連載コラム

広域監視システムの活用

[ 2010年12月8日 ]

a&s JAPAN

 犯罪の多発化と多様化による社会不安は増大している。そこで、平穏な社会生活を営むためにも、安全・安心の担保が不可欠といわれ、「安心の街づくり」に取り組む自治体や商店会が多くなってきている。しかし、大量の監視映像を統合管理し警察への協力が必要となると、システム上の問題や導入経費の問題だけではなく、プライバシーや管理体制などの課題も解決しなければならない。本稿では、広域監視システムの導入から管理・運営の問題点と自治体や商店会が抱える費用対効果について考える。
【a&s JAPAN 2010年11月号(No.19)より】

西山恵造

広域監視の概念

 セキュリティの分野において、「広域」や「広域監視」に確固たる定義があるわけではない。監視システムが導入され始めた当初は一つの施設や個人宅を映像監視していたが、一定区域全体の監視をするようになったあたりから、ホームセキュリティなどと分けて使われ始めたようだ。一般的には、公共区域に設置したセキュリティカメラで、周辺の状況を監視することを広域監視と呼んでいる。道路や河川などの公共領域を監視することを指しており、工場や店舗などのように領域を限定している場合は、いかにそのエリアが広くても広域とは呼ばないのが普通だ。

 広域監視の先駆けとなったのは、2000年に警視庁主導で防犯カメラ設置を推進する動きがあり、2002年に新宿歌舞伎町地区に防犯カメラ導入事例が代表的だ。新宿区歌舞伎町地区には、当初50台の防犯カメラを設置し、現在までに徐々に範囲と設置台数を増やしている。都内では池袋や渋谷、上野や六本木でも導入しており、160台以上の防犯カメラが稼働していると言われている。

 警察などの行政が導入する広域監視システムの場合は、防犯カメラの設置によりどの程度犯罪が抑制できるのかが重要となる。そのため、基本的には常時監視を行うことになり、導入システムも必要と考えられるものをほとんどすべて採用する傾向にある。しかし、商店街などが導入する広域監視システムでは住民や商店会が費用負担をするため、費用対効果を問題視するケースが多い。

広域監視システムの条件

 カメラ設置方法に関しても、警察の場合はカメラ設置による抑止効果を期待し、犯罪を発生しにくくすることが重要であるため、カメラの存在を顕示するよう設置する。しかし、商店街や観光地などでは、カメラの設置で景観を損ねないことや、違和感を持たせないように気を配る必要がある。

 「カメラの撮影に死角がないように設置範囲を決める必要がある。しかし、予算にも限りがあるため、最大公約数的に良い配置を考えていく必要がある。商店街の場合には、終端の入口と出口は絶対に監視しなければならない。また、横道などから逃走する場合も考えられるので、その部分にも監視の目を向ける必要がある」と語るのは、パナソニック システムソリューションズ ジャパン 社会システム3グループ第2チーム 参事の横山正人氏だ。つまり、外周部分を確実に監視した上で、区域内をどのようにカメラで監視していくかを考える必要がある。

PSSJ横山氏
パナソニック システムソリューションズ ジャパン
社会システム3グループ 第2チーム
参事
横山 正人

 最近電線の地中埋設化により、カメラ設置の主要場所だった電柱が減っているといった問題もある。電柱がなくても、ビルなどに設置できる場所はいいが、観光地や文化財の指定を受けている街などでは、設置場所に苦慮することもある。仮に電柱や街路灯があったとしても、商店街が設置したものならまったく問題ないが、自治体や電力会社が設置管理している場合は、防犯カメラ設置のための承認申請に多くの時間と労力を費やすことになってしまう場合もある。しかも、面している道路状況によっては、管理しているのが国と地方自治体が混在している場合も多く、関係部署それぞれの認可を取らないと迂闊に設置することができない。例え防犯目的でも、簡単には許可が下りないというのが実情だ。

 そこで、新興住宅地などで街全体のセキュリティを実現している不動産開発業者は、区域内の道路や街灯をすべて住民の共有財産化することで、設置認可の必要なく監視システムを構築できるようにしている。また、「屋外に取り付けるので、暗いところでもある程度カラーで映り、完全に暗くなったときでも白黒に切り替わって、照明に関係なく映るカメラが必要になる。また、証拠として警察にデータを提出することもあるので、高画質のメガピクセルカメラであること、この2点に気をつけている」と、ドッドウェル ビーエムエス セキュリティシステム事業本部 営業推進部 マーケティング課 課長の金鍾瑞氏が語るように、設置するカメラにも広域監視システムならではの機能が要求されることになる。

ドッドウェル ビーエムエス 金氏
ドッドウェル ビーエムエス
セキュリティシステム事業本部
営業推進部 マーケティング課
課長
金 鍾瑞

無線と有線を融合させた映像伝送

 広域監視システムの場合、カメラ映像の伝送を有線で行うか無線にするかが一つのポイントになる。警察のように、そのほとんどを有線で行っている場合は別として、最近では無線と有線を融合させ、導入条件に合わせて使い分けている。

 そこには、電柱の地中埋設化や共同溝化が進んでおり、街中から電柱が消えているといった昨今の事情も絡んでくる。「本来であれば有線でいい場所でも、電柱がない場合は配線を埋設しなければならない。その埋設工事には、多大な費用がかかってしまうため、無線の方が有利」と、東京ケーブルネットワーク 営業部 技術開発グループ 主任の住田篤穂氏が語るように、電柱の地中化は街の景観をすっきりさせるものの、防犯カメラの設置に電柱を利用できなくなるため、無線を利用することが多くなっているようだ。

東京ケーブルネットワーク 住田氏
東京ケーブルネットワーク
営業部 技術開発グループ
主任
住田 篤穂

 端末のカメラとレコーダのネットワークが構築できない場合には、2つをセットにしたスタンドアロンタイプで対応せざるを得ない場合もある。無線システムで最も一般的なのが、カメラとその近くに置いた送信機との間を有線で結び、幹線となるネットワークまでを無線で送る方式だ。幹線となるネットワークとしては、インターネットやキャリアが提供するネットワークを利用するほか、CATVのネットワークを利用する方法が考えられている。

 「既設基盤を上手に使っていくことで、初期投資費用が当初考えていたものより1桁、2桁も違うということもある。また、その費用が削減された分でカメラの台数を増やせば、安全・安心の向上にも寄与できると考えている」と、東京ケーブルネットワーク お客様センター 統括部長の遠藤昌男氏は既設基盤活用による費用負担低減を提唱する。

東京ケーブルネットワーク 遠藤氏
東京ケーブルネットワーク
お客様センター
統括部長
遠藤 昌男

 無線部分に関しては、無線LANを活用するケースが多く見受けられるが、セキュリティの脆弱性を指摘する声もあり、防御の問題などを含めて熟慮する必要がある。「セキュリティを高めたいならば、25GHzや50GHzの高い周波数を採用した、PtoP方式の無線通信を利用することが考えられる。このシステムなら、専用の受信機でなければ無線を傍受することが困難なだけでなく、セキュリティIDを付けることでより強固な無線を構築することができる」と、パナソニック システムソリューションズジャパン 商品マーケティングセンターAV&Sグループ 商品チーム チームリーダーの萱野実氏は、その安全性の高さを強調する。

PSSJ 萱野氏
パナソニック システムソリューションズ ジャパン
商品マーケティングセンター AV&Sグループ商品チーム
チームリーダー
萱野 実

運用管理の問題点

 防犯が目的でも、カメラ映像の保存日数や利用基準などの運用管理に関しては厳しさが求められる。「広域セキュリティの場所で、プライバシーや個人情報が障害になるわけではない。映像を録画することによるプライバシーの侵害には配慮しなければならないが、誰がシステムを管理し、誰がカメラ映像を見て、そして誰がシステム操作を行うのかといった運用面での問題が障害になっている場合が多い」と指摘するのは、ドッドウェル ビーエムエスの金氏だ。

 管理を具体的に見てみると、商店会が設置に先立って防犯カメラ設置協議会を立ち上げるので、そこが運用管理をとりまとめることになる。この協議会には、商店会の理事だけではなく、地元警察の生活安全担当が当然含まれることになる。従って、警察からデータの要求があっても、この協議会の決済が降りなければ提出できない決まりになっているという運用をしているところがほとんどだ。

 また、コンビニエンスストアやスーパーマーケットでは、監視していることを公表し、犯罪抑止のために一部客からも見えるようにしているところもある。しかし、商店街の場合は実況で監視していることはほとんどない。しかも、映像漏洩の危険回避のために、システムに表示器を設置していないことが多い。レコーダに記録して必要な時に再生することで、安全性の高さを保っていることになる。

 「商店街では、自分たちの店(商店街)を守ることで、地域の安全・安心な街づくりができ、結果的に地域活性化に結びつくことを目的としている。つまり、防犯カメラ導入の効果は、その地域に暮らす人々の安全・安心を提供すると同時に、豊かな生活環境を形成していくことの相乗効果とすることが重要である」とパナソニック システムソリューションズ ジャパンの横山氏は語る。そのために商店会としては、街全体の安全を守るために「この商店街は安全のためにカメラを設置している」という表示をした上で、録画映像を防犯以外の目的に利用しないという確固たる方針が重要になる。

導入は方針の策定から

 個人宅にセキュリティシステムを導入する時ですら、家族の意見を聞いて賛同を得てからでないとできない。商店街ではお互いの利害関係や客との紛争などを想定しなければならず、容易に事は進まない。機器メーカーやシステムインテグレータの誰もが「システムを導入するユーザー側で、何をどのように守りたいのか。どのように運用していきたいのかといったポリシーがしっかりしていないと、的確な提案ができない」と口を揃えるように、導入側の考え方が重要になる。

 防犯カメラシステムの導入に際して、一般的には商店会では準備委員会を立ち上げることになるが、まず緻密で的確なセキュリティ方針の策定が、適切な運用管理の第一歩となる。後出の練馬商店会でも、危機意識を持ったメンバーが地元の安全を担保するためにどのような対応を取るかという方針の策定から開始して、商店街全体での防犯カメラ設置を実現した。この方針を確立していれば、行政や地元警察などにも協力を仰ぐことができ、より円滑なシステム構築や導入が可能になる。特に商店街での広域監視の場合、商店会と地元住民と行政の三位一体が機能しないと立ち上げは難しい。このような活動は、単に防犯に対するセキュリティレベルを向上させるだけではなく、防災意識の高まりも生み出し、それにより地域力が高まっていくとの指摘もある。

地域や行政との連繋

 広域監視が抱える課題としては、記録映像を利用する時、地域の了承をどのように得るかが重要だ。2008年から始まった裁判員制度などでも、映像データが現場の状況を説明する証拠として採用されるようになってきたこともあり、映像データを活用する事案は今後も増えていくと予想されることから、導入時点で映像の利用基準を明確にしておく必要がある。この問題に関しては、ユーザーだけで解決できない場合も多く、地元自治体や警察との綿密な連繋で規定を策定することが望ましい。

 また、防災面への利用拡大も顕著で、防犯と同時に河川の状況把握を可能にすることで、災害の注意喚起などに役立てているケースもある。ほとんどの広域監視システムは、プライバシーの問題などから、あえてリアルタイム性を持たせないシステムにしている傾向にあるが、常時蓄積されていく映像情報は重要な映像データでもあり、利用基準内での様々な活用を今後検討することになる。また、広域監視システムで構築した社会基盤を利用して、福祉などへの活用を検討している団体もある。

監視は点から面に

 従来、店舗内や個人宅などといった「点」での監視に加え、広域監視のような「面」での監視になることで、安全を確保したかのように映る。しかし、これはそれだけ犯罪や事件が増大していることの証左にほかならない。セキュリティシステムの充実は、不安な社会がより一層広まったと考える方が現実的だ。

 セキュリティに無線を利用することで監視範囲が飛躍的に広がり、広域監視が既に社会生活と結びついている。これは無線網の導入効果である。東京ケーブルネットワーク遠藤氏が「無線網が充実したことで、システム的には何にでも利用できるようになった。要はベースに何を置くか、基本理念をどうするかで変わってくると思う」と語るように、あとは安全・安心のために何を構築し、どう活用するかが問題だ。安全や安心は与えられるものではなく自ら確保するものだが、今後さらに発展して行く広域監視システムとの連繋や融合により、さらにその水準が向上することだろう。

導入事例:練馬駅付近の5商店会

 練馬駅南口の5つの商店街では、街路灯やテナントビルなどに76台の防犯カメラを設置している。5つの商店街では、それぞれ防犯カメラを設置する意味が異なり、飲食店街ではゴミの不法投棄や看板の破損問題に対応し、それ以外の場所では窃盗や盗難などの被害に対応している。飲食店街では主に有線を使用しているが、都道の千川通りに面した商店街では電線が地中化されているため、カメラの映像送信に無線を採用している。「防犯カメラを街路灯に設置しているが、商店会が管理しているものなので許可を受ける必要がなく、円滑に設置できた」と推進委員の練馬アーケード商店会 副会長の山村晴彦氏は語る。

練馬アーケード商店会 山村氏
練馬アーケード商店会
副会長
山村 晴彦

 カメラ映像は無線を使っており、コストを下げるためにワンストップ型のシステムを採用している。つまり、レコーダをカメラが設置されている場所からできるだけ近くの各商店に設置させてもらい、各レコーダをネットワークに接続していない。そのため、警察からデータ提供の要求があった場合、個々のレコーダから個別にダウンロードすることになるが、事件が頻発するわけではないため、不便は感じないという。むしろ費用削減の利点の方が大きいと山村氏は語る。

 確かに導入費用の大幅な削減を実現し、しかも全体金額の2 / 3を東京都と練馬区からの補助金をあてたため、他の地域より低い費用負担で安全と安心が確保できた。「防犯カメラを設置したことで、犯罪が発生した時に被害届を出せば、警察がすぐ動いてくれるようになった。言い換えれば、防犯カメラもなく誰も見ていないような事件では警察は動いてくれない」と山村氏は導入効果を語る。確かに証拠がなければ警察は動くに動けない。警察が防犯カメラの映像で犯人を検挙した事例も既にある。

 防犯カメラを導入した結果、警察と商店会と街が一体になって犯人検挙や犯罪防止、犯罪の抑止活動ができることになったという。「今後は、防犯カメラの死角をどのように克服していくかが重要になる。そのためには、カメラの増設も商店会に未入会の人たちへの協力を呼びかけも重要だ。セキュリティの穴がないようにする必要がある」と山村氏は将来設計を語っている。

P16-1
専用のポールに取り付けられた有線カメラ

P16-2
街路灯に取り付けられたIPカメラ

P16-3
有線カメラはビル壁面に設置

P16-4
ビル壁面に設置された有線カメラ

P16-5
防犯カメラ設置の表示

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