護者のみの限定で、調理の現場をネット上で閲覧できるようにしたもの。保護者の食に対する安心に貢献するものといえる。

 さらに食品工場では、製造ライン以外にも監視カメラの導入が進んでいる。「大手の工場では原材料搬送に数多くのトラックが工場に出入りする。トラックヤードにメガピクセルカメラを設置して、ナンバープレートを認識・記録するのも潮流となっている」とガリレオ エンジニアリング部 部長の今弘和氏は語る。

今氏
ガリレオ
エンジニアリング部 部長
今 弘和

 今回取材した範囲では、食品工場全体で見るとまだ監視カメラの導入事例が少ないと言える。しかし、時代の要求から導入が進み、IPカメラと入退管理システムや機械警備システム、金属探知機やバーコード読取機などと連動する統合システムが潮流となることを予測している。

HACCP(ハサップ)は時代の要請

 HACCPとはHazard Analysis CriticalControl Pointの頭文字をとったもので、日本語では「危害分析重要管理点」と訳されている。この概念はNASA(米国航空宇宙局)のロケット部品の品質管理や宇宙食の衛生管理のために導入されたもので、特に食品分野では新しい衛生管理システムとして注目されている。

 これまで食品工場などでは、完成した製品を任意に抜き取り製品検査しているが、このHACCPでは製造工程を含めた「工程管理」そのものを管理する。つまり、いつ、どこで、だれが、何の目的で、どの基準に従って、どのような作業を行ったのかを記録し、証拠書類(映像)として残す衛生管理手法だ。

 製造での工程ごとに「重要管理点(CCP)」を設け、それに対して「管理基準(許容基準値)」を設定して対応する。これにより、万一事故が発生した場合でも、その原因や責任が製造者側にあるのか、製造以降の流通や販売にあるのかなどを、記録をもとに立証することにより責任の所在を明確にすることができる。食中毒細菌などの微生物危害、農薬などの化学的危害、異物混入などの物理的危害に対して非常に有効なことが知られている。

 ネットカムシステムズの金延氏は「食品加工工程の各管理ポイントにカメラを設置する事業所は確実に増えている。さらに、手洗い場やエアシャワー場にもカメラが設置されるようになった」と解説する。パナソニック システムソリューションズジャパンの金指氏も「ネットワークカメラなら人の目に代わり作業の様子を確認できるようになる。そうした体制は自ら課題に気づき改善に取り組むと言う文化を醸成し、工場全体のモラルの向上を推し進め、衛生管理の徹底といった「5S」の習慣化にもつながる」と解説する。

 また、ガリレオの松本氏も「ある佃煮工場で異物混入事件が発生した時、HACCP手法で調査解明したところ、従業員の逆恨みの犯行であることが分かった」例などを挙げている。

 今後このHACCPは時代の要請とともに、多くの食品工場で導入されていくことが予測される。その際には、ますます監視カメラの存在と必要性が注目されるだろう。

広がる食品トレーサビリティ

 食の安全と安心を求める機運は、食品の生産地が特定でき、生産・加工・流通過程の履歴を明確化するという消費者の要求となって現れている。このような時代の中で今、原材料や商品の個体管理を実現する仕組みとしての「トレーサビリティシステム」が脚光を浴びている。

 日本では2003年6月に「牛肉トレーサビリティ法」を施行。国産牛の出生から屠畜、流通段階での個体識別番号の表示が義務づけられている。

 このような時代背景の中、食肉加工工場にトレーサビリティ・ソリューションを提供しているのがシステム・ケイだ。このシステムはバーコード読取機とネットワークカメラの連動システムで、肉の最終検査工程である金属探知検査部分でバーコードを読み取るとともに、映像を記録しサーバ内に蓄積する。バーコードは2次元バーコードで、出荷年月日、工場コード、製品コードなどの情報を記録している。

 同社ネットワークシステム事業本部本部長の安部芳典氏によると、「2次元バーコードを読み取る時点と、その前後3枚の映像をメガピクセルカメラで記録する。製造や出荷記録と一緒に映像として証跡を残すことで、消費者の食品(牛肉)に対する安全・安心に貢献できる」としている。この工場では、工場内の各生産加工ラインや工場全体にもメガピクセルカメラを配し、管理事務所で一元管理して成果を挙げているという。

安部氏
システム・ケイ
ネットワークシステム事業本部長
安部 芳典

 このようなトレーサビリティ・ソリューションは食肉分野だけではなく、今や食品業界全体の潮流となりそうだ。あるフードチェーンでは、生産トレーサビリティ、加工食品トレーサビリティ、流通トレーサビリティをデータベース化することで一元管理し、自社商品の消費者に対する安心感の醸成や信頼感の向上に役立てている。

 事実、農水省でも食品トレーサビリティシステムの構築を促し、導入の手引きとなるガイドラインを策定するために、「食品のトレーサビリティ導入ガイドライン策定委員会」を設置し、作業部会において検討が行われた。

 そして、トレーサビリティシステムが義務づけられた牛肉以外にも、原材料入出荷・履歴情報遡及システムガイドラインや外食産業ガイドライン、青果物・貝類・鶏卵・養殖魚・海苔などについてもガイドラインを設け、トレーサビリティシステムの構築を推奨している。

今後の展望と方向性

 食品工場のセキュリティは今後どのような進展をみせようとしているのか。パナソニック システムソリューションズジャパンでは「ネットワークカメラを用いた食の安全ソリューション」をさらに推進し、消費者の食に対する安全・安心に貢献することを目指している。

 その上で同社金指氏は『見える化』のキーワードで「工場見える化システム」として活躍する専用サーバソフトDEJIDONや培ってきたノウハウを活用し、食品加工工程の見直しや生産性の向上、作業動線の分析による効率化の追求など、食品工場全体の品質向上や工場スループットの向上で経営基盤の強化に役立ちたい」との展望を語る。

 現在監視カメラ市場はIP化やメガピクセル化が潮流となっており、H.264のコーデックも標準となってきた。この流れは食品工場にもそのまま当てはまると予想される。

 システム・ケイの安部氏は「食品工場は未開拓の部分が多いので、様々な提案ができる可能性を秘めている。H.264をベースとしたIPカメラ、レンズ、音声対応など、ユーザーの幅広い選択にお応えする製品ラインアップでシェア拡大を狙う」との抱負を述べる。

 前述したように現在の景気の低迷は企業の設備投資にも暗い影を投げかけている。食品工場のセキュリティ向上には、コストの問題が避けては通れない課題となっている。

 ガリレオの松本氏は「IPカメラが持つ高画質のメリットをユーザーに周知し、少しでも多くの工場に監視カメラを中心とするセキュリティシステムの導入を勧めたい」と意欲的だ。また「そのためにも、ストレージの改善や夜間画質のさらなる向上などがポイントになる」とも指摘する。

 ネットカムシステムズの金延氏も「監視市場のIP化、メガピクセル化、H.264の波は食品工場でも標準になるだろう。今後の展開としては、カメラ自体がSDカードや内蔵ディスクなどのストレージを持っていくことが一般化する。また、セキュリティのシステム自体も多様化・混在化すると思う」と予見する。


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