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連載コラム

試練後に開花したセキュリティ

[ 2011年4月6日 ]

a&s JAPAN

 2008年末から始まった景気後退の影響は今も続いているが、その一つが、多くの業界で企業活動を左右する動きが見えてきたものの、依然として予測不能なことだ。セキュリティ業界も例外ではない。しかし、2010年に始まった回復基調の勢いは2011年も続く可能性が高く、新興市場と成熟市場の両方で絶好のビジネスチャンスが数多く見込まれる。
【a&s JAPAN 2011年1月号(No.20)より】

 今後市場がどのように成長していくのか。何が市場の焦点となるのか。各企業の予測は、その製品開発と製品範囲とともに、2009年の不安定な経済、財政状態に適応すべく大きな変化を遂げた。2010年、中南米や中東など、これまで未開発あるいはサービスが行き届いていなかった地域の市場に参入することにより新たなビジネスチャンスを見出し、業績を上げたメーカもある。世界の大部分で景気回復が見られる現在、2011年のセキュリティ市場はどのような様相を呈するだろうか。

 どのメーカも、2011年の市場需要、景気見通し、事業計画に関して楽観視しているように思われる。IMSリサーチ社によれば、注目すべき上位3市場は、市街地監視、交通、公共事業であり、それぞれ2010年比15パーセント超の伸びを予測している。

 さらに、既に多くのメーカが、小売、教育、医療、金融の各市場におけるプロジェクトを予定している。ハネウル社ビルディング・ソリューション事業部グローバルプロテクション担当副社長ピーター・コスタ氏は、「景気の不確実性のため、多くの分野で設備投資が鈍化したものの、経済的困難が原因で屋内外の窃盗などのリスクは増加しており、より効果的なセキュリティのニーズは拡大している」と語る。

 市街地監視、交通、公共事業の業種において大規模にセキュリティソリューションを導入する場合、広範な敷地内、あるいは個々の支店やチェーン店に分散した複数ポイントでの導入が必要になることが多い。パコム・システムズ社ヨハン・レムブレCEOは、「金融、公共事業、管理サービスプロバイダなどは一般に複数の店舗や営業所を抱えており、他のサブシステムとの統合性が高い集中管理を必要としている」と語る。

 多くのメーカでは、政府機関、交通、公共市街地監視向けのプロジェクトを計画している。VIVOTEK社ブランドビジネス担当取締役ウィリアム・ク氏は、「2011年には交通など、より大規模なプロジェクトを予測している」と言う。ファースト&サリバン社が2010年下半期に発表した調査によると、EU加盟国では、テロ攻撃の脅威の高まりが大量輸送機関におけるセキュリティの導入を後押しする重要な要因となっており、大型インフラプロジェクトや設備の交換需要における競争により、2010年から2013年にかけての市場拡大が予測されている。また、IMSリサーチ社の観測によれば、交通市場すなわち空港や港湾や鉄道における設備投資は、2011年中は高い水準を維持するものと思われる。

 シュナイダー・エレクトロニクス・グループ企業ペルコ社グローバルマーケティング担当取締役ハーブ・ファゲス氏は「どの国も金融危機の影響を受け、それがインフラへの資金投下に影響を与えた。しかし、政府機関や空港、港湾や交通などの大規模プロジェクトは、引き続き当社のターゲットだ」と語る。しかし、政府機関、公共インフラ部門の事業は、それぞれ独自のリスクがあり、気をつける必要がある。ファースト&サリバン社の調査によると、大量輸送機関向けに特化したセキュリティソリューションが不足している。ソリューションとして入手可能であっても調達過程が複雑なことが原因で、多くの企業にとって市場の潜在的可能性が妨げられている可能性がある。さらに、考慮すべき第3の要素は、厳格なセキュリティ規則の維持と乗客の満足度の達成のバランスである。同様に、シスコ・システムズ社の最近の売上および収益予測によれば、政府機関の設備支出は切り詰められており、成長を政府関連部門に依存している企業はリスクを負うことになる。また、成熟市場にビジネスチャンスを求めている企業にとっては、このことは大きな関心事となるだろう。

 Hikvision社やMirasys社など多くのメーカは、新興市場におけるスポーツスタジアム、ホテル、レジャーセンターなどの大型リクリエーション施設にも注力すると思われる。

地域市場

 2011年、世界各地で、新興市場でも成熟市場でも、より多くのビジネスチャンスが見込まれている。「北中南米の時流として、米国では依然として市街地監視に資金が投下されている。また、ブラジルで2大スポーツイベントが予定されているため、多くの中南米諸国では、犯罪防止や犯罪の減少を目的とした市街地監視への投資が今後も続く」とIMSリサーチ社映像監視&VCA担当上級リサーチアナリストのガリ・ワング氏は言う。「アジアでは、中国の"安全都市"計画において、第3、第4レベルの他の都市への新規設備投資が続き、一部の業種・市場での既存設備の更新が行われ、成長を後押しする重要な要素になると思われる。一方、欧州、中東、アフリカでは、東欧における大規模な"安全都市"への設備投資と設備更新が成長を後押しするだろう」ワング氏)。

 「新興市場における成長の潜在的可能性と需要水準は政府の原動力を反映しており、特に成熟市場と比較して、運用コストはかなり低く抑えられている」とHikvision社国際マーケティング担当取締役トニー・ヤン氏は語る。しかし、その他のコスト、例えば最終完成電子製品に課せられる輸入税や、地域サービスセンターの設置コストなども考慮に入れる必要がある。さらに、多くの新興市場では、顧客はコスト効率の高い製品を好み、入札に勝って受注を獲得するには価格だけで競争せざるを得ないメーカもある。

 中南米、アジア太平洋地域、中東など景気後退の影響が比較的小さかった新興市場においては、メーカ各社が様々なプロジェクトを受注しているが、多くのメーカが、北米および欧州の景気は景気後退前の水準に戻るだろうと考えている。「米国市場の回復は遅れたものの、新興市場でのビジネスを追求する一方で、米国での市場シェアを失わないように努めている」(ファゲス氏)

 一部のソリューションプロバイダにとって、日本やドイツなどの成熟市場では、ハイエンド製品が受け入れられている。AVTech社マーケティング・マネジャのアンディ・リ氏は「日本とドイツでは、高度な技術要件と製品基準が要求される。両国でハイエンド製品を発売し受け入れてもらえれば、当社の製品の品質と信頼性が証明されることになる」と言う。また、成熟市場において企業の力とブランド力を強化することは、既存市場に食い込むためのアプローチとなる。

中国とASEAN自由貿易圏

 多くの企業が、2011年にもっと大きな成長が見込まれる地域は中国であると予測している。「中国の都市化は、今後20年間、急速に進むと見込まれる。その結果、多くの市場が生まれるだろう」とシガポール・テクノロジ・エンジニアリングのグループ企業、STエレクトロニクス社中国事業担当副社長エンハン・ゴウ氏は言う。例えば、政府機関や交通、インテリジェントビルや住宅管理ソリューション、商業や住宅などの市場が挙げられる。また、無数の大規模インフラ事業計画が完成に近づいており、セキュリティと安全性を含め、これまでにない多量の低電圧システムが必要になる。

 海外のシステムインテグレータ(SIer)にとっては、中国のセキュリティ市場には成長の余地が残されている。「海外のSIerは、バリューチェーンに即して新たな価値を提案し、創造的で革新的なソリューションと独自の機能を提供することが必要であることに気がつくだろう」(ゴウ氏)

 市場を理解するには、SIは紆余曲折しつつも慎重に進む必要がある。アデムコ社極東セールス&マーケティング担当取締役パトリック・リム氏は「十分な資源と人間関係そして状況を打開する強い決意がないなら、中国市場へのアプローチにはいっそう慎重になるべきだ。まず企業風土と物の考え方を理解しないと、中国市場での事業展開は難しい」と語る。

 顧客に近づくもう一つの方法は、サービスセンターを設けて管理型サービスを提供することだ。「優れた技術を競争力ある価格で、さらには効率、品質、生産性、持続可能性の改善を支援するソフトウエアツールと管理システムを提供できる企業は、都市化の過程で中国の市場に浸透することができる」とゴウ氏は言う。中国の第12次5ヵ年計画では、グリーンエネルギーやバイオ技術といったハイテク産業こそが、リソース配分という意味で成功への道を進むことになるだろう。

 中国とASEAN諸国間の自由貿易協定(FTA)の成立に伴い、多くのメーカは、FTA政策が中国とASEAN諸国のビジネスにどのような好結果をもたらすか、事態を見守ってきた。この新しい貿易同盟を前向きに捉え、この新しい基盤が地域内の販売活動を促進するという意見もある。Dali Technology社海外マーケティング担当取締役ブルース・ウ氏は「現在、中国のメーカはASEAN市場へ参入しやすくなっており、関税が低く、貿易手続きも改善されているという理由から、中国製品は各地域の販売会社にとって、より魅力的な存在となる」と言う。関税障壁を引き下げるため、中国で倉庫設営に関心を持つ企業が増える可能性もある」とク氏は付け加える。

 ファガス氏は、FTAが中国国内の製造および物流施設を拠点とする国際ソリューションプロバイダのASEAN諸国向け製品の販売促進をコストと運用効率の両面で支援することになると考えている。

要求の両極化

 2010年のもう1つの注目に値する現象は、コスト効率に優れ、しかも高品質なソリューションの登場である。これまでハイエンド製品しか提供していなかったAXIS社、BOSCH社、HONEYWELL社、パナソニック、ソニー、Pelco社といった各業界を代表する有力企業が低価格製品を発売し始めている。同時に、成熟市場で求められる複雑な仕様を満足するハイエンドの個別注文ソリューションの研究開発に注力するアジア地域のメーカがますます増えている。では、従来型の中級市場は一体どうなったのだろうか。「メーカと設置施工業者の成功の鍵がハイエンドかローエンドかの違いであってはならない」とHoneywell Securityの欧州・中東・アフリカ担当副社長兼ゼネラルマネジャのジョニー・アリア氏は言う。「現段階での各社固有のセキュリティに関する条件と財政投資へのエンドユーザの期待を満足する革新的な製品、または拡大多様化するビジネスに対応する柔軟で拡張可能な製品を提供できるか。それが問題だ」

 2011年、中級製品は従来ほど多くは提供されないという予測も多数ある。「中級製品は、ドイツを除く欧州と北米に市場があるかもしれないが、この市場は明らかに両極化されつつある」とリ氏は言う。中級製品の数量の減少は憂慮すべき事実だ。

 「現在市場は、技術革新と高機能が中心のハイエンドグループか、顧客が購入を決定する際に価格が決め手となるコスト効率重視グループのいずれか一方に移り変わっていく傾向にある」と、OVii社CEOクレイグ・スコット氏は語る。「もちろん、中期的には中級クラス市場の発展の余地はあるが、セキュリティ業界がたどってきた道のりを考えると、これは難題と言える」。

 一方、革新的な機能を備え、長く高品質を維持できるハイエンド製品のみを提供し続けようとする企業もある。「コスト効率に優れた製品は先進の機能を備えていないことが多く、時の経過とともに厳しさを増すユーザの要求に応えられないことを実感するユーザ数は増え続けている」と、Mirasys社常務取締役イアン・キャメロン氏は言う。「長い目で見ればハイエンド製品の方が全体としての性能が優れているため、こうしたハイエンド製品の数は増えていくだろう」。

 ハイエンドとローエンドに二分化するのではなく、独自システムとオープンシステムの競争がますます激化するとの予測もある。ネクスト・レベル・セキュリティ・システムズ社事業開発担当副社長ジャンビ・エデュルベラム氏は「現在のエンドユーザは、メーカがこれまで提供してきた独自仕様に縛られないオープンなソリューションを求めている。エンドユーザは、従来別々に存在したサブシステムを統合してセキュリティの向上、リスクの軽減、状況のより正確な把握を実現する、オープンでネットワーク化されたソリューションを求めている」と語る。業界標準に準拠したオープンシステムは、現場における相互運用性と長期にわたる投資保護を実現すると考えられている。

HDへの要求の高まり

 2011年、ベンダ各社は、現在の景気回復基調を受けて、アナログ機器またはネットワーク対応機器を使用して完成しなければならないプロジェクトがまだ多く残されているとの見方で一致している。

 IMSリサーチ社は、2011年の全世界のビデオ監視機器市場は前年比10パーセント以上の伸びと予測している。ネットワーク対応機器の採用が増えていることから、アナログ監視機器の伸びは1桁台にまで鈍化し、ネットワークビデオ機器の売上は前年比20~30パーセントの伸びと予測している。PSIAやONVIFといった組織が行っている教育活動に加えて、オープンで遠隔管理可能なプラットフォームが好まれるようになったことが、ネットワークビデオの成長を後押しする要因として挙げられる。

 HD CCTV技術も注目されつつある。2011年後半には市場において確たる地位を築き、技術面での差異化が進むと見込まれている。「中国と台湾と韓国の世界最大級のOEM/ODMメーカでは現在、HD CCTVカメラとDVRが2011年第1四半期のロードマップに組み込まれている」とスコット氏は言う。

 ネットワークカメラは教育、医療、大型インフラ市場で今後も広く使用され続け、HD CCTVカメラは小売、金融分野で中ないし大市場を形成し、アナログ製品は公衆向けサービスの小規模プロジェクトで引き続き使用されていくと一部のメーカは予測している。2011年に主流になるのは、アナログ、HD CCTV、ハイブリッド型、IP利用型の別を問わずHDとあらゆるメーカが予測している。HD技術は2010年に一般に導入され、その後認知され、受け入れられたことから、2011年にはさらなる発展と採用への道が開けた。IP利用型製品のメーカの大部分が、エンドユーザの明瞭なビデオ画像に対する要求の増大に応えるため、HD技術に基づく新製品ラインをすでに開発している。「技術的見地から言えば、ネットワークビデオはすでに過去となった革命であり、すでに市場にも出回っている。現在、我々は、より多くのHDインフラを市場に送り込もうとしており、次のチャレンジに向け既に準備が整っている」とファガス氏は言う。

新たな機会

 2009年から2010年にかけて、洗練されたVCA、SaaS (software as a service)、MVaaS (managed video as a service)など、様々な新しいアプリケーションが市場に導入された。しかし、この1年間、これら新機能の製品への採用はあまり進まなかった。景気後退がその理由の一つであるという意見もある。「新しいアプリケーションは、これまでのところ性能と実際の機能に開きがあり、日常業務に使用されるまでに成熟するには時間が必要だ」とスコット氏は言う。この期待と現実の隔たりは、ソリューションプロバイダにとって、これらの新技術をさらに進展させる上での主要な障害となっている。

 しかし、こうした新技術の発展と成熟により多くの投資がなされるとの見方もあり、2011年には、これらの新技術ももっと受け入れられるようになると思われる。「SaaSとMVaaSの可能性は、プラットフォームの優位性からして、今後高まっていくはずだ」と、Certis Cisco Security社Certis Technology International担当副社長ダニエル・オング氏は語り、「低コスト、迅速な配備、配備効率の良さ、手間のかからないサポート、小型化などが優位性として挙げられる」と続ける。セキュリティの影響、帯域幅のコスト、保守費用全般をエンドユーザが監視するようになるため、関連サービスを積極的に売り込むにはITに精通したSIerの力が必要である。「時間の経過とともに、SaaSもMVaaSも機能、特性面で成熟し、顧客にとってより魅力的な選択肢に成長していくだろう」と、オング氏は言う。

 その他のメーカにとっては、ゲームは既に始まっている。「当社の協力各社は、入退管理の運営手段を提供し、収益を生み出す基盤としてSaaSを利用している」とレムブレ氏は語る。

新たな高みへの発展

 景気後退の暗雲が去った現在、ソリューションプロバイダは、2011年に大いに期待している。これまで中断していた大型プロジェクトが再開し、あらゆる規模のプロジェクトが開始または完了されることになるだろう。製品だけでなく、特化された機能、顧客サービス、サポートセンターの必要性が増大している。エンドユーザとのやり取りを通じて、ニーズをより良く把握することにより、さらに優れた「破壊的技術革新」を推進し、立ち上げることができる。市場と業界に乱気流が発生し、急速な調整が行われたにもかかわらず、2011年は産業従事者全員にとってまたとない成長と発展の年になろうとしている。

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