連載コラム

図書館のセキュリティ事情

[ 2010年9月2日 ]

a&s JAPAN

 学習の場としての利用や、調べ物や情報収集ができる施設として、図書館の利用価値は高い。個人的に入手が困難な図書が所蔵されていることもあり、様々な職業に従事している多くの人々にとって、なくてはならない存在だ。

 従来、図書館は静かで安全な場所という印象があり、幅広い層に親しまれてきたが、一部では凶悪な事件や住民の資産ともいえる書籍や資料の紛失事故も発生している。中には、年間数千万円相当の紛失が表面化した図書館もある。

 しかし、図書館への導入が進んでいるICタグを中心としたセキュリティ機器は、防犯よりもむしろ蔵書管理や貸出業務の効率化などにより、利用者の利便性向上に重きを置いている。
【a&s JAPAN 2010年7月号(No.17)より】

西山恵造

図書館の現状

 図書館は、設置者によって国立・公立・私立に大別でき、目的別では「公共図書館」「大学図書館」「学校図書館」「専門図書館」などに分類できる。

 初めて図書館が設立された当時は、閉架書架だったため図書貸出というシステムがなく、蔵書の管理だけをすればよかった。その後、開架書庫に移り変わったことで図書貸出が始まり、「貸出」「返却」「管理」という、今につながるシステムが登場することになる。

 古くは図書カードを使った「ブラウン方式」などが利用されていたが、現在ではほとんど陰を潜め、最低でもバーコードを利用した蔵書管理に移行しており、新しいところでは本稿で紹介するICタグを利用した管理方法を導入するまでに進化している。

 この方法は日本国内だけではなく、北米、南米、ヨーロッパ、アフリカ、アジアと世界各国で採用されており、その進化の程度は国やシステムによって異なるものの、現在の世界的なトレンドとなっている。

 また、従来の印刷物としての書籍だけではなく、デジタル書籍化の動きも活発だ。特に、アマゾンのキンドルやアップルのiPadの登場によって、一層急激な変化の到来が予測されている。

 「国立国会図書館では、平成21年より所蔵資料の大規模デジタル化が始まっている」と語る、NECネクサソリューションズ 公共第二ソリューション事業部 自治体営業部 シニアエキスパートの高野一枝氏は、ここ数年のうちに大きな変化が押し寄せてくるのではないかとも予測する。

高野 一枝氏
NECネクサソリューションズ
公共第二ソリューション事業部 自治体営業部
シニアエキスパート
 高野 一枝

 このように、図書貸出や管理だけではなく書籍そのものの電子化が進むことで、利用者には一定以上の利便性がもたらされることになるが、一方ではITに疎い一般の来館者に対して不平等になるのではないかといった問題も抱えることになる。

 また、デジタル書籍に移行すると、図書貸出のシステムが大きく変わる。貸出はデータ送信で完了するため、現在の書籍のように物理的な受け渡しがなくなり、図書館に出向く必要もなくなるからだ。これは返却も同様で、貸出期間が過ぎれば自動的に画面から削除されることになり、「未返却」という概念はなくなる。

 必然的に図書館のあり方や司書の照会・照合の方法も大きく変わらざるを得なくなるだろう。しかも、公共図書館の場合、住民間での平等という課題も解決しなければならない。

日本の図書館の特殊性

 現在日本国内の図書館が導入しているシステムは、世界的に見てどの程度のレベルにあるのだろうか。住友スリーエム セキュリティおよびトレーサビリティ製品部 マーケティンググループの吉田千達氏は、「世界的には進んでいる方であると考えられてはいるが、最先端というほどではない。日本の技術はかなりユニークで、様々な技術が混在している市場が特徴的」だと解説する。

吉田 千達氏
住友スリーエム
セキュリティおよびトレーサビリティ製品部
マーケティンググループ
吉田 千達

 これには、海外と日本の図書館の置かれている環境の違いも影響しているらしい。日本の場合、公共図書館の館長は地方公務員で、2~3年おきに配属転換されるのが常態化している。また、執行できる予算は年度ごとの付与となることから、規模および予算額が大きくなりがちな最先端システムを導入しづらい傾向にある。

 一方、公共図書館も地方色を出したり、特殊性を訴えたりと、特色を出そうと努力をしており、弾力的な予算運用が行われるなどの新しい取り組みが期待される。例えばアメリカでは、ひとたび図書館の司書として採用されると、定年まで同じ図書館で働き続けることも珍しくないという。日本でも、史料館や歴史博物館などの文芸員は同じような採用形態が取られていることもあり、できないことではなさそうだ。

 このような背景から、新しいシステムを導入しようと考える場合には、非常に長い期間を設定しなければならない。情報を仕入れるのに半年かかり、比較検討や予算、評価、決算などで数年かかってしまう。日本の図書館館長の採用方法では、導入する時には異動してしまい、計画が白紙に戻ってしまうことさえあり得る。しかも、任期内で計画が実行されても、その間に蔵書は増えていくため、当初の予算では実現できない可能性も出てくるという。

セキュリティより業務改善と効率化に効果

 現在、図書館が導入しているシステムは、大半がバーコードによる蔵書管理だ。前出の図書カードによる管理と比較すると、「バーコードを利用するようになった時点で、蔵書管理や貸出管理といった図書館業務はかなり効率化された」と日立製作所 情報・通信システム社 公共システム事業部 CISセンタ 主任の中村将嗣氏は語っている。

中村 将嗣氏
日立製作所 情報・通信システム社
公共システム事業部 CISセンタ 主任
中村 将嗣

 このバーコードからのデータは、ICタグを導入し図書館でも蔵書のデータベースとして活用されており、ICタグとの紐付けによって書籍の貸出や返却の管理に役立っているという。

 では、最近導入が進んでいるといわれているRFIDなどのICタグは、どのような目的、どのような利便性が評価されて採用が進んでいるのであろうか。

 まず考えられることは、システムを導入することによるセキュリティの向上が挙げられる。入退館口にBDS(ブックディテクションシステム)ゲートを設ければ、不正な持ち出しに対してアラームが鳴るだけではなく、一定の抑止力としての効果もあるという。この点は、バーコードで管理しても盗難防止ができないという欠点を払拭する意味でも大きなポイントになる。

 また、ICタグの導入によって、管理面を含めた生産性の向上が見込めることも大きな利点だ。特に、自動貸出機を併用することで貸出窓口の人員削減が可能になり、図書館本来の業務である照会・照合の向上が実現できることになる。このサービスレベルの向上は、今後の図書館にとって、最も力を入れていかなければならない部分と考えられている。

 その大きな理由が、海外と比較した時の日本のサービスレベルの低さにある。本を置くスペースや陳列に関しても、海外の図書館の方が利用者を喜ばせるように努力しているという。子供が来ても楽しめるよう、本に慣れさせる環境が作られており、多岐にわたる図書館サービスが充実している。

 システム導入や機器導入で、作業を代替できる部分は機械化し、司書や図書館員が本来の力を発揮できるようにするためにも、ICタグのさらなる普及が望まれるところだ。

 当初、ICタグ導入がセキュリティ目的のように受け取られていたようだが、実際の運用面では管理の効率化による利用者サービスの向上を大きな効果としてもたらしていることになる。

 これは、「図書館システムを実動し始めた当初は職員向け中心だったが、現在は職員がユーザーに視点を置いてきた結果」と語るのは、京セラ丸善システムインテグレーション 本社営業本部 副本部長の田中勇氏だ。しかも、同社の図書検索システムでは、全文検索ができるようになっており、「タイトルや見出しなどに関連する用語が含まれていれば、検索結果として探し出すことができる」と、その利点をアピールする。ここでは、書籍の情報がどれだけ掲載されているかが重要で、情報が適切に整理されているかによって、検索の精度が変わってくる場合もあるという。

田中 勇氏
京セラ丸善システムインテグレーション
本社営業本部 副本部長
田中 勇

2種類の規格が存在するICタグ

 現在、ICタグの普及率は図書館全体の数%である。図書館職員数が減っている中で今まで以上のサービスを提供しなければならないという事情があり、ICタグの導入の声は挙がっているが、導入が進んでいないのも事実だ。とりわけ東京23区でのICタグ導入は進んでいるが、地方都市になるとコスト面や導入体制の問題があり、導入が遅れているのが現状だ。

 導入されているICタグとしては、現在2種類の規格が提案されている。導入件数では、13.56MHzのRFIDが最も普及しているが、2.45GHzのICタグはその読み取り速度の速さで対抗している。

13.56MHzタイプは写真1のような形状をしており、一般的には書籍の裏表紙の内側に貼付されて使用されていることが多い。図書用のシールになっている製品もあり、貼付はしやすい。初めて導入する時は、館内の図書全数に貼付する作業が必要になるが、図書流通センターではその作業も含めて請け負うといったサービスも行っているという。一般的には外部委託により、短期間での対応ができるので、作業性の良さが有利に働いてくる場合もある。

書籍用ICと金属メディア(CD / DVD等)用のICタグ ICタグと感知マーカーを一体化したコンビネーションテープ
左: 写真1 書籍用ICと金属メディア(CD / DVD等)用のICタグ
右: 写真2 ICタグと感知マーカーを一体化したコンビネーションテープ

 もう一方の2.45GHzタイプを代表するのが、写真2のようなコンビタグだ。住友スリーエムと日立製作所が共同開発した3Mタトルテープ感知マーカーとミューチップを組み合わせたタグで、極めて小さく薄いというのが特徴になっている。「2.45GHzでは通常1m程度は電波が飛ぶが、ミューチップの場合は、あえて、アンテナを小型化しているため、電波は40cm程度しか飛ばない。そのため、図書館用としては、タトルテープと組み合わせることで、蔵書点検などの業務効率化とともに持ち出し管理も実現している」と日立製作所 情報・通信システム社 セキュリティ・トレーサビリティ事業部 トレーサビリティソリューション本部 トレーサビリティソリューション部の鶴哲生氏は説明する。

鶴 哲生氏
日立製作所 情報・通信システム社
セキュリティ・トレーサビリティ事業部
トレーサビリティソリューション本部
トレーサビリティソリューション部
鶴 哲生

 さらに、「ミューチップはIDしか持っていないので、読み取り速度が極めて速い特徴をもち、蔵書管理で効果を発揮する。貼付してもその存在がわからないほど小さいことで、書籍や資料を傷めないこともユーザーからは評価が高い」と日立製作所情報・通信システム社 セキュリティ・トレーサビリティ事業部 事業企画部 主任の吉田達也氏が補足する。特に、ミューチップは書き込みができないので、よりセキュアな環境を提供できるという。

吉田 達也氏
日立製作所 情報・通信システム社
セキュリティ・トレーサビリティ事業部
事業企画部 主任
吉田 達也

 その貼付に関して、日立製作所 情報・通信システム社 公共システム営業統括本部 全国公共営業本部 公共営業第八部 地域ビジネス推進G 全国図書館拡販担当 主任の本間直樹氏は、「コンビタグの形状は細長小型であることから、自然と貼り付ける場所は書籍や資料の情報が存在しない場所(背表紙など)に決まる。そのため、貼り付け場所をどこにするかなどを悩む必要もなく、結果として貼り付けの作業が楽になると聞いている」と、ハンドリングの良さをアピールする。

本間 直樹氏
日立製作所 情報・通信システム社
公共システム営業統括本部 全国公共営業本部
公共営業第八部 地域ビジネス推進G
全国図書館拡販担当 主任
本間 直樹

 いずれのタイプにしても、データベース上はバーコードと本のデータが紐付けされていて、そこにより効率を上げるためのRFIDを追加した形になる。「バーコード」「書籍名」「RFIDのID」の3つが紐付けされることで、1つの書籍が管理されるといった仕組みだ。

 RFIDにより、館内で所在不明になった書籍を探し出すときにも、書籍のデータを利用して、書架を読み取り機で検索すれば、短時間で迷子本を探し出せる。特に、ミューチップでは、1時間に2~3万冊の読み取り速度で検索ができるので、資料を探すには好都合で、このシステムは企業の資料管理や公的資料の検索にも活用できるという。

 蔵書確認作業の迅速化は、管理目的のための閉館日を少なくすることにもつながっている。日立製作所が納入した東北大学の資料室の例では、これまで蔵書点検に3日ほど閉室していたものを、現在は閉室ゼロを実現している。業務をしながら並行して点検が行えるためで、学生や研究者からも好評だという。

監視カメラとの併用も視野に

 管理目的が注目されるICタグだが、物理セキュリティに対するユーザー要求に応じ、入退館ゲートのほか、監視カメラと連動したシステムも登場している。公共図書館で監視カメラを導入している施設は少ないが、新しく建設される図書館では導入する傾向が見られるという。いずれにしても、他の公共機関と比べると図書館の導入数は極めて少ない。

 元々、図書館がシステム化した理由はセキュリティの問題とは異なっている。アメリカでシステム化が進んできた理由は、蔵書管理であり、蔵書が非常に多くなったことで、カードによる管理から電子管理に切り換え、システム化が進んだという経緯がある。一方、日本の場合は、蔵書の管理より貸し出しに対応する目的でシステム化したという経緯がある。図書館は、蔵書管理と利用者奉仕の2つの柱があるが、アメリカと日本ではシステム化した目的がずれているのもその理由としてあげられよう。

 また、監視カメラ導入の理由として、いたずら防止がある。以前は監視カメラを導入していても作動させていなかったケースもあったようだが、最近は確実に起動させて監視を行っているという。受付台に非常用のベルを置き、危機管理をしている図書館もある。

 カメラは監視目的に入れることが多く、安全性と盗難を考えて導入しているケースがほとんどである。以前はカメラを導入することで利用者を犯罪者扱いするといった苦情もあったといわれるが、最近はその件数が激減し、カメラ設置台数は少ないものの、何らかの形で採用する図書館が増えてきたという。ただし、比率的には極めて低く、BDSゲートと同程度の約1割の採用率が現状のようだ。

図書館システムの市場規模

 では、ICタグを中心とした図書館システムとしては、どの程度の市場規模があるのだろうか。

 その対象として考えられる図書館の枠は、公共図書館3,126館、大学専門図書館1,660館である。その他にも国や医療専門図書館などが365館ある。およそ5,000館ほどが、市場対象となっている。これとは別に、小中高校の学校図書館が40,000近くある。

 導入率は、現在7~8%程度のIC化率で、2005年までは年に数件しか導入実績がなかったものの、ここ3、4年は案件が非常に多くなっていると各社とも口を揃える。リプレイスや新築の場合には、必ず検討されるシステムで、新館移転やリニューアル移転の時がシステム導入の最高のタイミングと見ている。

 特に、蔵書が50万冊以上の大規模図書館は、各社がしのぎを削る最大の市場になっている。しかしその割合は全体の10%ほどで、熾烈な売り込み競争が展開されることになる。

 中でも公共図書館に関しては、システムが導入されていない施設が80%強で、今後の対象になると予想されている。その施設でも、すでにバーコードによる蔵書管理は行われており、RFIDなどを導入すれば、業務改善がスムーズに実行できることになる。

 これらを総合して考えて、図書館システムの市場規模を10億円程度と推定する。

 では導入がなかなか進まない理由はどこにあるのか。果たして、予算や人事の問題だけなのだろうか。費用対効果が叫ばれる中、ICタグやRFIDを導入することで蔵書点検が速くなるというメリットが生まれるだけではなく、自動貸出ができるという利点がある。その反面、ICタグやRFIDが壊れてしまうという問題もあるため、進展著しいRFIDの技術革新の様子をもうしばらく見ていようという動きもあるようだ。

 RFIDがブームとなった5、6年前では、すべてを解決できるという風潮があった。しかし、現実は壊れる可能性があるため、バックアップやメンテナンスなどをどうしていくかといった様々な問題が出てきた。故障以外では、金属を使っているために水に弱いという問題もRFIDにはある。

 また、導入初期に発生する貼付作業などの初期費用の負担の大きさも問題視する向きもある。各メーカーとも、基本的には切り離して考え、外部委託を利用するように提案しているようだが、予算との絡みで一朝一夕には行かないようだ。

ICタグ利用と新しい図書館のカタチ

 業務の効率改善など、利点の多いICタグだが、水に弱く金属との干渉に弱いなどといった欠点が挙げられている。

 確かに水に関しては今のところ解決策はないようだが、金属の問題に関しては解決済みと各社が口を揃える。一部のICタグでは、まだ高価ではあるもののCDやDVDにも貼付できるタイプが登場しており、金属遮蔽や金属による読み取り時のループ弊害などを見事に解決したと考えられる。

 その上での今後の課題としては、「利用者サービスの充実目線に立ち、いかにローコストで、多彩な要求に合わせた提案できるかが、システム普及の決め手になると考えている。システムの導入件数が増えることは、さらなるローコスト化と新しい付加価値を推進できる」と、内田洋行 教育システム事業部 ユビキタスライブラリー部 部長の中賀伸芳氏は将来を見据える。

中賀 伸芳氏
内田洋行 教育システム事業部
ユビキタスライブラリー部 部長
中賀 伸芳

 また、中国や韓国では導入が進んでいる生体認証システムの導入に関しても、今後の課題となりそうだ。現状として導入はほとんどなく、利用者カードなどに頼っている。様々な利用シーンを考えていくと、利用者にいくつかの認証形態の中から、例えばカードと指静脈認証のように複数を選択できるようにしていかなければならなくなる日もそう遠いことではなさそうだ。このあたりの取り組みは、韓国の事情を研究すべきである。

 さらに、内田洋行の中賀伸芳氏は、「現在の展開に続く、第2段階の提案で、さらなるサービス向上に力を入れる」としている。そこには、韓国のように、地下鉄の駅や公共の場所での自動貸出なども視野に入っているという。

 従来のような、単に書籍を貸し出すだけではなく、いまや図書館は地域の交流の場としての機能を発揮するようになっている。図書館は利用者の幅が広いため、海外では若者や年配者、障害者ごとにシステムを構築し、それを共有させることが主流となっている。それらが有機的に結びつき、渾然一体となって機能するような次世代図書館システムのためにも、早期のICタグ導入が待たれる。

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